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第二章:誰がために鐘は鳴る
9.曇天の空に
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国民の期待を一身に背負った新しい世継ぎが生まれ出る事を国中が期待していたその思いの分だけ、死産の知らせは国民の心を重くした。
今にも雨が降りだしそうな、鈍色の空の下。
夫婦ふたりで送り出したいと、ひっそりと空っぽの棺を燃やした。
ピアは自分も一緒に燃やしてくれと泣き縋ってていた。
重く立ち込める雲を掻き分けるようにして昇りゆく煙に、あの子の幸せを祈る。
哀しみの鐘が鳴り響く。
遠くからでも見えたというその煙に、国中が喪に服しその痛みに泣き暮れた。
あの日から、全ての事が手につかなくなった。
産婆が手配した棺にすでに納められてからの母子対面となったピアは、その瞬間からずっと気が狂ったように泣き続け、今朝も声を掛けようと続き部屋である王太子妃の部屋を覗いた時には、まだぐずぐずと鼻を啜る音をさせていて挨拶をする気にすらなれなかった。
そんな風に泣き暮らす母としてのピアは哀れで、常に傍に寄り添い共に我が子の不運を嘆くべきだと思う。
それができたのなら、自分にとってもどれだけ救われたことだろう。
今の私は泣き続けるピアに向かって「あれは不義の子だったのではないか」と問い詰めないでいるのが精いっぱいなのだ。
ある時は確かに「ピアの血筋に彼の国の者がいたのかもしれない」という小さな希望に縋ることができた。
またある時は、ふとした拍子に自分以外に子のいない王と王妃に不信の目を向けてしまうこともある。そんな時はいっそ気が狂った方が楽なのではないかという狂おしい気持ちになった。
そうしてそんな気持ちから気を逸らそうとする時に限って、『そもそも自分の子ではなかったのではないか』そんな空恐ろしいことが頭に浮かんで離れなくなるのだった。
苦しい。誰の不義であっても、不義でなくとも。
不義ではなかったとしたら、あの日から今日までの自分の誠意のない冷たい態度についてピアに許しを請わなくてはならない。
──肌の色の違う、髪の色も瞳の色も、顔つきすら私達のどちらにも似ていない子供を産んだのは、ピアだというのに。
あまりに理不尽で醜い責める気持ちがふつふつと沸き起こるから。
だから、それ以外にも迫っていた恐ろしい事実に、気が付かなかったのだ。
国民の期待を一身に背負った新しい世継ぎが生まれ出る事を国中が期待していたその思いの分だけ、死産の知らせは国民の心を重くした。
今にも雨が降りだしそうな、鈍色の空の下。
夫婦ふたりで送り出したいと、ひっそりと空っぽの棺を燃やした。
ピアは自分も一緒に燃やしてくれと泣き縋ってていた。
重く立ち込める雲を掻き分けるようにして昇りゆく煙に、あの子の幸せを祈る。
哀しみの鐘が鳴り響く。
遠くからでも見えたというその煙に、国中が喪に服しその痛みに泣き暮れた。
あの日から、全ての事が手につかなくなった。
産婆が手配した棺にすでに納められてからの母子対面となったピアは、その瞬間からずっと気が狂ったように泣き続け、今朝も声を掛けようと続き部屋である王太子妃の部屋を覗いた時には、まだぐずぐずと鼻を啜る音をさせていて挨拶をする気にすらなれなかった。
そんな風に泣き暮らす母としてのピアは哀れで、常に傍に寄り添い共に我が子の不運を嘆くべきだと思う。
それができたのなら、自分にとってもどれだけ救われたことだろう。
今の私は泣き続けるピアに向かって「あれは不義の子だったのではないか」と問い詰めないでいるのが精いっぱいなのだ。
ある時は確かに「ピアの血筋に彼の国の者がいたのかもしれない」という小さな希望に縋ることができた。
またある時は、ふとした拍子に自分以外に子のいない王と王妃に不信の目を向けてしまうこともある。そんな時はいっそ気が狂った方が楽なのではないかという狂おしい気持ちになった。
そうしてそんな気持ちから気を逸らそうとする時に限って、『そもそも自分の子ではなかったのではないか』そんな空恐ろしいことが頭に浮かんで離れなくなるのだった。
苦しい。誰の不義であっても、不義でなくとも。
不義ではなかったとしたら、あの日から今日までの自分の誠意のない冷たい態度についてピアに許しを請わなくてはならない。
──肌の色の違う、髪の色も瞳の色も、顔つきすら私達のどちらにも似ていない子供を産んだのは、ピアだというのに。
あまりに理不尽で醜い責める気持ちがふつふつと沸き起こるから。
だから、それ以外にも迫っていた恐ろしい事実に、気が付かなかったのだ。
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