96 / 110
第六章 ハンカチ屋奪還作戦
考え事は続く
しおりを挟むふぅ。目が疲れたわ。
ぱさりと、湿気を含んで少し膨らんだ革張りの本を閉じる。歴史の本は古いから、留め金をきちんと留めないと広がってちゃんと閉じてくれない。
でも、嫌いじゃないのよね。日本にはなかった、本当に古い本の手触り。革張りの表紙。勉強する気にもなるわ。なんだかわくわくするもの。
木でできたコップを手に取り、お水を飲み干して、脇に置く。ことりと、音が部屋に響く。
誰にも邪魔されない、静かな時間。私の家にはなかったものだ。いつも使用人が当たり前に部屋に出入りしていたから。
この時間は嫌いじゃない。私は元々、一人が好きだった。
こうこうと灯るランプの明かり。これは火魔法で、自動起動するようになっているらしい。
窓を開けると心地いい風が必ず入ってくる。
これも、風魔法。癒しの術につながる力。
人の身で、複数の魔法を使えるようになるのはとても珍しい。でも、この家の人たちはそれを簡単にやってのける。
本当に何なの、この家。
でも、下町に一番近い、最も南に位置する正規の飲食店なのだから、強い人が営業しているのは心強い。
ここより南には、人には言えない仕事をせざるを得ない人たちが、たくさん住んでいるものね。
例外は、兵士になった人たちくらい。それも危険がつきまとう仕事だ。
下の階の物音も落ち着いてきた。そろそろ店じまいね。私も寝ようかしら。
木で簡素に作られたベッドの上に、ごろんと寝転ぶ。
ベッドには、羊の毛をたっぷり詰め込まれた、エリサさんが布団と呼ぶ寝具が乗っている。
ちょっと違うとは思うけど。
これがまた、日本を思い出してとても落ち着く。
実家のベッドはやたらと広いけど、私にはちょっと硬い寝心地なのよね。
他の平民、ベッドを買えない家は、藁の上に布を掛けて眠るそうだ。
エリサさんがいてくれてよかった。
11年間過ごしたこの世界の文化も、頑張って馴染んできた。
それでも、17年過ごした日本の記憶も未だに色濃く残っている。この寝心地は、私の誰にも言えない部分をとても安心させてくれる。
部屋の狭さなんか気にならなかった。心が、とても安らかだ。
ここで働くのは贖罪なのに、私が救われてどうする。いつか、どーんと大きく恩返ししなきゃ。
そのためにも、リーナを、絶対に、幸せにするんだ。
貴族社会。
それは、子供を家の財として使う人種の巣窟だ。
リーナを幸せにするためには、私が貴族社会に戻らなければならない。
心配事はできるだけ片付けなきゃ。
私にハンカチを貸してくれた、あの子。みんなの周りをくるくると回って、気を遣ってばかりいた、あの子。
やっぱり最大の心配事は、あの子のことだ。
おそらく、アリスはカーライル家の正式な実子として表に出てきてしまうと思う。そのつもりであんなに無理に連れ去ったはずだ。
今の国王の治世をよしとしない、政変推進派。
私の実家とは敵対派閥。
手出し、できるんだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる