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第五章 婚約志望者の秘密
13.初仕事 2 報告
しおりを挟む話は大体わかってきた。
名前は姉ちゃんが記録から調べたからわかってる。
ダルク。中年の冒険者で、王都の細々とした仕事をしている。
という建前の、便利屋だ。
王都には一定数いる。
依頼を出すくらい金のある人間の中から、後ろ暗い依頼を、ギルドも介さず受ける闇業者。
冒険者ギルドには、そういうやつは滅多に顔を出さない。だから、風貌や髪の色なんかは重要な情報だ。
深緑の髪、少し長めで後ろに結わえている。額に傷。体は大きめ。声は低く、荒っぽい話し方をする。あと、特徴的なのは、肩を揺らして歩く歩き方。
おばちゃん、ありがとう!
俺は家に帰って、少し身ぎれいな格好をして、とりあえずリーナの家で食事中の親父に報告に行った。
「おお、来たか。座れ」
カウンターの隣の席を勧められる。高さがあるから、ちょっとよじ登る形でなんとか座った。
「あら、ニムルス?珍しいわね。あなたも食事?」
カイルはもう帰っている時間。リーナはまだ降りてきていない。ロザリーがだいぶ慣れてきたので、リーナは少し自由時間をとってから仕事を始める。
「うん、ちょっとね。焼きたての肉が食べたくて」
「オーク肉の串焼きだな。ちょっと待ってろ。ロザリー、ここから直接渡すから、構わなくていいぞ」
はーい、と言って、ロザリーは他のテーブルへ接客に向かった。
ずいぶん慣れたもんだ。あのロザリーが。
「人間、何が合ってるかわかんねぇもんだな。楽しそうだ」
少し嬉しそうに親父が言う。
うん、親父と同類かもな。貴族の生活より、平民街で気楽に過ごすのが、肌に合うのかもしれない。ロザリーの顔は、以前より穏やかになった。
「……貴族ってなんなんだろう。わかんなくなるよ」
ぽつりと本音が出た。本当に、何してるんだ俺たちは。王族なんかじゃなかったら、目立ってもよかったなら、もっと思いっきり生きられるのに。
がしがしと頭を撫でられる。うう、それやめろよ。俺もう11才なんだぞ。
「……すまんな。自由にならなくてよ」
親父。どうした。らしくねぇよ。
「別に。まあ、今日も、面白かったよ。やつの背格好がわかった。いつものとこに書いてあるから。これから下町に行ってみる」
大丈夫だよ。どうにもなんないのも知ってる。平民だって貴族だって、みんなその中でちゃんと生きてるんだもんな。
ちょっと両方知ってるから、へんな気持ちになるだけだ。目の前のこと、まずはやんなきゃ。
「……なんで下町なんだ」
カウンターの向こうから、ずいっとオーク肉の串焼きが差し出される。
リーナんちは、肉の値段が上がっても、変わんないな。おいしそうだ。
皿を受け取って、肉にかぶりついて、親父を見る。親父は、頷いた。おい、またディアスさんにしゃべってんのか。元パーティメンバーだからって喋りすぎじゃ。
負担にならないか心配になるけど、もう知ってるならしょうがない。
「半年、逃げてるんだ。人の少ない王都外の村なんかにいたら、目立ってしょうがないだろ。森に潜伏するにしても、ひとりで森の深いところまでは行けない。森の入り口近辺を半年もうろうろしてたら不審者まるだしだ。額に傷があるらしいから余計に目立つ。だから」
「木を隠すなら森の中、か。考えたな」
にやりと笑い、ディアスさんが肉を追加してくれた。かぶりつく。うまい。ほんとにうまい。
がっつきながら、へへ、と、ちょっとガキっぽい声が漏れてしまう。
初仕事。成功させるんだ。俺だって、役に立ってやる。
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