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SIDE:レオン
1.俺の婚約者
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■
「勉強会?」
「そう。同じクラスにいる侯爵家のご令嬢から誘って頂いたの。主宰は上級生の方なのだそうなのだけれど、私達の学年でも参加していいんですって」
「侯爵家の令嬢なんかと仲良くなったんだ」
「よく図書館で勉強しているのを見ていてくれたらしいの。それで、お声をかけて下さったのですって。すっごくお綺麗なのに気さくな方でね、所作も美しいし、令嬢として憧れちゃうわ」
頬を上気させて話す婚約者が眩しくて、レオンは目を瞬いた。
入学した王都の学園で、残念ながらレオンはSクラスになった婚約者と同じクラスにはなれなかった。
レオンのクラスはBだった。そしてこのBクラスには、地方を治める貴族家の嫡男が多かった。跡取りという将来の道がすでに決まっているからだろうか。貴族籍を失わない為にも自らの価値を高めるべく勉学にのめり込む、次男や三男の令息たちのような熱意のない者がほとんどだった。
勿論、嫡男といっても本当の高位貴族は別だ。幼い頃から国政を担うべく英才教育を受けた彼等彼女等で、Sクラスは埋められていた。
そこに唯ひとり選ばれた田舎貴族の伯爵家の令嬢がローラだった。
──ローラがSクラスに選ばれたと知った時は、一緒に喜べたのに。
今は素直に喜ぶことが難しくなっている。そんな自分に、少しだけ胸が苦しかった。
「勉強会の内容は領地経営についての討論がメインだそうですけれど、学園の授業に関する質問も受けて下さるそうなの。レオン様も一緒に参加しませんか?」
「俺は、いいよ。やめておく」
その授業に関する質問を上手くすることすらできそうになかったし、あまりに低いレベルの質問をするのも恥ずかしい。
絶対に、ローラの足を引っ張ることになる。そんな自分が思い浮かんだ。
レオンは元から勉強があまり好きではなかった。
勿論、領地に関することは沢山知っていると自負している。
旨いチーズの作り方。旨いチーズが作れる、濃い牛乳を出す乳牛の育て方。牛の出産の補助。
農場の管理や夏の水の配分や、雪の季節の過ごし方。
領地を治める者として必要とされる知識は、幼い頃からずっと領地で教わってきた。
学園を卒業して戻ってからも、領地で暮らす領民や両親から教わっていくつもりはある。
だが、商取引に必要な法律や計算はともかく、学園でかなりの時間を割いて教わるこの国の歴史や近隣国の情勢や高度な数学などは正直なところ必要ないのではないかと思っていた。
「ローラは、知ること自体が好きだもんな。俺には構わず参加しておいでよ」
ふたりでいる時間が少なくなるのは嬉しくなかったけれど、侯爵家との繋がりができるのは、一次産業がメインとなる田舎領主家としては得難いものであった。
「え、レオン様は、参加なさらないのですか?」
「俺は、いいよ。他に、やりたいことあるし。行っておいで」
正直、ローラから“レオン様”と呼ばれるのも落ち着かない。心の距離を感じる。
けれど婚約者として正しい呼び掛け方だと教えられたと言われてしまえば、レオンに覆せる訳もない。
だから正しい婚約者としての態度らしく、重ねてローラだけの参加を勧めると、ローラは春の緑のような瞳を輝かせて頷いた。
──かわいい。寂しいからやめろとか言わないで良かった。
勿論、この時のレオンには他にやりたいことなんてなかった。
なんとなく見栄を張っただけだ。
勉強会への参加を後押ししたことを、後になって死ぬほど悔やむと、この時のレオンはまったく思っていなかった。
「勉強会?」
「そう。同じクラスにいる侯爵家のご令嬢から誘って頂いたの。主宰は上級生の方なのだそうなのだけれど、私達の学年でも参加していいんですって」
「侯爵家の令嬢なんかと仲良くなったんだ」
「よく図書館で勉強しているのを見ていてくれたらしいの。それで、お声をかけて下さったのですって。すっごくお綺麗なのに気さくな方でね、所作も美しいし、令嬢として憧れちゃうわ」
頬を上気させて話す婚約者が眩しくて、レオンは目を瞬いた。
入学した王都の学園で、残念ながらレオンはSクラスになった婚約者と同じクラスにはなれなかった。
レオンのクラスはBだった。そしてこのBクラスには、地方を治める貴族家の嫡男が多かった。跡取りという将来の道がすでに決まっているからだろうか。貴族籍を失わない為にも自らの価値を高めるべく勉学にのめり込む、次男や三男の令息たちのような熱意のない者がほとんどだった。
勿論、嫡男といっても本当の高位貴族は別だ。幼い頃から国政を担うべく英才教育を受けた彼等彼女等で、Sクラスは埋められていた。
そこに唯ひとり選ばれた田舎貴族の伯爵家の令嬢がローラだった。
──ローラがSクラスに選ばれたと知った時は、一緒に喜べたのに。
今は素直に喜ぶことが難しくなっている。そんな自分に、少しだけ胸が苦しかった。
「勉強会の内容は領地経営についての討論がメインだそうですけれど、学園の授業に関する質問も受けて下さるそうなの。レオン様も一緒に参加しませんか?」
「俺は、いいよ。やめておく」
その授業に関する質問を上手くすることすらできそうになかったし、あまりに低いレベルの質問をするのも恥ずかしい。
絶対に、ローラの足を引っ張ることになる。そんな自分が思い浮かんだ。
レオンは元から勉強があまり好きではなかった。
勿論、領地に関することは沢山知っていると自負している。
旨いチーズの作り方。旨いチーズが作れる、濃い牛乳を出す乳牛の育て方。牛の出産の補助。
農場の管理や夏の水の配分や、雪の季節の過ごし方。
領地を治める者として必要とされる知識は、幼い頃からずっと領地で教わってきた。
学園を卒業して戻ってからも、領地で暮らす領民や両親から教わっていくつもりはある。
だが、商取引に必要な法律や計算はともかく、学園でかなりの時間を割いて教わるこの国の歴史や近隣国の情勢や高度な数学などは正直なところ必要ないのではないかと思っていた。
「ローラは、知ること自体が好きだもんな。俺には構わず参加しておいでよ」
ふたりでいる時間が少なくなるのは嬉しくなかったけれど、侯爵家との繋がりができるのは、一次産業がメインとなる田舎領主家としては得難いものであった。
「え、レオン様は、参加なさらないのですか?」
「俺は、いいよ。他に、やりたいことあるし。行っておいで」
正直、ローラから“レオン様”と呼ばれるのも落ち着かない。心の距離を感じる。
けれど婚約者として正しい呼び掛け方だと教えられたと言われてしまえば、レオンに覆せる訳もない。
だから正しい婚約者としての態度らしく、重ねてローラだけの参加を勧めると、ローラは春の緑のような瞳を輝かせて頷いた。
──かわいい。寂しいからやめろとか言わないで良かった。
勿論、この時のレオンには他にやりたいことなんてなかった。
なんとなく見栄を張っただけだ。
勉強会への参加を後押ししたことを、後になって死ぬほど悔やむと、この時のレオンはまったく思っていなかった。
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