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フィオネの祈り
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荒野の一角に簡易な祭壇が設えられてその周囲を王子と騎士たちが護衛をしてくれている。
巫女でもないのにと震えるフィオネ、占いを鵜呑みにすることに抵抗をおぼえていた彼女は己の力など信じていない。
「さあ、フィ……祈祷を」
「え、ええ。見守っていて」
疑心と不安を抱えたまま祭壇の近くへ行き、多くの民の為にとそこに跪き両の手を大地に当てて祈りを始めた。
するとどうだろうか、怨嗟と苦悩する魂の叫びのようなものが彼女の脳裡に浮かび上がってきて心が苦しくなる。藻掻き苦しみ助けを請うような叫びは鳴りやまず、あまりの切なさにフィオネは涙する、その清らかな涙がポタポタと地に滴り落ちると穢れた地は貪欲にそれを飲み干した。
「地鳴りが止んで来たぞ……」
リカルデル王子がすぐに気づいて荒れる山々を見上げた、黒煙は上がったままだが焼けつくような暑さは幾分柔らかになったと騎士達もざわつき始める。徐々にだが噴火が収まっていくのはその場の全員が体感した。
「まさに巫女のなせる業と言うことか」
驚愕したベルントがそう呟く、紛い物ばかり見せられてきた元大司教の息子は、誰よりも目の前で起きた奇跡に感動していたのだ。
大地の怨嗟と格闘し精神力を削られたフィオネは祭壇に凭れかかるようにして倒れた。真っ先に駆け付けたリカルデルはとても愛おしそうに抱き上げて「私達の国へ帰ろう」と彼女に語りかけた。
***
倒れたフィオネは不思議な夢を見ていた、真白の空間に倒れていると彼女のすぐ横にあの占い師が現れて愚痴を聞かせてくる。
「私が偽姫巫女のことを伝えたの、でもね私を追求することは出来ないでしょうね」
不敵に笑う占い師は老婆から姿を変えて、妖艶に笑う。その真の姿を見たフィオネは驚いて悲鳴を上げてしまう。
「まぁ落ち着きなさいな、驚く気持ちはわかるけれど」
「だ、だってそんな!その顔、姿は……あの人……ドナジーナそのものじゃないの!」
飛び起きた彼女は数歩後退って亡霊を見たような顔をする、熱砂に飲まれて死んだと聞いていたのだから無理もないことだ。
「姿かたちは私がオリジナルよ、ドナジーナはそのように私が作り上げたお人形のようなものね。自我はもっていても私にとっては紛い物」
「紛い物……身体は似ていても別人ということかしら?」
フィオネがそう問うと占い師は鷹揚に頷いて肯定して見せた。理解が早くて助かると昏い顔で嗤う。
「そう紛い物なの、この世……いいえこの世界そのものが私が創造した仮想世界……そしてとある物語を作った、貴女たちは黙ってそのシナリオ通りに動いてくれていれば良かったのに、どうしてかしらね上手くいかないこと。揃いも揃って自我を持ち好き勝手やってくれちゃって、ほんと困ったことだわ」
占い師は立ち上がってなにも無い空間にテーブルとイスを二脚出して、フィオネにそこに座るよう促した。
「ちょっと喋り過ぎちゃった、喉を潤しましょう」
「え……」
言うが早いかあっと言う間にテーブルにお茶のセットが現れてそれぞれの前に湯気を立てるカップが鎮座していた。度肝を抜かれ通しのフィオネはガクガクと震える。
「どうぞ飲んで毒なんて入ってないわ」
「は、はあ」
すすめられてもその気になれない彼女はカップの把手を弄びどうしたものかと苦悩する。占い師はそんな様子など気にもとめず茶と菓子を頬張って満足そうに溜息を吐いた。
「私は散々あなたに嫌がせしちゃったわね、不吉な予言ばかりを告げて……碌に対処法も教えやしなかった。だって仕方ないのよ”そのように設定したのだから”なのにあなた達ときたら……」
一方的に責められているフィオネはどう反応すれば正解なのだろうと思案したが、言ったところで相手に伝わりようがないかもしれないと思いつつ聞きたいことが山のように溢れていた。
「あの……作られた世界とか、シナリオ通りに動くべき人形と言われても……貴方の思い描く物語の人物とは一体なんなのですか?」
「うーん、そうね。信じろと言われても貴女には紛れもない現実だものね……この世界はね私の復讐劇の舞台なの、そして私は貴女の容姿が大嫌いなのよ。裏切者のあの女ソックリに作った人形ちゃん」
「え……」
面と向かって大嫌いと言われたフィオネは傷ついた顔をして項垂れた。
「私の占いがなんでも当たるのを不審に思わなくて?」
「え、どういうことでしょうか」
「それは私の都合でこの世界を造ったからよ、造り手だものなんだって自由自在だわ」
理解が追い付かないとフィオネは苦悶の表情だ、どうやら混乱している様子で唸り始めてしまう。そして、彼女がひねり出した答えは「ひょっとして貴女こそが女神ペスシモなのでは」と言った。
「あ、貴方様は……女神ペスシモ様違いますか?」
「あぁ設定ではそうなっちゃうよね、でも違う。いや、神と言えば神のようなものかしら」
わけが分からないとフィオネは降参した、正解に辿りついたはずが否定の言葉で返されたのだから仕方はあるまい。
占い師の話は捉えどころがないが、深い意味があるとそれだけは確信した。
フィオネは意を決したように茶を一口嚥下して口を開いた。
「お願いです、真実を聞かせてください。私が生きている世界がどんなに理不尽で都合が悪かろうと聞きたいのです」
「……そうね、それを聞く権利は貴女にあるものね」
巫女でもないのにと震えるフィオネ、占いを鵜呑みにすることに抵抗をおぼえていた彼女は己の力など信じていない。
「さあ、フィ……祈祷を」
「え、ええ。見守っていて」
疑心と不安を抱えたまま祭壇の近くへ行き、多くの民の為にとそこに跪き両の手を大地に当てて祈りを始めた。
するとどうだろうか、怨嗟と苦悩する魂の叫びのようなものが彼女の脳裡に浮かび上がってきて心が苦しくなる。藻掻き苦しみ助けを請うような叫びは鳴りやまず、あまりの切なさにフィオネは涙する、その清らかな涙がポタポタと地に滴り落ちると穢れた地は貪欲にそれを飲み干した。
「地鳴りが止んで来たぞ……」
リカルデル王子がすぐに気づいて荒れる山々を見上げた、黒煙は上がったままだが焼けつくような暑さは幾分柔らかになったと騎士達もざわつき始める。徐々にだが噴火が収まっていくのはその場の全員が体感した。
「まさに巫女のなせる業と言うことか」
驚愕したベルントがそう呟く、紛い物ばかり見せられてきた元大司教の息子は、誰よりも目の前で起きた奇跡に感動していたのだ。
大地の怨嗟と格闘し精神力を削られたフィオネは祭壇に凭れかかるようにして倒れた。真っ先に駆け付けたリカルデルはとても愛おしそうに抱き上げて「私達の国へ帰ろう」と彼女に語りかけた。
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倒れたフィオネは不思議な夢を見ていた、真白の空間に倒れていると彼女のすぐ横にあの占い師が現れて愚痴を聞かせてくる。
「私が偽姫巫女のことを伝えたの、でもね私を追求することは出来ないでしょうね」
不敵に笑う占い師は老婆から姿を変えて、妖艶に笑う。その真の姿を見たフィオネは驚いて悲鳴を上げてしまう。
「まぁ落ち着きなさいな、驚く気持ちはわかるけれど」
「だ、だってそんな!その顔、姿は……あの人……ドナジーナそのものじゃないの!」
飛び起きた彼女は数歩後退って亡霊を見たような顔をする、熱砂に飲まれて死んだと聞いていたのだから無理もないことだ。
「姿かたちは私がオリジナルよ、ドナジーナはそのように私が作り上げたお人形のようなものね。自我はもっていても私にとっては紛い物」
「紛い物……身体は似ていても別人ということかしら?」
フィオネがそう問うと占い師は鷹揚に頷いて肯定して見せた。理解が早くて助かると昏い顔で嗤う。
「そう紛い物なの、この世……いいえこの世界そのものが私が創造した仮想世界……そしてとある物語を作った、貴女たちは黙ってそのシナリオ通りに動いてくれていれば良かったのに、どうしてかしらね上手くいかないこと。揃いも揃って自我を持ち好き勝手やってくれちゃって、ほんと困ったことだわ」
占い師は立ち上がってなにも無い空間にテーブルとイスを二脚出して、フィオネにそこに座るよう促した。
「ちょっと喋り過ぎちゃった、喉を潤しましょう」
「え……」
言うが早いかあっと言う間にテーブルにお茶のセットが現れてそれぞれの前に湯気を立てるカップが鎮座していた。度肝を抜かれ通しのフィオネはガクガクと震える。
「どうぞ飲んで毒なんて入ってないわ」
「は、はあ」
すすめられてもその気になれない彼女はカップの把手を弄びどうしたものかと苦悩する。占い師はそんな様子など気にもとめず茶と菓子を頬張って満足そうに溜息を吐いた。
「私は散々あなたに嫌がせしちゃったわね、不吉な予言ばかりを告げて……碌に対処法も教えやしなかった。だって仕方ないのよ”そのように設定したのだから”なのにあなた達ときたら……」
一方的に責められているフィオネはどう反応すれば正解なのだろうと思案したが、言ったところで相手に伝わりようがないかもしれないと思いつつ聞きたいことが山のように溢れていた。
「あの……作られた世界とか、シナリオ通りに動くべき人形と言われても……貴方の思い描く物語の人物とは一体なんなのですか?」
「うーん、そうね。信じろと言われても貴女には紛れもない現実だものね……この世界はね私の復讐劇の舞台なの、そして私は貴女の容姿が大嫌いなのよ。裏切者のあの女ソックリに作った人形ちゃん」
「え……」
面と向かって大嫌いと言われたフィオネは傷ついた顔をして項垂れた。
「私の占いがなんでも当たるのを不審に思わなくて?」
「え、どういうことでしょうか」
「それは私の都合でこの世界を造ったからよ、造り手だものなんだって自由自在だわ」
理解が追い付かないとフィオネは苦悶の表情だ、どうやら混乱している様子で唸り始めてしまう。そして、彼女がひねり出した答えは「ひょっとして貴女こそが女神ペスシモなのでは」と言った。
「あ、貴方様は……女神ペスシモ様違いますか?」
「あぁ設定ではそうなっちゃうよね、でも違う。いや、神と言えば神のようなものかしら」
わけが分からないとフィオネは降参した、正解に辿りついたはずが否定の言葉で返されたのだから仕方はあるまい。
占い師の話は捉えどころがないが、深い意味があるとそれだけは確信した。
フィオネは意を決したように茶を一口嚥下して口を開いた。
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