完結 愛人の子 それぞれの矜持

音爽(ネソウ)

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遅めの朝食を摂っていたクレマンは、ロザリーという娘が本邸にやってきてお仕着せを着て下女として奉公にきていることを聞いた。
彼はあまりのことに驚き咽かえる、漸くしてそれが収まると「面白い」とほくそ笑んだ。

「で、その娘はどこで何をしている?」
「はい、先ほどまでシーツを洗っておりました。いまは庭先を掃いている頃かと」
「ふむ……なるほど下女の仕事か」
彼はニヤニヤと笑うと朝食を掻き込み、ジュースを飲み干すと早速揶揄ってやろうと歩を進めた。午前のお勤めがと侍女がいうが、そんなことでいう事を聞く主ではない。



「ふぅ……寒い、落ち葉の季節ではないけれど」
時折落ちてくる針葉樹の葉がカサコソと侘しさを増して、気分を下げてくる。それでも無心に作業していれば冷たい手足が幾分熱を帯びてくる。やっと終わると言う頃合いで悪戯な顔をした男がやってきた。クレマンだ。
「あ……」
バサバサと掃き終わった所にどこからか集めてきた葉っぱを撒き散らしてニヤリと笑う。彼女は意地悪そうな男の顔を見て、身形からこの屋敷の息子であろうことはわかった。
「どうした、早く片付けろ」
「畏まりました」

ロザリーはまた無心で葉っぱを搔き集め処理をした、だがまたも木切れを散らかされて「片付けろ」と命令される。幾度目かのやり取りでやっと嫌がらせが終わるとクレマンはつまらなそうに「ちっ」と舌打ちしてどこかへ消え去った。
安堵したロザリーは片付けを始めたが、物置の戸を開けたところで悲鳴をあげた。
「な、なに……冷たい!」
急に冷水を浴びせられた彼女はパニックになり、凍える身体をブルブルと震わせて周囲を見渡した。

「やあ、これはまずった、汚い襤褸が見えたからな思わず水をかけてしまったぞ」
「あ、ああ……なんてこと」
ゲラゲラと可笑し気に笑うクレマンはご満悦で、背後にはニタニタと笑うメイドたちの姿があった。彼女は悔し気にしていたがどうしようもない。

「おい、お前。ここを綺麗にしておけよ」
「はい……」
そう吐き捨ててクレマンは意気揚々と屋敷へと帰っていった。
水濡れのお仕着せをどうにか絞り、ゴシゴシと濡れた地面を拭き掃除した。作業が終わった時には寒さが尋常ではなく、かじかむ両手がどうにもならないほど痺れていた。

「う……どうして私がこんな目に」
情けなさに涙を滲ませて彼女は屋敷へと戻り次の指示を貰いに戻った。

「まぁ!なによその様は、びしょびしょじゃない!」
「……申し訳ありません、替えの衣装は」
「あるわけないじゃない、もういいわそのまま作業しなさい。お屋敷の廊下をくまなく拭くのよ」
「はい……」

まさかそのままで作業を強いられるとは思っていなかったロザリーは、寒々とした長い廊下を拭き始めた。いくらなんでもあんまりだと思ったが、文句を言う相手がいない。
ガチガチと震えて作業を熟すほかない、次第に感覚がなくなって意識は朦朧としてきた。ノタノタと作業が遅い下女に「使えない」とメイドが怒っているのが聞こえた。

『あぁ、お母様……私はどうしたらいいのでしょう』
フラフラの身体で拭き掃除をしていると再びクレマンがやってきて「使えない使用人はどこだ」と言って来た。彼女はまた作業の邪魔をされるのかと身を固くした。
『あの男性はどこかで見た……どこでだったかしら……』

「やはりお前か、そんなに遅いのならいっそお前自身が雑巾になったほうが早いのではないか?」
「え、きゃああ!」
再びバケツの水が頭の上から降って来て水濡れになった。今度は全身隈なく水が滴り落ちて絞りようがない。
「あ、ああ……あああ」
「ほら、早くしろうすノロ、身を滑らせて廊下を這え」

彼女はそのまま気を失い、足蹴りにされてもピクリとも動かなくなった。



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