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5.だって今の私、悪役令嬢ですし♡

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「おい、平民。その女はもう貴族令嬢などではない。庇いだてなどする必要はない。こちらに寄越せ。身の程を弁えさせねば」

 迫りくる王太子の手に怯えたフリをして身を固くすると、するりと後ろに庇われた。



 うーわー。スマートそしてクール。なによりエロい。

 わざとぼっさぼさにした髪が靡いたその向こうに、きりりと引き締まった顎が見える。

 大き目の唇は薄い。その薄い唇を、朱い舌がちらりと舐めた。 

 大きく息を吐いたと思うと、「力づくで乙女の尊厳を奪うのは、趣味じゃないな。興を削がれる」

 それ、ヒロインが言われる奴ですやん(混乱)

 

 ワドが、胸元から組紐を胸元から出して口に咥えた。

 そのまま流れるような仕草で大きな手で前髪を掻き上げ、後ろのぼっさぼさだった髪と一緒に手漉きで纏めて、その組紐で結ぶ。

 生組紐咥えスチル、イタダキマシタ。

 黒髪長髪オールバックの無造作ヘアへと一瞬で生まれ変わったワドが、最後の砦となった分厚い眼鏡を外し、姿勢を正した。



 そこでようやくヒロインが動いた。

 私が飛び込んだ腕の持ち主が、真なる隠し攻略対象であるエドワルド・ランドーリアその人だと気が付いたのだろう。

 くっくっくっ。しかし、もう遅いんだぜ?



 せっかく庇ってくれた逞しい背中から出ていくのは、後ろ髪を引かれる思いがする。

 でも、できるだけ美しく見えるように胸を張って一歩前に踏み出した。



「ありがとうございます。でも、いいのです。……確かにわたくしは、公爵令嬢としても、王太子殿下の婚約者としても不適切な対応を取ってしまいました。恥ずべき行為を取ってしまったと、後悔しております。申し訳ございませんでした。慎んで、ゲストール・グラン王太子殿下との婚約破棄をお受け致します」



 令嬢らしく、美しい所作で頭を下げる。

 うむ。周囲が息をのんでこちらに注目するのが楽しい。

 私が素直に自分の非を認めると思わなかったのだろう。それに周囲の頬が赤いな?

 ふふ。見惚れるがいい。いまの私はアルテシア・シンクレア公爵令嬢。18禁乙女ゲーム『その聖女は淫靡な夜露に濡れる』内では光の聖女とも呼ばれ、そのエロボディには定評のある美貌の悪役令嬢その人なのだ。

 あ。光の聖女っていっても魔力うんぬんは関係ない。単なる教会への貢献度で選定される名誉職だ。つまりは実弾(金)だね。

 王太子殿下の婚約者として恥じない存在となるために、父であるシンクレア公爵が頑張っちゃったということだ。もちろん汚い金である。悪役令嬢の実家だし。そういうものよね?

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