手癖の悪い娘を見初めた婚約者「ソレうちの娘じゃないから!」

音爽(ネソウ)

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足掻く者

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薔薇色の人生のスタートを切ったと意気揚々のルワンは伯爵家ではなく公爵邸へ帰宅した。
「今宵から俺は次期公爵になったのだからな!さっそく部屋を作らせよう!もちろんミルフィと同じ部屋だ!」
「な、なにを言ってるんですか?」

青くなるミルフィにルワンは気が付かない、門扉の向こうは絶望が待っているというのに。
門兵が先触れがないとゴネられ激高するルワン、無理矢理門を突破して玄関を開けるようフットマンを叱りつけた。

「次期公爵ルワンが戻ったのだぞ!早く開けろグズ!」
「そう言われましても……」

なにも知らされてないフットマンは執事長へ連絡する。
正面玄関ではなく従者入口から現れた執事長がなにごとでしょうと現れた。

「おい!執事長!この無礼な従者は即クビにする、それから早く我らの部屋へ案内するのだ!一番広い部屋だぞ!」
踏ん反り命令するルワンは鼻息荒く指示するも、執事長から辛辣な返答がかえってきた。

「なにを巫山戯ているのだ若造。衛兵、門兵なにをしている、捕らえて追い出せ!抵抗するようなら憲兵を呼べ」
門兵と衛兵が一斉にルワン達を拘束した。

「な、なにをするか!俺は次期公爵のルワン様だぞ!気でも違ったか!全員クビだ!いいや不敬で打ち首だ!」
ギャーギャーと叫ぶルワンとパニックになって泣き叫ぶミルフィ。門の周辺は大騒ぎだ。
簀巻きにされ猿轡をされたルワンとミルフィは伯爵邸へ送り返された。


***

「昨夜は騒がしかったですね、寝不足ですわ」
紅茶にレモンを落として不機嫌なオリヴィエである。

「もう一騒動起きるのだぞ、しゃんとしなさい」
「はぁ伯爵が騒ぎたてるのでしょ?お父様が頑張ってください」
「ずるいぞ!お前の初恋を成就すべくだな」

しかしオリヴィエはそれを遮った。

今は亡き前当主同士が親友だったため、若きころの勢いで結ばれた迷惑な約束だった。
【俺達の友情は永遠だ!孫が男女で生まれたら婚約させよう!】と勝手に誓い合ったのだ。

その被害を被ったオリヴィエはルワンに恋しただけである。
「ルワンの性根を知っていれば恋などしませんでしたわ、ああ愚かな幼き頃の私!」

苛立ちに任せて山と積まれたクッキーをボリボリと咀嚼するオリヴィエ。
婚姻前はと控えてきた甘味を容赦なく噛み砕く。

「文句があるのなら墓を掘り起こしてクソジジィの骨に鞭でも揮ってくださいまし」
「ぐぬぬ……なんてことだ」



それから午後一でやってきた伯爵夫妻は一気に老け込んだ顔である。
どうにか復縁をと無駄な足掻きをしてきた、だが公爵はけんもほろろの態度を貫く。
「我が家をこれ以上愚弄するおつもりか?裏切ったのは貴殿の息子だぞ」
「いえ、ですが……公に見捨てられたら伯爵家は御終いです!どうかご慈悲を」

「慈悲?よく言えたものだ、あの愚息の教育をおろそかにしてきた其方らの責任であろう」
「教育ならばしてきました!」

「勉学のことではない、人としての教えのほうを言っている!」
「……ぐ、確かにあの子は矜持が高すぎて横柄なところがありますが」

なおも粘ろうとする夫妻に公爵が席をたった。
「話にならん、どうしてもというなら法に訴えればよい。裁判費用がだせればですがな」
「そんな!」

毎月の支援を頼って生活していた伯爵家には資産がない、当然裁判など起こす余裕はなかった。

こうしてミクソール家子息の身勝手な婚姻の決行で、伯爵側の有責により破談は決定になった。
伯爵は借金してまで民事裁判で無効を訴えたが、法務大臣が後見したルワンの婚姻は覆ることはなかった。
約8年に渡る支援金の返還と慰謝料で伯爵家は風前の灯である、近年中に貴族欄から名が消去されるだろう。

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