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ルワンとミルフィ
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数々の失態を犯したルワンは伯爵邸から追い出された、貧乏伯爵から支援などなく無一文で路頭に迷うこととなった。
僅かな金子を持っていたのは妻になったミルフィだけ、しかし下女の給与は高いわけもない。
意に反して寝取ったような形になり公爵家はクビをなり紹介状も貰えない。
我に返ったルワンは「お前に騙された!卑しい平民の癖に!」そう罵り頬を叩きつけ彼女の僅かな財産を奪おうとした。
たまらずミルフィは叫び逃げ惑ったところへ警邏中の憲兵隊に保護された。
婦女暴行と強奪未遂でルワンは御用となる、獄中に入れられたルワンは子供のように泣き叫んだ。
かつて王子のようだと見惚れた彼の正体はただのクズと知って、ミルフィは2重に辛い思いをした。
悪戯心でドレスなど着ていたばかりに身を滅ぼした彼女、行く当ては実家だけだ。
平民街の端に彼女の生家はあった。
公爵家をクビになった報告を受けて両親はひどく落胆する。
「過ぎたことは仕方ない、とりあえず資金を貯めなさい。離縁が成立するまでは置いてやろう」
「……はい父さん」
裕福ではない実家だ、戻ってすぐに働き口を探す。
どんな仕事だろうと選ぶ余裕はなかった、朝から夜中まであらゆる仕事をかけ持ちして働いた。
懺悔の言葉を綴った手紙を公爵邸へ送ったが、未開封状態で送り返された。
皿洗いのバイトをしながら荒れた手をそっと撫でて溜息を吐く。
同僚の女子に幸せが逃げると揶揄われた。
「幸せなんて生まれてこの方感じた事ないわ……」
ミルフィはただ無心に働き、職場と寝るだけの家を往復する日々を送った。
真面目な彼女の姿勢を父は認めて簡易裁判所へ離縁を訴えてくれた、そして白い結婚が認められ、婚姻から2年後ルワンとミルフィは離縁が成立した。
不本意な婚姻から解放されて、ほんの少し明るくなった彼女はとある雑貨店のバイトに従事することになった。
こまごました雑貨は見るだけでも楽しく、ミルフィは張り切って働いた。
ある日、兎のモチーフの人気雑貨が仕入れられた、可愛らしい小物を棚へ並べるミルフィ。
「なんて可愛いのかしら」
ウキウキと心躍らせ商品を丁寧に磨く、そこへ店主の息子が声をかけてきた。
「お疲れさま、いつも頑張ってくれてありがとう」
「いいえ、仕事ですから……」
軽く会釈して作業へ戻るミルフィ、だが息子は立ち去らない。
「あの何か御用でしたか?」
なにか粗相でもしただろうかと彼女は顔を曇らせる、楽しい職場を失いたくないと思った。
「いや、違うんだ……その……よければこの後、お茶でもと思って」
微かに頬を染めて雑貨店の息子が言う。
予期しなかった言葉にミルフィは驚く、ありがとうございますと微笑んで了承した。
小さな街での小さな恋がはじまった瞬間だった。
***
獄中で離縁が成立した知らせを聞いたルワンは「やっと自由になったか、忌々しい平民め」と悪態を吐く。
己自信も平民だということを頭から抜け落ちている。
いまだに伯爵令息だと信じて疑わない、とうにミクソールの名は貴族名鑑から削除されているのを知らないのだ。
「父上は一時だけ厳しくしてるだけだ。俺もちょっぴり悪い部分はあったからな、刑期が終えたらすぐにオリヴィエと再婚約してやろう、ブサイクな上に傷物だからな縁談など来ないさ、我慢して俺が貰ってやるよ!フハハハ!」
ルワンは自分勝手な未来予想図を描いて笑っていた、見回りしていた看守はついに気が触れたのかと肩を竦めた。
「おい番号F1120、お前だけ作業が遅れているぞ。飯抜きにされたいのか?」
罵声と鞭が容赦なくルワンを打ち付ける。
「ひぃ!わ、わかってますよ!勘弁してください!」
涙声で詫びノロノロと用途不明な部品を組み立てていく、模範囚とはほど遠いルワンは仮保釈が不可能だった。
ミルフィと離縁してから約5年後、漸く刑期を終え釈放されたルワンは僅かな金子を受け取って伯爵邸へ急いだ。
辻馬車を乗り継ぎ懐かしき我が家へ……。
しかし見知った伯爵邸は見る影もなかった。
「な、なんだこれは!?なぜ我が家が農地になっている!」
腹が立って足元に生える葉野菜を踏みつけようとしたが、また器物損壊などで御用になるのは嫌だと止まる。
仕方なく今度はロックベル公爵邸へ向かうことにした、どちらにせよオリヴィエならば事情を知っているだろうと考えた。
「どうせ行く予定だったのだ、婚約を申し込んでそのまま世話になろう」
再び辻馬車に乗り込み公爵邸の近くまで乗りつけ走った。
見覚え有る門構えにホッとするルワン、だが門兵が違っていた。
「うぬ、さすがに7年経っているからな……くそ俺の顔を知らないと説明が面倒だな」
居住まいを正し門兵へ声をかけた。
さっそく不審者を見る目で睨まれる、少し怯むがルワンは声高に名乗った。
「俺はミクソール伯爵家3男ルワンだ、息女オリヴィエ嬢に会いに来た。執事長に伝えてここを開け」
偉そうな平民が来たとコソコソと話し合う門兵たち、渋々と1人が屋敷へ向かって行く。
待たされて苛立ったルワンだが先触れしてないので我慢した。
数分後執事長が現れた、あの時捕縛を命じた偉そうな男だった。嫌な予感がルワンを襲う。
「何用だ、御用聞きなら裏へ回れ」
「な!俺は貴族子息だぞ!馬鹿にするな!ミクソール家を侮るなど一介の使用人風情が!」
だがやはり執事長は相手にしなかった、そして残酷な真実を告げた。
「はてミクソール?大分前にとり潰しになった家だが……まさか騙りの下賤ではないだろうな?」
詐欺師扱いされたルワンは激高する。
「巫山戯るな!我がミクソールが潰されたなど……あ……ま、まさか?」
「何者かしらんが伯爵邸は農地になっているはずだ、その様子では心当たりがあるようだな」
執事長は小馬鹿にした嘲笑を浮かべてルワンを見る。
知っていてワザと対応していたのだ、ルワンは恥をかかされ顔を真っ赤に染める。
再び文句を言おうとした時、庭先から笑い声が聞こえてきた。
僅かな金子を持っていたのは妻になったミルフィだけ、しかし下女の給与は高いわけもない。
意に反して寝取ったような形になり公爵家はクビをなり紹介状も貰えない。
我に返ったルワンは「お前に騙された!卑しい平民の癖に!」そう罵り頬を叩きつけ彼女の僅かな財産を奪おうとした。
たまらずミルフィは叫び逃げ惑ったところへ警邏中の憲兵隊に保護された。
婦女暴行と強奪未遂でルワンは御用となる、獄中に入れられたルワンは子供のように泣き叫んだ。
かつて王子のようだと見惚れた彼の正体はただのクズと知って、ミルフィは2重に辛い思いをした。
悪戯心でドレスなど着ていたばかりに身を滅ぼした彼女、行く当ては実家だけだ。
平民街の端に彼女の生家はあった。
公爵家をクビになった報告を受けて両親はひどく落胆する。
「過ぎたことは仕方ない、とりあえず資金を貯めなさい。離縁が成立するまでは置いてやろう」
「……はい父さん」
裕福ではない実家だ、戻ってすぐに働き口を探す。
どんな仕事だろうと選ぶ余裕はなかった、朝から夜中まであらゆる仕事をかけ持ちして働いた。
懺悔の言葉を綴った手紙を公爵邸へ送ったが、未開封状態で送り返された。
皿洗いのバイトをしながら荒れた手をそっと撫でて溜息を吐く。
同僚の女子に幸せが逃げると揶揄われた。
「幸せなんて生まれてこの方感じた事ないわ……」
ミルフィはただ無心に働き、職場と寝るだけの家を往復する日々を送った。
真面目な彼女の姿勢を父は認めて簡易裁判所へ離縁を訴えてくれた、そして白い結婚が認められ、婚姻から2年後ルワンとミルフィは離縁が成立した。
不本意な婚姻から解放されて、ほんの少し明るくなった彼女はとある雑貨店のバイトに従事することになった。
こまごました雑貨は見るだけでも楽しく、ミルフィは張り切って働いた。
ある日、兎のモチーフの人気雑貨が仕入れられた、可愛らしい小物を棚へ並べるミルフィ。
「なんて可愛いのかしら」
ウキウキと心躍らせ商品を丁寧に磨く、そこへ店主の息子が声をかけてきた。
「お疲れさま、いつも頑張ってくれてありがとう」
「いいえ、仕事ですから……」
軽く会釈して作業へ戻るミルフィ、だが息子は立ち去らない。
「あの何か御用でしたか?」
なにか粗相でもしただろうかと彼女は顔を曇らせる、楽しい職場を失いたくないと思った。
「いや、違うんだ……その……よければこの後、お茶でもと思って」
微かに頬を染めて雑貨店の息子が言う。
予期しなかった言葉にミルフィは驚く、ありがとうございますと微笑んで了承した。
小さな街での小さな恋がはじまった瞬間だった。
***
獄中で離縁が成立した知らせを聞いたルワンは「やっと自由になったか、忌々しい平民め」と悪態を吐く。
己自信も平民だということを頭から抜け落ちている。
いまだに伯爵令息だと信じて疑わない、とうにミクソールの名は貴族名鑑から削除されているのを知らないのだ。
「父上は一時だけ厳しくしてるだけだ。俺もちょっぴり悪い部分はあったからな、刑期が終えたらすぐにオリヴィエと再婚約してやろう、ブサイクな上に傷物だからな縁談など来ないさ、我慢して俺が貰ってやるよ!フハハハ!」
ルワンは自分勝手な未来予想図を描いて笑っていた、見回りしていた看守はついに気が触れたのかと肩を竦めた。
「おい番号F1120、お前だけ作業が遅れているぞ。飯抜きにされたいのか?」
罵声と鞭が容赦なくルワンを打ち付ける。
「ひぃ!わ、わかってますよ!勘弁してください!」
涙声で詫びノロノロと用途不明な部品を組み立てていく、模範囚とはほど遠いルワンは仮保釈が不可能だった。
ミルフィと離縁してから約5年後、漸く刑期を終え釈放されたルワンは僅かな金子を受け取って伯爵邸へ急いだ。
辻馬車を乗り継ぎ懐かしき我が家へ……。
しかし見知った伯爵邸は見る影もなかった。
「な、なんだこれは!?なぜ我が家が農地になっている!」
腹が立って足元に生える葉野菜を踏みつけようとしたが、また器物損壊などで御用になるのは嫌だと止まる。
仕方なく今度はロックベル公爵邸へ向かうことにした、どちらにせよオリヴィエならば事情を知っているだろうと考えた。
「どうせ行く予定だったのだ、婚約を申し込んでそのまま世話になろう」
再び辻馬車に乗り込み公爵邸の近くまで乗りつけ走った。
見覚え有る門構えにホッとするルワン、だが門兵が違っていた。
「うぬ、さすがに7年経っているからな……くそ俺の顔を知らないと説明が面倒だな」
居住まいを正し門兵へ声をかけた。
さっそく不審者を見る目で睨まれる、少し怯むがルワンは声高に名乗った。
「俺はミクソール伯爵家3男ルワンだ、息女オリヴィエ嬢に会いに来た。執事長に伝えてここを開け」
偉そうな平民が来たとコソコソと話し合う門兵たち、渋々と1人が屋敷へ向かって行く。
待たされて苛立ったルワンだが先触れしてないので我慢した。
数分後執事長が現れた、あの時捕縛を命じた偉そうな男だった。嫌な予感がルワンを襲う。
「何用だ、御用聞きなら裏へ回れ」
「な!俺は貴族子息だぞ!馬鹿にするな!ミクソール家を侮るなど一介の使用人風情が!」
だがやはり執事長は相手にしなかった、そして残酷な真実を告げた。
「はてミクソール?大分前にとり潰しになった家だが……まさか騙りの下賤ではないだろうな?」
詐欺師扱いされたルワンは激高する。
「巫山戯るな!我がミクソールが潰されたなど……あ……ま、まさか?」
「何者かしらんが伯爵邸は農地になっているはずだ、その様子では心当たりがあるようだな」
執事長は小馬鹿にした嘲笑を浮かべてルワンを見る。
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