本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

作者

文字の大きさ
83 / 110
第五章 婚約志望者の秘密

13.初仕事 2 報告

しおりを挟む

話は大体わかってきた。

名前は姉ちゃんが記録から調べたからわかってる。

ダルク。中年の冒険者で、王都の細々とした仕事をしている。
という建前の、便利屋だ。
王都には一定数いる。

依頼を出すくらい金のある人間の中から、後ろ暗い依頼を、ギルドも介さず受ける闇業者。

冒険者ギルドには、そういうやつは滅多に顔を出さない。だから、風貌や髪の色なんかは重要な情報だ。



深緑の髪、少し長めで後ろに結わえている。額に傷。体は大きめ。声は低く、荒っぽい話し方をする。あと、特徴的なのは、肩を揺らして歩く歩き方。



おばちゃん、ありがとう!

俺は家に帰って、少し身ぎれいな格好をして、とりあえずリーナの家で食事中の親父に報告に行った。

「おお、来たか。座れ」

カウンターの隣の席を勧められる。高さがあるから、ちょっとよじ登る形でなんとか座った。

「あら、ニムルス?珍しいわね。あなたも食事?」


カイルはもう帰っている時間。リーナはまだ降りてきていない。ロザリーがだいぶ慣れてきたので、リーナは少し自由時間をとってから仕事を始める。

「うん、ちょっとね。焼きたての肉が食べたくて」


「オーク肉の串焼きだな。ちょっと待ってろ。ロザリー、ここから直接渡すから、構わなくていいぞ」

はーい、と言って、ロザリーは他のテーブルへ接客に向かった。


ずいぶん慣れたもんだ。あのロザリーが。

「人間、何が合ってるかわかんねぇもんだな。楽しそうだ」

少し嬉しそうに親父が言う。
うん、親父と同類かもな。貴族の生活より、平民街で気楽に過ごすのが、肌に合うのかもしれない。ロザリーの顔は、以前より穏やかになった。

「……貴族ってなんなんだろう。わかんなくなるよ」

ぽつりと本音が出た。本当に、何してるんだ俺たちは。王族なんかじゃなかったら、目立ってもよかったなら、もっと思いっきり生きられるのに。

がしがしと頭を撫でられる。うう、それやめろよ。俺もう11才なんだぞ。


「……すまんな。自由にならなくてよ」

親父。どうした。らしくねぇよ。

「別に。まあ、今日も、面白かったよ。やつの背格好がわかった。いつものとこに書いてあるから。これから下町に行ってみる」

大丈夫だよ。どうにもなんないのも知ってる。平民だって貴族だって、みんなその中でちゃんと生きてるんだもんな。
ちょっと両方知ってるから、へんな気持ちになるだけだ。目の前のこと、まずはやんなきゃ。


「……なんで下町なんだ」

カウンターの向こうから、ずいっとオーク肉の串焼きが差し出される。
リーナんちは、肉の値段が上がっても、変わんないな。おいしそうだ。

皿を受け取って、肉にかぶりついて、親父を見る。親父は、頷いた。おい、またディアスさんにしゃべってんのか。元パーティメンバーだからって喋りすぎじゃ。

負担にならないか心配になるけど、もう知ってるならしょうがない。

「半年、逃げてるんだ。人の少ない王都外の村なんかにいたら、目立ってしょうがないだろ。森に潜伏するにしても、ひとりで森の深いところまでは行けない。森の入り口近辺を半年もうろうろしてたら不審者まるだしだ。額に傷があるらしいから余計に目立つ。だから」

「木を隠すなら森の中、か。考えたな」

にやりと笑い、ディアスさんが肉を追加してくれた。かぶりつく。うまい。ほんとにうまい。
がっつきながら、へへ、と、ちょっとガキっぽい声が漏れてしまう。

初仕事。成功させるんだ。俺だって、役に立ってやる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...