本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第四章 ハンカチ屋の様子見

2.朝の図書館

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私の朝は早い。

ごはんの支度、洗濯、掃除。お母さんはほとんど家にいないから、全部私の仕事だ。

あんまり遅く起きると、井戸の水汲みの時や洗濯場で、近所のおばさんに捕まって噂話をされたりする。
その会話の中で、さりげなく私のことを聞いてくるんだ。

そっちが目的で、仲良くなろうとしてるよね。
お母さんが、本当は帰ってきていないこと、近所の人なら気づかないわけがない。

話しても、噂のネタになるだけだ。何をしてくれるわけでもない。お母さんが侍女をしていて貴族街にいて、お金だけはあることは、みんな知ってる。

私の出自も、怪しまれている。
おかあさんが、おきぞくさまの、お手つきで私を産んだんじゃないかって。
いやそれどっちでもいいよ。私には、これからの展開の方が大事だ。

でも、顔には出さない。様子見は、得意技だ。


そうして、早く家の仕事を終えて、ハンカチも別に有り余っている時。私は、教会の図書館に行く。

この国のことを、少しでも学ぶんだ。
私の立場。お母さんの勤め先のこと。この先どうしたらいいのか。なんでもいい。情報が欲しい。切実に。

お母さんは、私に地味な格好をするようにしつこく言う。とにかく集団で目立つなと、言う。

お母さん自身も、太ることにかなり熱心だ。
おてつきになりやすいのは、美しく若い侍女。お母さんは、この世界の基準では若くはないけどまだ二十代。日本では結婚適齢期にあたる。

もし見た目で解雇されても、侍女というのは専門職だから、どこかでまた雇ってくれるから。だから、太るのだそうだ。
とても美味しそうに、余り物の甘いパンを沢山食べる。
……甘いものが好きなだけじゃ……ないよね?


そうして、最近になってやっと落ち着いた職場が、ノーリス男爵家だったんだ。


私のお父さんは、誰なんだろう。
お母さんは、やっぱりおてつき、されたんだろうか。多分、そうなんだろうな、
このまま、私も侍女として働いて、おてつき、になるなんて、嫌だ。


今日も、私が必死に貴族名鑑を読んでいると、ロザリーがやってきた。手前の英雄譚の物語の棚に座って、鎖のついた本を斜めの机に広げて読む。


ねえ、ロザリー。相談したいよ。
あなたは、どうやって、この世界になじんだの?
この先のストーリーを、どうするつもりなの?


あなた、悪役令嬢よね。
リーナに、もう既に負けてるよね。


私は、ゲームに出ても来ないモブだから、自由に生きられるけど。
あなたの運命は、決まってる。

居酒屋の件で、クラスで口走る数々の日本の言葉で。あなたが転生者であることはわかってる。


相談、しようかな。
でも、秘密を知ってるからって、消されるのも嫌だからな。公爵令嬢よね一応。私ごときひとひねりよね。

とりあえず、様子見だ。気配を消して音を立てないように、隠れて本を読む。

様子見は、私の得意技だ。

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