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第五章 婚約志望者の秘密
16. 初仕事 5 お手伝い
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兵士の家の朝は早かった。
まず、水汲み。これが一番きつい。
カイルの家は5階にある。家事の都合上、低階層の方が家賃が安いんだけど、年の近い子供が三人いるもんな。
カイルの妹のラーナちゃんは、カイルのひとつ下で、この秋学校に入学する。
赤茶色の瞳、ふわふわしたくせ毛。柔らかい印象だ。色素の薄いちょっと赤毛のかかった髪が、丸顔をしっかりして見せている。
ラーナちゃんは、いつもは朝の時間、ごはん作りのお手伝いや城門の外に薪を拾いに行ったり色々手伝いをしていた。
俺が家事を手伝うようになってからは、朝の時間はカイルの教科書を使って予習するようになっていた。
いつか、城の仕事をするのが夢なんだそうだ。
……ごめん、それ多分城の文官のことだと思うけど、平民の学校で最優秀の成績を出し、貴族魔法学校に推薦を受けて合格、卒業しないと平民じゃ、就けない職業なんだよな。
更に、貴族がゴロゴロいるから差別もひどいぞ?
どこまでわかってるんだろう?
でも、やる気をくじくようなことは言わない。
こんなに頑張ってるんだ。兵士の娘なんだから、どこかに働き口はあるはずだ。
無駄にはならない。頑張って大きくなれよ。
だから、応援の意味も込めて、薪集めも水汲みも率先してやった。
たんたんたん、階段を二段飛ばしで駆け下りて、井戸に向かう。
この時間は激戦だ。みんな水を汲むから、早く汲み終わって持って行って早く列に並ぶ、それをひたすら繰り返す。
……うん、下町に井戸、絶対足りてない。今度言わなきゃ。
「あ、ライルさんとこのいそうろう、だ!おはよー」
顔なじみの、近所の女の子だ。まだ5才くらいか。
「ああ、おはよう。今日はあったかいね」
継ぎの当たった、ちくちくする服の袖で、額の汗を拭う。
季節は、段々と夏に向かおうとしている。潜伏しているはずの奴は、どう過ごしてるんだろうか。
「えへへ、今日は私の方が起きるの早かったね!」
「はっ、運ぶ速さで抜いてやるよ」
この子とは、ちょっと水汲みライバルだ。少しだけ、素直に楽しい。
水を汲んだ瞬間、こぼれないか心配になるくらいの速さで駆け出すその子を、周りで食器洗いや洗濯をしている大人達はにこにこして見守っていた。
「ほら、早くいかないと負けちまうよ!」
ばしっと背中を叩かれて、笑い返して俺は階段を登っていく。
うん、馴染んでる、俺。ここは、外国からやってきた、肌の色も違う人間だって多い。俺の髪や目の色なんて気にする人はいない。ましてこんなに薄汚れてちゃな。
うん、やっぱり大丈夫だ。
「でもさ、おばちゃん。あんな小さい子がいつも外に出て大丈夫なのかな」
「ん?どうしたい」
「北の街の方でも、小さい女の子が急にいなくなったって聞いたよ。噂だと、このへんに隠れてるんじゃないかって」
はっはっは、と、笑いながらおばさんは否定する。
「このあたりでよそ者がいたらすぐにわかるよ。あんちゃんも新顔だろ?家出なんてするもんじゃないよ」
叱られてしまった。このへんに住んではいないのか、それとも元々このへんに拠点があったのか。……なら、ちょっと面倒だな。別の場所で聞いてみるか。
まず、水汲み。これが一番きつい。
カイルの家は5階にある。家事の都合上、低階層の方が家賃が安いんだけど、年の近い子供が三人いるもんな。
カイルの妹のラーナちゃんは、カイルのひとつ下で、この秋学校に入学する。
赤茶色の瞳、ふわふわしたくせ毛。柔らかい印象だ。色素の薄いちょっと赤毛のかかった髪が、丸顔をしっかりして見せている。
ラーナちゃんは、いつもは朝の時間、ごはん作りのお手伝いや城門の外に薪を拾いに行ったり色々手伝いをしていた。
俺が家事を手伝うようになってからは、朝の時間はカイルの教科書を使って予習するようになっていた。
いつか、城の仕事をするのが夢なんだそうだ。
……ごめん、それ多分城の文官のことだと思うけど、平民の学校で最優秀の成績を出し、貴族魔法学校に推薦を受けて合格、卒業しないと平民じゃ、就けない職業なんだよな。
更に、貴族がゴロゴロいるから差別もひどいぞ?
どこまでわかってるんだろう?
でも、やる気をくじくようなことは言わない。
こんなに頑張ってるんだ。兵士の娘なんだから、どこかに働き口はあるはずだ。
無駄にはならない。頑張って大きくなれよ。
だから、応援の意味も込めて、薪集めも水汲みも率先してやった。
たんたんたん、階段を二段飛ばしで駆け下りて、井戸に向かう。
この時間は激戦だ。みんな水を汲むから、早く汲み終わって持って行って早く列に並ぶ、それをひたすら繰り返す。
……うん、下町に井戸、絶対足りてない。今度言わなきゃ。
「あ、ライルさんとこのいそうろう、だ!おはよー」
顔なじみの、近所の女の子だ。まだ5才くらいか。
「ああ、おはよう。今日はあったかいね」
継ぎの当たった、ちくちくする服の袖で、額の汗を拭う。
季節は、段々と夏に向かおうとしている。潜伏しているはずの奴は、どう過ごしてるんだろうか。
「えへへ、今日は私の方が起きるの早かったね!」
「はっ、運ぶ速さで抜いてやるよ」
この子とは、ちょっと水汲みライバルだ。少しだけ、素直に楽しい。
水を汲んだ瞬間、こぼれないか心配になるくらいの速さで駆け出すその子を、周りで食器洗いや洗濯をしている大人達はにこにこして見守っていた。
「ほら、早くいかないと負けちまうよ!」
ばしっと背中を叩かれて、笑い返して俺は階段を登っていく。
うん、馴染んでる、俺。ここは、外国からやってきた、肌の色も違う人間だって多い。俺の髪や目の色なんて気にする人はいない。ましてこんなに薄汚れてちゃな。
うん、やっぱり大丈夫だ。
「でもさ、おばちゃん。あんな小さい子がいつも外に出て大丈夫なのかな」
「ん?どうしたい」
「北の街の方でも、小さい女の子が急にいなくなったって聞いたよ。噂だと、このへんに隠れてるんじゃないかって」
はっはっは、と、笑いながらおばさんは否定する。
「このあたりでよそ者がいたらすぐにわかるよ。あんちゃんも新顔だろ?家出なんてするもんじゃないよ」
叱られてしまった。このへんに住んではいないのか、それとも元々このへんに拠点があったのか。……なら、ちょっと面倒だな。別の場所で聞いてみるか。
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