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第四章 ハンカチ屋の様子見
8.失意の帰宅
しおりを挟む「……わかりました。司祭様がそうおっしゃるなら、しょうがないですよね。ごめんなさい、おじかんを、いただいて」
ぺこりと頭を下げると、ロザリーから投げつけられたものがあった。
ぱしっと、受け取ると。それは真っ赤な魔石だった。
「それ、あげるから。危ないときは使って。よく、考えてね」
「……ありがとう」
これは、バレているのだろうか。私の本当の事情。
それでも教えられないって、やっぱり、そうだよなぁ。これは無理だわ。
リーナは、にこにこしながらこっちを見ている。
様子見を、している。
あれもリーナなりの、報復なのだろうか。
医務室で楽しく話したリーナは、嘘だったんだろうか。
……カイルは。おろおろするばかり。
かわいそうね。巻き込んでもいけないし。おうちに帰りましょう。
「ごめん。ありがとう。さようなら」
だっと、駆け出す。絶望感でいっぱいだった。
私は貴族に関わっている。スパイだと思われているんだ。
ただ、家でひとりだから怖くて強くなりたかっただけなのに。
気がついたら、教会にいた。
司祭様に話したい。私には私の事情があって、強くなりたいのだと。
どうして、私は魔法を覚えてはいけないの?
どうして、強くなってはいけないの?
どうして、しらないひとのいいなりにならなきゃいけないの?
はぁ、はぁ。
司祭様のお部屋は、いなかった。
だったら、礼拝堂だ。
礼拝堂のドアは、うっすら空いていた。
誰か、いる。
「ですから。ここに、栗色の髪の毛と栗色の目の色の女の子が、入学しているはずなんです。今年11才なんですが。あなたなら、ご存知ですよね?」
後ろしか見えないけど、高そうな服を着た白髪のおじいちゃん。
司祭様は、ふるふると首を振る。
「残念ながら、生徒が多いもので、心当たりが……。申し訳ありません」
おじいちゃんは、更に司祭様に詰め寄る。
「ならば、授業を見学させて頂きたい。必ずいるはずなのです。私たちが彼女をどれだけ必要としているのか、あなたはご存じない。今のうちに話しておいた方が、身のためですよ」
……脅しだ。いけない、ことだ。
様子見は、得意だ。
怖い。このひとは、怖いひとだ。
どうしよう。教会もダメだ。お母さんに会いたい。でも、お母さんがいる貴族街には、門を潜らないと行けない。通行証を、私はもっていない。
結局、とぼとぼと、家に帰ることになった。
うちは、大通の北側、比較的治安のいいところにある。お母さんが帰りやすいように、貴族街に近いところに住んでいるんだ。あんまり意味はないけどね。
下町みたいに、地域のつながりがたくさんはないから、うちみたいな事情のひとは住みやすい。
教会からも近いから、すぐに着いた。
そうして、長い階段を上がって、部屋にやって来ると。
「よう。遅かったじゃねえか」
……依頼もないのに、ダルクさんが、いた。
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