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5.尋常に勝負☆
しおりを挟む「ハンデをくれ。俺は素人だ。国の英雄サマと真正面からやり合って勝てる訳がない」
「私は武器の使用なし。ハンス様はお好きな武器をお使い下さい」
リンデはそういうと、部下に指示をだしても軽い模造刀からリンデ愛用のハルバートまで、その場で持ってくることのできる武器各種をその場に取り揃えさせ、縄を解かせた。
ハンスはあきれた瞳で目の前に並べられた安っぽい剣と宝刀と呼んでも差し支えなさそうな名剣を両手に持って感触を確かめた。
持ち方も素人まる出しだ。ただ闇雲に、次々と目につく武器を持っては振り廻していた。
「で? ハンデはそれだけか」
そうしながらも煽る様に男が呟けば、リンデは「ふむ」と悩んでみせた。
そうして、くるりと右足を軸にして左足で地面に円を描く。
「ハンス様の揮う武器が私に当たったら私の負け。また、私がこの円から足を踏み外して地に着いても私の負け、ということでは如何でしょう。」
「……俺の敗北基準は?」
「陛下をお待たせしておりますし、あまり時間も掛けられません私があなた様を捕まえられたらというのは如何でしょう」
「……時間がないといいつつ、制限時間を切る事はしない訳か。はっ、大した自信だ」
その煽りに返されたのは笑顔のみだった。
(もうひと声欲しかったんだが、まぁいいか)
ハンスは心の中で残念に思った。
「それと。私からは攻撃することは、ありませんのでご安心ください」
「は?」
「武器は決まったようですね。では。いざ、参る」
「攻撃しないって言ったのは、お前…」
だろう、ということはできなかった。
びゅう、と頭上ぎりぎりを風が吹きすさぶ。
いきなり纏めていた筈の髪がはらりと顔に掛かったのを理解したハンスはぞっとした。
見返して見てもリンデの手に武器らしいものは見当たらなかった。
しかも、武器を選んでいた自分が立っているのは彼女が足元に描いた円よりずっと離れていた。その距離約3ヤード(1ヤード=約91センチ)ほどだろうか。
それなのに、確かに彼女の指先には、自分が髪を纏めるのに使っていたタオルが握られていた。
「あら。目測を誤ってしまったようですね」
どうやったのかは判らないが、リンデがハンス自身を掴んで引き寄せるつもりであったことが分かって、慌てて距離を取った。
左手に持った片手剣を強く握りしめた。
「今のが攻撃じゃないっていうのか?」
反則だろうと軽口をたたきつつ、ハンスはタイミングを計っていた。
「攻撃ではありません。私には、ハンス様に怪我を負わせるつもりは毛頭ありませんので」
微笑んですらいるリンデの顔をハンスは睨みつけた。
「……俺の勝利条件は、将軍の足が円の外に着いたら。それまであんたの手に捕まらないでいる、ということだったな」
できるものならとでも挑発するように、ハンスのその言葉にリンデは目を眇めて微笑んだ。
「ちっ」
自分が次にどんな行動をとろうとも、決して勝てないと言われているような気がしてハンスは面白くなかった。
それでも、このまま何もせずにいるよりずっとマシだとふんぎりを付ける。
ふーっとひとつ大きく息を吐き出して、足場を確かめ、その手に握った剣を構えた。
改めて距離を取ったハンスとリンデの距離はおおよそ5ヤード。
先ほどのリンデの攻撃がどういったものだったのかまったく判っていないハンスにとって、その間合いがどれほどのものなのか全く判らなかったが、ハンスにとっての間合いには離れすぎている。
そう。片手剣では、無理だ。
間合いに入る為の一歩に見せ掛けて、ハンスは一気に反対方向、つまりは後ろへと跳んだ。
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