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囀ずる鳥の声、窓にかかったカーテンからこぼれる柔らかな日差し。テーブルの上に置かれた小花柄の更には糖蜜のかかったパンケーキとほうれん草のキッシュ。ベーコンとソーセージが山盛りにのっている。

「…………」
「みゃう」

エアリーキャットのミーコが物欲しげにすりよってきたので、ベーコンをひと欠片やると、ミーコはすぐさまベーコンにがっついた。
だが、そんな可愛いらしい姿を見ても、今の俺の心はまったく晴れない。

それというのもーー、

「……ウェルが来ない」

そう、俺の護衛騎士であるウェルが、今朝に限ってまったく姿を見せないのだ。

普通、護衛騎士は主人の目覚める際には主人の部屋ですでに待機をしているのが原則だ。そして真面目なウェルは、その慣習を1日たりとも欠かしたことはない。俺が起きて身支度を整えるのときっかり同じ頃に、いつもウェルは部屋のドアをノックするのである。
なのに、今日は、ウェルが来ないのだ。

「……ヤバい。もしかしたら、とうとうウェルに愛想をつかされたのか……!?」

思わずテーブルにつっぷす俺に、傍らにいたエアリーキャットのミーコがいぶかしげな声をあげる。

「まぁ、冷静に考えたら、体調不良の部下にブラジャーの着用を勧めてくる上司がいたら、俺だって次の日には転職を考えるな……」

やはり、あれから俺と別れたウェルは、俺の視界内から外れたことによって快楽がひいて冷静になり、「薄々思ってたけど、やっぱりあいつは変態だな!」という結論に達したのではなかろうか?  そして仕事を辞める気だから、ここに来ないのではないだろうか!?
そういえば昨日も最後、なんか言いたげにしていたし! あれはやっぱり「よく考えたんですけど、明日からもう来なくていいですよね?」って言いたかったんじゃないだろうか!?

「でもウェルにそう思われてたとしても、ウェルにブラジャーを着用させたのは後悔してない……!」

だってウェルの恥ずかしがる姿、めっちゃかわいかったし!
ええ、俺は変態ですよ!  むしろもっと言ってほしい!  さあ!

「みゃーお……」

そんな俺を「救いようがないなこのクズ」みたいな顔で見てくるミーコ。
うう、わかってるよ。そうだよな。ウェルが来ないというなら、俺が行くしかないのは分かってるんだ。

……うん、今のはちょっとした現実逃避だ。
ウェルに愛想をつかされて逃げられたのなら、まだいい。

けど、もし――正面から「あなたが嫌いだ」と言われてしまったら、きっと俺は立ち直れない。

だから、それが怖くてウェルの元に向かう勇気がないから、馬鹿なことばっかりを一人で考えているのである。

「……くそっ。うじうじ悩んでても仕方がないか」

テーブルから席をたち、意を決してウェルの部屋に向かう扉へ向かう。

 護衛騎士は通常、主人の部屋の隣の部屋に自室を持つ。主人が寝ている際に間者に襲われても対応ができるようにだ。なお、複数の護衛騎士も持っている人間なら、筆頭の護衛騎士だけが主人の隣室をもらい、二位以下の護衛騎士は別の部屋をあてがわれるそうだ。俺は護衛騎士はウェルだけだから関係ないけどね。

そういうわけで、その例に漏れずウェルの部屋も俺の自室の隣にあり、俺の部屋の正面のドアから廊下に出なくとも、俺の部屋の右手にある扉から直でウェルの部屋に直で行けるようになっている。ウェルはいつもわざわざ廊下を回って俺の部屋に来ていたから使ったことのない扉だったが、今日、初めて使うことができるようだ。

「お、おはようウェル……起きてるか?」

ノックを三回したが返事がなかったので、声をかけながらドアを開けてみる。
ゆっくりと開けたドアは、キイィ、とかすかな軋音を響かせて開いた。


「っ……ぁ、ロストさま……?」


「!!?!?!」

待て、何が起きた!?

ドアを開けた向こう側ーー、
ウェルが真っ赤な顔でベッドの脇にしゃがみこんでいた。

「ウ、ウェル!?」

あわててウェルの元にかけよる俺。
そんな俺を、ウェルは定まらない視線でぼんやりと見上げている。

その服装はすっかりシャツがはだけ、昨日つけていたブラジャーが丸見えになっていた。上気してうっすらとピンクになった肌に、ピンクと黒レースのブラジャーの対比がすごくいやらしい。

だが、そんなことを言ってる場合じゃない。
見れば、ウェルは昨日と同じシャツとズボンのままだ。もしかして、あれから着替えてないのか? 着替える余裕もなかったのか? あの、いつも冷静でポーカーフェイスなウェルが?

「ロストさまぁ……」
「ウェ、ウェル。どうした、何があった?」
「おれ、だめです、昨日あれからずっと乳首がきもちよくて……」
「!!!??」

あれから、ずっと!?
えっ、ちょっと待って。嘘。うそだよね? 待って、待って。やばい、混乱している。
あれからずっと……ってことは、俺の部屋をでたのが15時過ぎくらいで、今が9時くらいだぞ。その間、ずっと魔眼の効力が発生しっぱなしだったってことか!?

「ロストさま……おれ、」
「大丈夫だ、ウェル。無理に喋らなくていいから、大人しくしていろ」

自分の体内の魔力の流れに意識を集中させてみると、確かに、かすかに魔力が消費され続けているのがわかった。だが、あまりにも微量な減りだったので、意識をしなければ気づかなかった。例えるなら、マジックポイントゲージが10秒に1ポイントずつ減っている感じ。
それでもある程度まで魔力が減れば気づいたんだろうけど、俺、伯爵家から「魔力を常時微量回復させる指輪」というマジックアイテムをもらっちゃってて、それをずっと見につけてるんだよね……だって、うっかりなくしたら怖いんだもん……。その指輪の能力と見事に相殺されて、魔力が消費されてることにまったく気づかなかったよ……。

ああ、くそ! とりあえず反省会は後だ。
俺はすぐに魔眼の効力を消すように念じた。

「っ……? あ……今、ちょっと楽になりました……」
「そうか、よかった。とりあえず、ベッドに横になろう」

俺はウェルの身体に手をまわすと、なんとかウェルを抱き起し、ベッドに横にならせた。ウェルの身体に触れた瞬間、雄臭い匂いが鼻をつく。見れば、ズボンの股間の部分がぐっしょりと濡れて色が変わっている。あれからずっと、乳首の強制快楽が続いていたんだ。イきっぱなしにも近い状態が続いていたんだろう。
とりあえず、湯あみの用意と、代わりの服だな。

違うんだ……俺はこんな拷問みたいな快楽責めをしたかったわけじゃないんだ。ただ、ちょっとだけウェルに生き恥をかかせて、あいつの表情が変わるのをみたいと思っただけなんだ。

俺は自分のうかつさを呪いながら、部屋から飛び出し、湯あみの用意をするべくセバスチャンの元へ向かったのだった。
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