約束の、破滅の日

喜楽直人

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第一章:神の裁きは待たない

1-49.はじまりの終わり

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 すべてを終わらせる大弓を投げ捨て、この場から離れるために用意してあった馬に乗ろうとしていた男へ、女がずっと抱いていた疑問を問い掛けた。

「ねぇ。フィリアが213という可能性は、あったのかしら」
「ない」

「食い気味。完全否定ね」

「フィリア・ノーブルの死亡を確認したのは俺だ。なにより、フィリア達と213では生まれた年が違う。王太子や侯爵令嬢が生まれた時には、すでに213は救貧院で働かされていた。彼等と同じ歳のフィリアである筈が無い」

 213も207も、自分達の実際の年齢など知らない。
 だが、フィリアと同じ歳である王太子達が生まれた年にすでに捨て子として生きていた記録があるならば、フィリア・ノーブルである筈もないということだ。




「そう。……」

「お前も早く準備をしろ。時期にここにも毒が広がる」

「……どこへ行くの?」

「俺は、このまま旅に出ようと思う。死ぬまで、旅して終わるかもしれんがな」

「ふふっ。いいわね、それ。夏は寒い国へ行って、冬は暖かい国へ行くんでしょう? 悪くないわ」


「あぁ、いい考えだろう?」

 すっかり馬上の者となった男は、動こうとしない女に焦れた。
 馬も、落ち着かなげにいなないている。

「おい」

「私、彼女に置いていかれたんだと思っていた。けど、違うのね。好きに……生き方を、選べるよう解放されたのね」

「あぁ、きっとそうだ。だから」

「213がわたしを連れて行ってくれなくても、わたしが、追いかける」

「え?」


 それは、本当に女のものの声だったろうか。


「207? おい、207!! 207-ー!!」


 辺りを見回しても、崖から覗き込んでも。

 男には、誰の姿も、見つけられなかった。


「207!!!」

 ガンガンと頭で響く音は、男が泣き叫ぶ声なのか。
 張り裂けんばかりに激しく鼓動を刻む、心の臓から響く音なのか。

 それとも世界の終わりを告げる鐘の音なのか。

 誰も知ることはなかった。





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