20 / 23
清らかな乙女
しおりを挟む
救世主のご尊顔とやらが映ったという水晶玉を覗き込んだ王とその関係者たちは息を呑む。それは良く知る人物だったからだ。蜂蜜色の髪に榛色の瞳、柔らかに微笑むその姿はとても美しい。
「フィ……キミがどうして、確かに彼女は清らかかつ聡明な人だが救世主だと?」
彼女を愛してやまないリカルデルは一番驚愕していて、俄かに信じがたいことだと呟く。彼だけではなく王と王妃も驚きを隠せない様子でオタオタしていた。
「ベレファンゴ殿……これは真のことなのか?彼女に特殊能力が備わっているなど聞いたことが無い」
そんな王の問に対して老婆はニッタリ笑って答える。
「私の占いに疑心を抱くのは致し方ないとして、導きは見ての通りだわよ。信じる信じないのはご勝手にとしか言えないわ。でも覚えておいて穢れた大地を清浄するには清廉な乙女の祈りの力が一番効くわ」
祈祷の作法などは神に祈る所作と変わりはないと告げた。
老婆の占い師は道具を片付け席を立つ、そして「仕事は終わりました、お暇しますね」と告げて玉座の間を出て行った。
「……事態は深刻化している、微塵にも信じられなくとも悩む必要はなかろう」
マルド王はそう言って早速と荒ぶる大地を沈める為に令嬢へ嘆願書を送付するように宰相に指示した。しばし固まっていたリカルデルは「ハッ」と我に返ってから危険の孕む行為ではないだろうかと危惧した。
「リカル、気持ちはわかるが国の一大事だ。それにわが国だけではないぞ砂漠の周辺国にも影響は出ていよう、対処は迅速に行うべきだ」
国々の衰退は荒事に通じるものだと若き王は真剣な表情だ。手元にないものは他所から奪う、人とはそういう愚行を繰り返すものなのだと諭す。彼は戦の引き金にもなることを示唆した。
「あ、兄上……わかりました。では祈祷の際には是非私も同行させていただきたい!彼女を護るのは私の使命と考える」
「……うん、そうだね。無理難題ばかりお前達に強いて申し訳ないと思っている。お前の成人後の挙式は盛大にしてあげるよ」
兄の言葉を聞いたリカルデルは期待していますと返答して、誰より先に彼女の家へと出立して行った。
***
「……なるほど、お話は分かりましたわ」
屋敷に駆け付けたリカルデルに老婆の占い師の導きと聞いたフィオネは思う所があったが快諾した、国を護るためとあらば拒絶する理由はないと即答したのだ。
「リカル、ひとつ聞きたいのだけど、その占い師とは王都の占い館の主のことかしら?」
「ああ、そうだよ。その昔は王家にも仕えていた魔女だとも聞いている」
「そう……あの占い師が」
穢れ祓いの祈祷式を了承した彼女ではあるが、一抹の不安を覚えた彼女は件の占い館へと赴いた。だが、そこに在ったはずの館が忽然と消滅していた。
「ど、どういうこと!?最初から何もなかったように……」
建物が存在していた箇所には、それらしい痕跡すらなにも残っていない。雑木の低木が点在し雑草が生い茂っており、まるで長年の間空き地であったかのような有様だった。
お付の侍女も一体どういうことだと慄く、狐にでもつままれたようだと悲鳴をあげた。
「空間魔法……にしては手が込んでいるわ、時間軸さえ歪めることが出来ると老婆は言っていたわね」
そうまでして消滅させた意味はなんだろうとフィオネは考えたが結局は答えがみつからないまま帰宅の途に就いた。
やがて、王から正式に勅命が下されてフィオネは付け焼刃ながら巫女として荒野へ赴き祈祷することになった。宣言通りに彼女の婚約者リカルデルも同行した。当然、同じ馬車に乗り込んで移動中はずっと彼女の手を握っていた。
「リカルのほうが緊張しちゃってるわ、心配のし過ぎよ」
「だって!砂漠があるんだよ!悪魔の大鍋と呼ばれる恐ろしい所なんだ!」
愛する者の身を案じるのは当然のことだとリカルデルは鼻息荒く宣うのだ、これには勅命を受けた彼女の方が呆れてしまう。
「でもありがとう、逆に冷静になってしまう自分がいるわ」
「そ、そう?役に立てたのならそれでいいや。私はフィの専属ナイトだ、なんでも言って頼ってくれよ。そして無事に使命を果たしたら二人きりでお祝いしようね!」
「ふふ、気が早いわ。まだ道中なのよ」
南に位置する荒野と砂漠地帯に到着したのは王都を出立して一月弱のことだった。
これは放逐処分に訪れた日数とさほど変わりはしない。ただ変化があるとするならば気候の悪化であろうか。
「冬が近いのにまるで真夏の猛暑日のようね……」
馬車から降り立ったフィオネは外気に当たって感想を述べた、過酷な環境化では放逐処分にされた一行はすっかり干物になっているだろう。
「フィ、祈祷は大地に捧げるんだ。砂漠へは近寄らないようにね?その……見たくない惨状がそこにあるかもしれないし」
「え、ええ。わかっていてよ……」
彼の言わんとすることを察したらしいフィオネは少し青褪めて同意する。
「おいおい、もう一人のナイトのことも忘れないでくれよ?巫女様」
「ええ、もちろんよ、暑気払いは頼んだわベルント」
「俺の側にいれば熱風なんてものともしねぇさ!」
冷気を出すことが得意なベルントは彼女を熱砂から護る為に同行命令をされていた。リカルデルとしては邪魔なヤツ認定である。
「そんな顔をするなよ王子ィたかが護衛に来ただけだぜ?」
「ふん!一番のナイトは私だから!そこは譲らないぞ!フィの横にいて良いのは私だけだ!」
「たく、ガキかよ」
「フィ……キミがどうして、確かに彼女は清らかかつ聡明な人だが救世主だと?」
彼女を愛してやまないリカルデルは一番驚愕していて、俄かに信じがたいことだと呟く。彼だけではなく王と王妃も驚きを隠せない様子でオタオタしていた。
「ベレファンゴ殿……これは真のことなのか?彼女に特殊能力が備わっているなど聞いたことが無い」
そんな王の問に対して老婆はニッタリ笑って答える。
「私の占いに疑心を抱くのは致し方ないとして、導きは見ての通りだわよ。信じる信じないのはご勝手にとしか言えないわ。でも覚えておいて穢れた大地を清浄するには清廉な乙女の祈りの力が一番効くわ」
祈祷の作法などは神に祈る所作と変わりはないと告げた。
老婆の占い師は道具を片付け席を立つ、そして「仕事は終わりました、お暇しますね」と告げて玉座の間を出て行った。
「……事態は深刻化している、微塵にも信じられなくとも悩む必要はなかろう」
マルド王はそう言って早速と荒ぶる大地を沈める為に令嬢へ嘆願書を送付するように宰相に指示した。しばし固まっていたリカルデルは「ハッ」と我に返ってから危険の孕む行為ではないだろうかと危惧した。
「リカル、気持ちはわかるが国の一大事だ。それにわが国だけではないぞ砂漠の周辺国にも影響は出ていよう、対処は迅速に行うべきだ」
国々の衰退は荒事に通じるものだと若き王は真剣な表情だ。手元にないものは他所から奪う、人とはそういう愚行を繰り返すものなのだと諭す。彼は戦の引き金にもなることを示唆した。
「あ、兄上……わかりました。では祈祷の際には是非私も同行させていただきたい!彼女を護るのは私の使命と考える」
「……うん、そうだね。無理難題ばかりお前達に強いて申し訳ないと思っている。お前の成人後の挙式は盛大にしてあげるよ」
兄の言葉を聞いたリカルデルは期待していますと返答して、誰より先に彼女の家へと出立して行った。
***
「……なるほど、お話は分かりましたわ」
屋敷に駆け付けたリカルデルに老婆の占い師の導きと聞いたフィオネは思う所があったが快諾した、国を護るためとあらば拒絶する理由はないと即答したのだ。
「リカル、ひとつ聞きたいのだけど、その占い師とは王都の占い館の主のことかしら?」
「ああ、そうだよ。その昔は王家にも仕えていた魔女だとも聞いている」
「そう……あの占い師が」
穢れ祓いの祈祷式を了承した彼女ではあるが、一抹の不安を覚えた彼女は件の占い館へと赴いた。だが、そこに在ったはずの館が忽然と消滅していた。
「ど、どういうこと!?最初から何もなかったように……」
建物が存在していた箇所には、それらしい痕跡すらなにも残っていない。雑木の低木が点在し雑草が生い茂っており、まるで長年の間空き地であったかのような有様だった。
お付の侍女も一体どういうことだと慄く、狐にでもつままれたようだと悲鳴をあげた。
「空間魔法……にしては手が込んでいるわ、時間軸さえ歪めることが出来ると老婆は言っていたわね」
そうまでして消滅させた意味はなんだろうとフィオネは考えたが結局は答えがみつからないまま帰宅の途に就いた。
やがて、王から正式に勅命が下されてフィオネは付け焼刃ながら巫女として荒野へ赴き祈祷することになった。宣言通りに彼女の婚約者リカルデルも同行した。当然、同じ馬車に乗り込んで移動中はずっと彼女の手を握っていた。
「リカルのほうが緊張しちゃってるわ、心配のし過ぎよ」
「だって!砂漠があるんだよ!悪魔の大鍋と呼ばれる恐ろしい所なんだ!」
愛する者の身を案じるのは当然のことだとリカルデルは鼻息荒く宣うのだ、これには勅命を受けた彼女の方が呆れてしまう。
「でもありがとう、逆に冷静になってしまう自分がいるわ」
「そ、そう?役に立てたのならそれでいいや。私はフィの専属ナイトだ、なんでも言って頼ってくれよ。そして無事に使命を果たしたら二人きりでお祝いしようね!」
「ふふ、気が早いわ。まだ道中なのよ」
南に位置する荒野と砂漠地帯に到着したのは王都を出立して一月弱のことだった。
これは放逐処分に訪れた日数とさほど変わりはしない。ただ変化があるとするならば気候の悪化であろうか。
「冬が近いのにまるで真夏の猛暑日のようね……」
馬車から降り立ったフィオネは外気に当たって感想を述べた、過酷な環境化では放逐処分にされた一行はすっかり干物になっているだろう。
「フィ、祈祷は大地に捧げるんだ。砂漠へは近寄らないようにね?その……見たくない惨状がそこにあるかもしれないし」
「え、ええ。わかっていてよ……」
彼の言わんとすることを察したらしいフィオネは少し青褪めて同意する。
「おいおい、もう一人のナイトのことも忘れないでくれよ?巫女様」
「ええ、もちろんよ、暑気払いは頼んだわベルント」
「俺の側にいれば熱風なんてものともしねぇさ!」
冷気を出すことが得意なベルントは彼女を熱砂から護る為に同行命令をされていた。リカルデルとしては邪魔なヤツ認定である。
「そんな顔をするなよ王子ィたかが護衛に来ただけだぜ?」
「ふん!一番のナイトは私だから!そこは譲らないぞ!フィの横にいて良いのは私だけだ!」
「たく、ガキかよ」
6
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~
水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。
婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。
5話で完結の短いお話です。
いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。
お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。
何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。
困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。
このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。
それだけは御免だ。
結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。
そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。
その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。
「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる