手癖の悪い娘を見初めた婚約者「ソレうちの娘じゃないから!」

音爽(ネソウ)

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ある春の日に散った

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二人の子供が転がるようにじゃれて歓声をあげていた。
淡い金髪を揺らす少女と、同じ髪色をした少年が蝶を模したオモチャを振りまわして遊んでいる。
長い竹ひごの先に白い紙製の蝶が揺れている。

「にいちゃま!本物の蝶がよってきたわ!」
「ほんとうだ!騙されてるな面白い」

求愛ダンスを踊る白い蝶にキャイキャイとはしゃぐ。そこへ母親らしい女性が追ってきて門の方はいけませんと窘めていた。

「ごめんなさい母様」
「ごめしゃい」

女性がふたりの子供の手を取って屋敷の方へ戻っていく、その後ろ姿に見覚えがあったルワンは思わず叫ぶ。
「オリヴィエ!?」


女性がチラリと怪訝な目でルワンの方へ向いた。
陽に透けて煌めき見事な金髪が風に揺れた。年を重ねてなお美しい顔、エメラルドの瞳がキラキラ光った。
一瞬目を眇めるとすぐ興味を失い彼女は屋敷へ歩を進めていった。

春風が吹き満開の桜を散らした、花弁の渦風が彼女の姿を隠す。
もう一度名を呼んだが彼女は二度と振り向くことはなかった。

公爵夫人と平民、その人生は交差することはない。

門兵に追い立てられルワンはトボトボと元来た道を戻った。
なにもかもが遅すぎた、反省しようが悲しもうがルワンは貴族に戻る術はない。

その薄汚い平民の横を豪奢な馬車が通り過ぎ、泥溜まりを跳ねて去って行った。
馬車は公爵邸に入る、精悍な顔立ちの男性が降り立った。

泥を被った平民はそれを払う気力もなく、ドロドロのまま歩いた。
選択肢を誤ったルワン、哀れなルワン、愚かなルワン。

彼の名を呼ぶ者は王都のどこにもいなくなった。




彼が王都から去り、数年後。

身元不明の遺体が国境近くの森で発見された。
それは共同墓地の無縁者としてひっそり埋葬されたという。


墓地周辺には見事な桜並木があった。青空の下、満開の桜が風に揺れて散った。



fin
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