本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

作者

文字の大きさ
58 / 110
第四章 ハンカチ屋の様子見

1.今日もハンカチを

しおりを挟む

カイルのわんわん卒業腕ずもう大会から、もう三ヶ月くらい。
入学してから、もう一年経つんだなぁ。

長かったような、短かったような。


クラスでは、いつもの日常が戻ってきている。

相変わらずカイルはリーナと腕ずもうする。けど、ザムのところに行って話もするし、私に話しかけてくることも、ある。

ロザリーは、もうみんなの知っての通り。酒場で働く元気な子として認知されている。
お嬢様言葉は抜けないけど、中身はとても普通の女の子だって、みんなわかってる。
それに、リーナとおんなじくらい、なんでも知ってる。

だから、グループを組むときに、最初はリーナの顔色を伺ってたみんなも、今じゃ全然気にしないでロザリーに殺到している。


リーナも勉強はできるんだけど、一人でどんどん先に行っちゃうからなぁ。

私はちょっと、それを見るたびに心が痛い。入学してすぐ仲間はずれになっちゃったから、そうだよね、慣れちゃってるよね。

ごめん、リーナ。
見てるだけしか、できなくて。


今更言えない言葉を、呑み込む。
リーナはどうやって、はっきり謝らない様子見の人たちを許してきたんだろう。

様子見を。



私のお母さんは、ノーリス男爵家の侍女をしている。
私がいるから、毎日通いで昼間だけのお仕事にしてもらっている。本当は住み込みで貴族街にある従者用の離れに住まなきゃいけないんだ。ありがたいことだ。


と、いうことになっている。

実際は、やっぱりそっちにも部屋があって、お母さんは実はあまり平民の街に帰って来ない。
たまに帰って来る時には、いつもごめんね、と言いながら、そっと時間つぶしの端切れの布をたくさん置いていく。

やっぱり、自分だけ夜の宿直を代わってもらうのは、ちょっと無理らしい。


お金はたくさん頂いている。食べるものには困らない。うちにはお父さんがいないけれど、お金はある。だから、薪なんかの重いものは冒険者のひとに頼んで運んでもらっている。

生活には、困らない。

もう慣れたもので、今日もその人がやってきた。
こんこんこん、部屋の扉がノックされる。

「アリスちゃん、薪、持ってきたよ」

「はい、ダルクさん。今開けます」

扉を開けると、ヒゲをたくさん蓄えた、強そうなおじさんが薪を持って現れた。髪は深い緑色で、後ろで縛っている。
額に傷跡があるのが特徴だ。


「ここでいいかい?」

「はい。ありがとうございます」


ちょっとずつ、持ってくる薪の量が少なくなっている。
お母さんはいない。お父さんもいない。私は一人っ子だ。つまり、今、この部屋にはこの人と私だけだ。

言えない。

「ああ、疲れた。ねぇ、アリスちゃん。今日はごはんの残りもの、あるかな?」


椅子にどかっと座って、とんとんとテーブルを叩く。
いつものことだ。一度、ごはんを出したら、ずっとねだられるようになった。

今日もがつがつと、テーブルの上を散らかしながら食べている。

ごはんを食べ終えるまでの間、私は暖炉の前に座る。
無心で、布を、ハンカチに、する。

腰に隠したナイフに手を添えて。
今のところ、特に何もない。大丈夫。大丈夫だ。

ハンカチは、必要もないのにどんどん増えていく。

様子見は、私の得意技だ。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...