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転居を機に職場も離れたサビネだったが、新たに就いた職場はやはり同じ雑貨店の店員をしていた。雇主が変わった以外はさして変化なく、慣れた作業をこなす彼女はすぐに店に馴染んだ。
半年ほど経った頃にはキッチン用品の担当を任されるようになって、益々やる気に満ちた。
「頑張らなきゃね!見た目より機能性を重視したものが選ばれる傾向があるわ」
張り切る彼女の背後から店主が声をかけてきた。

「デザインが良いものは値は張る、だが特別に便利な要素はない。この辺りの主婦は目が肥えているんだよ」
「あ、ティルデイン店長!そうですよね、使い勝手が悪いと買い替えになりますもの」
毎日使うキッチン用品は主婦は拘るものだ、ゆえに無駄な買い物はしないのだ。

「私も親元を離れて自炊を始めたばかりの頃は、ただ可愛いデザインばかりを気にして買ってしまって後悔しました」
「はは、そうか。うん、若い人はそういうものだよね」
気さくな店長はこうして誰彼隔てなく接して、支持や提案をしている。サビネよりほんの少し年上らしい彼はとても優秀らしい。

彼女は素直に店長を尊敬しているが本人は商会を営む親の威を借る若造に過ぎないと謙虚であった。そんな所も良いと密かに慕う心が芽生えつつある。他の女性店員も慕ってはいるが「なにをしても陥落しない手強い獅子」だと言って親密になることを諦めているようだ。



「店長は若くて遣り手だしモテるんだけど……色恋には興味がないようなのよ」
「まあ、そうなの?」
親しくなった同僚のひとりエリルと休憩のランチを共に摂りながら恋バナに花を咲かせる。恋破れ結婚すら諦めてしまったサビネは遠くから見守るだけで幸せだと思っている。

「サビネはどうなの?良いひとは?」
「え……うん、結婚を意識した人はいたけど無理だったわ」
「そうだったの、悪いこと聞いたわねゴメン」
「いいのよ、半年も前のことだわ、それに別れた相手の事には興味もないの」
スッパリ悪縁を切ったことを告白する彼女に対して「竹を割ったような人ね」と同僚はカラカラ笑う。

「うふ、私あなたのことを気に入っちゃった!なにかあれば相談に乗るよ」
「ありがとう、とても嬉しいわ。私も相談を聞くわよ」
「えへへ、その時はよろしくね」
こうして新しい生活の基盤と人との繋がりを築いたサビネは、とても恵まれた環境にいて幸せを噛みしめていた。



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