本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第五章 婚約志望者の秘密

15.初仕事 4 下町の暮らし

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その日から、俺はカイルの家の片隅で眠るようになった。
ぼろぼろの毛布を選んで持ってきて、それにくるまってリビングの片隅で眠る。
家族五人、ぎりぎりの広さで暮らしているのに受け入れてくれて、本当にありがたい。

朝には、少ない食事を俺にも分けてくれる。
家に帰れば食べれるんだけど、それだと家出の言い訳が通用しない。申し訳なく思いながら頂いた。

その代わり、俺がディアスさんからもらってくる肉が、晩ごはんになった。
カイルの両親も、ディアスさんのところで親父と会っていることを知ってるらしく、見守っていてくれる。

……多分、親父が手を回したな。一回、あいさつにでも来たんだろう。カイルの送り迎えは今もしてるからな。
でないと、まともな家庭は家出息子をかくまったりしない。


なぜかカイルの親父さん、ライルさんは、カイルと同じ薄い茶色の瞳を輝かせて自分の仕事について語ってくれるようになった。
新しく登用された、白の騎士団についてだ。
俺が憧れている設定になってるのか?
まあ、いい機会だ。たくさん聞いておこう。
ほとんど知ってる話なんだけどな。

ディアスさんは特別だから、あの方は信用できると、繰り返し語っていた。
一応前のめりに聞いておいた。

ちくりと、心が痛む。
秘密。守ろうとすると、どうしても、こんなにまっすぐに、なれない。
カイルな家族のきれいな瞳が、汚れた俺をまっすぐに見つめてくる。

絶対に、迷惑をかけないようにしようと心に誓った。


学校には、ちゃんと家に帰って着替えてから行くから、誰にも気づかれていない。
ただ、親父の手伝いを始めたからといって、剣術の授業は出なくなった。

司祭様は、うんうんと頷いていた。

以前から言われてたんだ。君はもう、完成された技術があるから、他のことを学んだ方がいいって。

親父の、表向きは冒険者の仕事の見習いになったと思ってるんだろう。

その通りだ。表向きじゃなく裏のほうな。


余った時間で、少し教会を散歩してみる。


あの、太った新人の巫女さんが、廊下の掃除をしていた。
その胸にきらりと光る、緑の簡素な首飾り。
あれは、隠してはいるけど魔石だ。攻撃を弾く効果もあり、傷ができたら癒すこともできる。
エリサさんが贈ったのかな?順調ってことかな。

俺のことも見慣れたのか、こんにちは、と、挨拶をしてくれた。
俺もこんにちは、と、返しておいた。


どんな、気持ちなんだろう。

貴族の都合に翻弄されて、娘を守ろうと頑張って、それでもできなくて、命まで狙われて。
当然、アリスがどうしてるかなんて、知らないよな。


おしえて、あげたいな。


いや、いけない。それはエリサさんの仕事だ。
余計なことして邪魔しちゃダメだ。


俺は、俺の仕事をしなければ。


夜になり、いつものように肉を持って、カイルの家に行く。

あらあら、気を遣わなくていいのに、と、カイルの母親は俺の頭を撫でる。

くすぐったい。じんわりと心があつい。


それを振り払うように、にっこりと笑った。

「いいえ、お世話になってるんだからあたりまえです!あの、これだけじゃ役に立ってないでしょ?俺、水汲みくらいできるから!明日からやるからね!」

カイルの母親、カーラさんは、少し赤みがかかった茶色い瞳を細めて微笑んだ。
カイルが、ちょっとびっくりしてた。


ちくり、胸が、また痛んだ。
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