69 / 110
第四章 ハンカチ屋の様子見
12.最後の登校日 1
しおりを挟むそして、朝。
一日だけ待つと、ダルクさんは言ってくれた。最後の登校日だ。
昨日、どうしても持っていきたいものだけまとめた。それは、とても小さなカバンにおさまった。
どうせお貴族様用のものに、身の回りは全て変えられる。服などは置いていった方がいい。この部屋は、跡形もなく処分されるんだから。
お母さんとの思い出とわかるものは、持っていけない。おねだりして買ってもらった、きれいな石のネックレスだけ身につけ、服の中に隠した。
後は小さな鉄製の箱にしまって、朝早く。
教会の裏庭に、それを埋めた。
お母さんが匿われる教会に、置いておきたかった。
もうお母さんとは呼べなくなるけれど、私とお母さんは、ここで一緒にいるんだ。
その後、花壇の水やりのために、司祭様にじょうろを借りに行った。
ああ、今日もありがとう、と、いつも通りの返事が返ってきて、泣きたくなった。
そうして、しばらく井戸と花壇を行き来していると。
ははっ、と、明るい声が聞こえてきた。
「やっぱり今日も早いな。そんでやっぱり水やりすぎだな」
振り向くと、そこには茶色のくせ毛に、丸顔。澄んだ薄い茶色の瞳を細めた、カイルがいた。
「……あ、ほんとだね。またやっちゃった」
あははと声を上げる。
うまく笑えているだろうか。わからない。体のまんなかが、いたくて、よくわからない。
でも悲しいかな、様子見は得意だ。気づかれていないのは、すぐにわかった。
「程々にしとけよ。……なぁ、昨日のこと、あんま気にすんなよ。ロザリーが変に解釈してるだけで、お前にいじわるしろって司祭様に言われたわけじゃないらしいぞ」
もう、わかってる。私に力をつけさせたくないんじゃない。
私が妙な力をつけることで、学校に余計な詮索の目を向けられないように。
つまり、政変推進派にロザリーの位置を知らせないためだ。
ありがとう。やっぱり、優しいね。
「気にしてないよー。なんか危なそうだもん。やっぱりいいや。私はふつうでいいんだ」
あはは、と、笑う。大丈夫?笑えてる?
「ねえ、あの刺繍糸、本当にもらってていいの?」
今、鞄に入っているもの。いくつかのハンカチと、この刺繍糸だけ。たいせつなもの。
「だからいいって。裁縫得意だろ?気になるなら、俺にハンカチ刺繍してくれよ」
たいせつなもの。あなたは、しらないもの。
「えー、嫌だよ。もったいないもん」
使えよ!という声が、笑う声が、とても遠くに聞こえた。
私は、笑いながら走って、じょうろを返しに向かった。
目から出るお水がなくなるまで、司祭様の部屋に隠れた。
糸をもらって刺繍したハンカチを、わたす、いみ。
それがあいのあかしであることを、カイルはしらない。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる