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第四章 ハンカチ屋の様子見
13.最後の登校日 2
しおりを挟む声を殺して、目から出てくる水を枯らした。
もう、授業が始まる。ふつうに、出ないと。
息を吸って、止める。何回か繰り返すと、なんとかおさまった。目がじんじんする。
「アリス、こちらを向きなさい」
司祭様に声をかけられて振り向くと、ふっと手で視界を覆われた。
ふわっと風を感じると、目の痛みがおさまった。
「今日一日、大変だと思いますが、顔に出してはいけませんよ。何かあれば私のところへおいでなさい」
お礼を述べる。本当に感謝してもしきれない。
司祭様、ただのやんちゃなおじいちゃんだと思ってましたごめんなさい。本当に立派な方なのね。
教室に入る。
既にみんなは席についていた。ぱたぱたと急いで私も座り、授業を受ける。
いつものざわめき。カイルとザムのいつものケンカの仲裁をする。だれかが泣いてハンカチをわたす。
リーナの明るい笑い声、ロザリーの落ち着いたきれいな声。ニムルスのキレのいいつっこみ。
無垢な、みんなの、笑い声。
その中にありながら、今日は、なんだかとても遠かった。なにかが、とても、とおかった。
あっという間に、帰宅時間。そうだよね。お昼から夕方までだもんね、学校。こんなに短い時間だったんだ。
いつも通り、さようなら、と、みんなに挨拶する。
さりげなく、全員に。さようなら。
ロザリーに、赤い魔石を返した。
怖いと思ってた大人が、怖くないひとだったんだ。もう、大丈夫だから、って。
本当に大丈夫?とは、聞かれたけど。
にっこり笑って、大丈夫と、答えた。
ロザリーにも、リーナにも、ニムルスにも。
カイルにも。
さようならを、言った。
今のアリスの、さようなら。
次に会うときは、私は今のアリスでは、ない。
様子見は、得意だ。
大丈夫、気づかれては、いなかった。
最後まで、教会に残った。
剣術の授業を終えた子たちも、全員帰った後、ダルクさんがやってきた。
お母さんが一緒だった。
時間は、なかった。
私を送り届けた後、秘密を知っているダルクさんは狙われる。お母さんが失踪したことも、知られる。
消されないように、すぐに闇に紛れて逃げなければならないそうだ。
抱きしめあって、最後のお別れ。
できるならいつか、教会にお祈りしに来ると、約束した。
私は、自分で自分に猿ぐつわをして、両手足を縛られて、ダルクさんの用意した布の袋に自ら入った。
暗闇の中で、ペンダントと刺繍糸が入ったカバンを、必死に握りしめた。
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