完結 とある令嬢の都合が悪い世界 

音爽(ネソウ)

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王子達による丁寧な(?)尋問に屈した姫巫女ドナジーナは聖教会を名乗るアルゴリオ教団の内情の一部を暴露した。ドナジーナはただの孤児で珍しい黒目と髪色をアルゴリオ氏に気に入られ養女になり、姫巫女に仕立て上げられたことを白状したのだ。

「祈る振りをしていれば美味しいご飯と綺麗な服が貰えるからと誘われて……にっこり微笑むだけで周囲はチヤホヤしてくれたし、たまに神託みたいなことを適当に言えばお小遣いが貰えたの。ここまで大事になるとは思ってなくて、でもあのオジサンが言い出したのよ!王族に取り入って王子妃になればもっと面白可笑しく暮らせるからって、最初は第一王子を落とせと言われたけどリカルデルの方が好みだったから、はぁ……うまく行ってると思ったのになぁ」

事のあらましを愚痴混じりに吐露した彼女はまだどこか夢見心地から抜け出せていない様子だ。その証拠に騎士の手で捕縛される間際までリカルデル王子の方を物欲しい目で見つめていた。短慮なだけの小娘だが国家転覆に加担したとみなされれば極刑は免れないかもしれない。

だが、アルゴリオ聖教会を糾弾するには材料が少なすぎた。
しかも現王が心酔する相手とあって強行に取り調べることは出来ない。腐っても王なのだ。悪女の撃退は出来たものの王妃と宰相たちは頭を抱える。
「ドナジーナの証言だけではあの腹黒大司教は認めないでしょう」
「それです……切り崩すには材料が足りません」


***
夏季休暇が明けてからの事。

「まぁ!それでは姫巫女が偽者と暴かれただけで終わってしまいますの?」
「そうなんだ、私達が苦渋を強いられた結果にしては些か良い成果とは言い難い」
久しぶりに堂々と婚約者として茶会にを開いた二人ではあるが、甘いひと時はもう少し先になりそうだと溜息を吐いた。

彼ら王子達は側近と共に学園のカフェに集まってこれまでのことを報告し合っている。
「でもまあ、バカ姫が追い出された学園は静かになって良かったよ」
「そうだね、風通しも良くなって万々歳」
姫巫女を持ち上げて大きな顔してきた学生や教師たちは肩身の狭い思いをしている、一部の者は退学や自ら退職した教師もいるようだ。

「フィが復学出来て良かった、今はそれだけ喜んでいよう」
「ふふ、ありがとうリカル」
そんな二人を見ていたバイロンが王妃の計画は不完全だったことが不満だと吐露する。
「邪魔は消えましたが納得いきませんね」
「そうだなぁ……お二人が悲しい日々を送っていたのは身近で見ていたからね」
同意するヴァレンがうんうんと頷く。


リカルデルは愛しいフィオナを悲しませた日々を振り返り、虚しい気持ちを抱えて廊下を歩いていた。二学期を迎えた今は秋空が広がっている。空がだいぶ高くなったようだと遠い空を眺めていると彼に声を掛ける者がいた。
「……誰かと思えば、ベルント君じゃないか」
「君などと付けなくて良いよ王子殿下」
二人はバチバチと視線が交差したがすぐに穏やかなものに変化して、互いに苦笑し合った。

「お互いに噂に翻弄されたものだね、フィを慰めてくれたとか。ありがとう」
「それは嫌味かな、フィオナ嬢は俺と結ばれた方が幸せだったかもよ?」
「ほお、随分自信があるじゃないか。だが手放す気はないさ」
王子のしっかりした返答にベルントは短く舌打ちをして「言ってろ」と嗤う。

「王家は教会を潰しにかかっているのだろう?どうしてうちのオヤジは太々しく暮らせているんだ?」
「そりゃ証拠が足りないからな、下手に動けないのさ。この国の法では宗教の自由が認められて保護されているからな」
まったく厄介な法律を作ったものだと王子は愚痴り先祖を恨めしく思うのだ。法改正をすべきと彼は考えている。

「物的証拠が欲しいというのか……俺なら提供できると言ったらどうするよ?もちろん無償じゃないけどな」
ベルントの思わぬ提案に王子は数歩下がり警戒の体制になった。
「君は身内を売るのか?どうして」
「親父のことかい、そうだなかつては自慢の父だった。だが、今は私利私欲に走った豚野郎さ。残念ながらね」
ただの治癒師に過ぎなかったアルゴリオ氏は誰隔てなく治療して人々を救う善人だった。だが、感謝され敬われると徐々に変わってしまったのだという。

「もう悪事を見逃すのは耐えられない、教会はドロドロに腐敗し貴族と癒着してやましい事ばかりしている。きっとこのまま放置すれば国の脅威になりかねないぞ」
「キミはずっと一人で抱え込んで来たのか……」
他人を犠牲に踏み台にして得た汚れた金銭で育ったことを彼はひどく嫌悪してるらしい、それを悟った王子は同情せずにおれなかった。

「そんな顔をするなよ王子、可愛いフィちゃんが泣くぜ」
「気安く彼女の名を呼ぶなよ、それで条件とは?」
本題に逸れた事を修正せんと話題を変えた王子は話の先を急かす。すると彼はニヤリと笑い「フィオをくれないか」と言った。
「貴様ァッ!」
「おっと、冗談だよ。わかれよ、言ってみたかっただけだ」
巫山戯るベルントに王子はワナワナと震えて拳を握った、相当怒らせたようだ。

「条件は俺の国外への無条件移住さ。場所は何処でも良い、田舎町で小さな治療院でも開けたらと思っている」
どうやら彼も少なからず治癒術が使えるらしい。条件を聞かされた王子は少々考え込んで口を開く。

「残念だが、その条件は飲めないな」
「そんなに難しい要望ではないのにか?」ベルントは不思議そうに小首を傾げて王子に問う。
「あぁ、ダメだな!優秀な人材を他国に渡すなどあり得ない、その若さで隠居したジジィの余生のように暮らすのか?良いわけがない!ベルント、キミは私の側近になれ。いいやなるべきだ」
「はあ!?」



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