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魔女ベレノファンゴの回顧録
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「素晴らしいよアルミロ!キミは稀代の勇敢で偉大な魔女だ!」
婚約者のティノ皇太子が褒め称えて彼女を抱擁する、つい先ほど帝都を襲った魔物を退治した直後のことだ。ブルードラゴン率いる魔物の群れが奇襲を掛けて来たのだ。
「ふふ、大袈裟……でも役に立てたのは嬉しいわ」
「相変わらず謙虚だな~そこが良いんだけど、もうちょっと自信を持ったほうが良いよ?」
「うん、ありがとう」
アイスブレスを口から放つドラゴンに魔女アルミロ・ベレノファンゴは火魔法の爆炎弾を巨大な口腔へ打ち放って瞬殺してしまったのだ。率いるボスを失ったレッサードラゴンたちとその他の魔物は敵わないと悟り遁走して行った。
「あとは騎士団に任せておけば良い、撤退して行った魔物くらいは蹴散らせるだろう」
「そうね、そうしようかしら。彼らにも手柄をわけなきゃ」
正直なところアルミロひとりで十分な戦力なのだが、城と帝都を護る騎士の矜持を砕くわけにもいかない事情があった。
「さすがに私の目の届かない敵までは手が回らないものね」
魔女は誰より優れ偉大ではあったが、万能というわけではない。
「配慮に礼を言うよ、キミほど心身が強くて聡明な人は見たことが無い」
「また大袈裟……勘弁して」
慎ましいアルミロは褒められるのが苦手で、羞恥ですぐに顔を真っ赤に染めてしまう。愛するティノが相手となれば余計であった。
そんな睦まじい二人の姿を城の物見台から忌々し気に睨む目があった。隣国からやってきた王女フィオンである。彼女は第二妃として嫁ぐ予定であった。扱いはアルミロと同等ではあるが、矜持が高い彼女は二番目というのが気に入らないのだ。
「キィー!私は由緒正しい王家の血筋だと言うのに!どうして平民の魔女が第一に選ばれるのよ!」
居室に戻った王女はいつもの癇癪を起して暴れた、引き裂いた布団から羽が部屋中に舞い散って大惨事である。それでもかまわず暴れて終いにはガラス窓へ椅子を投げつけ、花瓶を叩き割り侍女とメイドに怪我を負わせた。
「ふん!少しは気が晴れたわ!お前達、ここを綺麗にしておきなさい。私はダンスレッスンへ行くから」
「……畏まりました」
血濡れのメイド達を見たフィオンは満足そうに鼻を鳴らすと出ていった。身分差ゆえに無抵抗である侍女達は毎度こうして被害をかぶるのだ。
***
性悪なフィオン王女だが外面がとても良い、世渡りが上手いのはまさに王族である。下位の者には情け容赦がないが皇帝夫妻や皇太子の前では猫を被ってふるまっていた。
その晩は魔物を退治した魔女アルミロと騎士団を称える晩餐が開かれた、参加したフィオンは親し気にアルミロのもとへやってきて「素晴らしい功績に乾杯ですわ」と美しく微笑んでみせた。
「ありがとうフィオ、お互い帝国を護る妃でありましょうね」
「ええ、もちろんですわ!でも、私には攻撃魔法なんて使えないし……心苦しいの」
「まあ……フィオ、貴女はとても賢い方だわ。戦うだけが功ではないのよ」
「そう言っていただけると心強いですわ」
まるで姉妹のように談笑する二人を見てティノ皇太子は相好を崩す、強く優しい百合のようなアルミロ、優雅で賢く、薔薇のように華やかなフィオンを妃に迎えられることは喜ばしいことだと思っていた。
「私は果報者だよ」
皇太子は側近らと酒を酌み交わしながら惚気を呟く。
「全くですよ、本当に羨ましい」
「強さと賢さを持つ両名が妃に……帝国の未来は明るい」
来月に迫る合同結婚式はとても盛大になるだろうと彼らは笑い合う。当初は日時を変えて行う予定だったがアルミロとフィオンの要望でそのようになった。
「てっきり敵視し合うものかと危惧していたがあのように仲良くなるなんて」
酔いが回ったらしいティノはいつになく饒舌で彼女らを褒めまくる、惚気はほどほどにしてくれと側近らは苦笑した。
そして、挙式当日。惨劇が起きた。
「きゃああ!誰か!誰か来て!アルミロが!」
花嫁衣裳を纏ったフィオンが花嫁控室で泣き叫んで人を呼んでいた、護衛兵がそこへ雪崩れ込んできてその惨状を目の当たりにして息を呑む。
「こ、これは一体……何が起きたのですか!?」
「わからない……私お式の前に挨拶しようと伺ったのだけど、突然彼女が発狂したかと思えば……あぁ自爆したのだわ出ないと説明がつかないもの」
さめざめと泣くフィオンは、自害する際に浴びたであろうアルミロの血で真っ赤に染まり頽れていた。顔を手で覆い泣き続ける王女を取り合えず怪我はないか確認と湯浴みをするように促す。
「アルミロ……どうして?今日は喜び溢れる日だったはずでしょ……」
悲惨な現場の処理の後、見舞いに尋ねた皇太子は気遣いながら何が起きたのかフィオンに尋ねる。
「うぅ私もわからないの、ただアルミロは日頃から荷が重いと零していたわ」
「……そうか、あの子はいつも己を卑下する傾向が強かったからな……可哀そうなことをしたよ。第二妃はアルミロにすべきだったよ」
身分が低い者が皇族になるのは世間が想像するより遥かに重責なのだろうと誰もが思った。
”違う、違うわ!私はフィオンに殺されたの!魔法が使えないなんて大嘘だった!”
”あぁ誰か……私の声を聞いて!”
”あの女はあらゆるものを爆発させる魔術が使えるのよ!誰か!誰か!聞いて!”
「真実を聞いて」
婚約者のティノ皇太子が褒め称えて彼女を抱擁する、つい先ほど帝都を襲った魔物を退治した直後のことだ。ブルードラゴン率いる魔物の群れが奇襲を掛けて来たのだ。
「ふふ、大袈裟……でも役に立てたのは嬉しいわ」
「相変わらず謙虚だな~そこが良いんだけど、もうちょっと自信を持ったほうが良いよ?」
「うん、ありがとう」
アイスブレスを口から放つドラゴンに魔女アルミロ・ベレノファンゴは火魔法の爆炎弾を巨大な口腔へ打ち放って瞬殺してしまったのだ。率いるボスを失ったレッサードラゴンたちとその他の魔物は敵わないと悟り遁走して行った。
「あとは騎士団に任せておけば良い、撤退して行った魔物くらいは蹴散らせるだろう」
「そうね、そうしようかしら。彼らにも手柄をわけなきゃ」
正直なところアルミロひとりで十分な戦力なのだが、城と帝都を護る騎士の矜持を砕くわけにもいかない事情があった。
「さすがに私の目の届かない敵までは手が回らないものね」
魔女は誰より優れ偉大ではあったが、万能というわけではない。
「配慮に礼を言うよ、キミほど心身が強くて聡明な人は見たことが無い」
「また大袈裟……勘弁して」
慎ましいアルミロは褒められるのが苦手で、羞恥ですぐに顔を真っ赤に染めてしまう。愛するティノが相手となれば余計であった。
そんな睦まじい二人の姿を城の物見台から忌々し気に睨む目があった。隣国からやってきた王女フィオンである。彼女は第二妃として嫁ぐ予定であった。扱いはアルミロと同等ではあるが、矜持が高い彼女は二番目というのが気に入らないのだ。
「キィー!私は由緒正しい王家の血筋だと言うのに!どうして平民の魔女が第一に選ばれるのよ!」
居室に戻った王女はいつもの癇癪を起して暴れた、引き裂いた布団から羽が部屋中に舞い散って大惨事である。それでもかまわず暴れて終いにはガラス窓へ椅子を投げつけ、花瓶を叩き割り侍女とメイドに怪我を負わせた。
「ふん!少しは気が晴れたわ!お前達、ここを綺麗にしておきなさい。私はダンスレッスンへ行くから」
「……畏まりました」
血濡れのメイド達を見たフィオンは満足そうに鼻を鳴らすと出ていった。身分差ゆえに無抵抗である侍女達は毎度こうして被害をかぶるのだ。
***
性悪なフィオン王女だが外面がとても良い、世渡りが上手いのはまさに王族である。下位の者には情け容赦がないが皇帝夫妻や皇太子の前では猫を被ってふるまっていた。
その晩は魔物を退治した魔女アルミロと騎士団を称える晩餐が開かれた、参加したフィオンは親し気にアルミロのもとへやってきて「素晴らしい功績に乾杯ですわ」と美しく微笑んでみせた。
「ありがとうフィオ、お互い帝国を護る妃でありましょうね」
「ええ、もちろんですわ!でも、私には攻撃魔法なんて使えないし……心苦しいの」
「まあ……フィオ、貴女はとても賢い方だわ。戦うだけが功ではないのよ」
「そう言っていただけると心強いですわ」
まるで姉妹のように談笑する二人を見てティノ皇太子は相好を崩す、強く優しい百合のようなアルミロ、優雅で賢く、薔薇のように華やかなフィオンを妃に迎えられることは喜ばしいことだと思っていた。
「私は果報者だよ」
皇太子は側近らと酒を酌み交わしながら惚気を呟く。
「全くですよ、本当に羨ましい」
「強さと賢さを持つ両名が妃に……帝国の未来は明るい」
来月に迫る合同結婚式はとても盛大になるだろうと彼らは笑い合う。当初は日時を変えて行う予定だったがアルミロとフィオンの要望でそのようになった。
「てっきり敵視し合うものかと危惧していたがあのように仲良くなるなんて」
酔いが回ったらしいティノはいつになく饒舌で彼女らを褒めまくる、惚気はほどほどにしてくれと側近らは苦笑した。
そして、挙式当日。惨劇が起きた。
「きゃああ!誰か!誰か来て!アルミロが!」
花嫁衣裳を纏ったフィオンが花嫁控室で泣き叫んで人を呼んでいた、護衛兵がそこへ雪崩れ込んできてその惨状を目の当たりにして息を呑む。
「こ、これは一体……何が起きたのですか!?」
「わからない……私お式の前に挨拶しようと伺ったのだけど、突然彼女が発狂したかと思えば……あぁ自爆したのだわ出ないと説明がつかないもの」
さめざめと泣くフィオンは、自害する際に浴びたであろうアルミロの血で真っ赤に染まり頽れていた。顔を手で覆い泣き続ける王女を取り合えず怪我はないか確認と湯浴みをするように促す。
「アルミロ……どうして?今日は喜び溢れる日だったはずでしょ……」
悲惨な現場の処理の後、見舞いに尋ねた皇太子は気遣いながら何が起きたのかフィオンに尋ねる。
「うぅ私もわからないの、ただアルミロは日頃から荷が重いと零していたわ」
「……そうか、あの子はいつも己を卑下する傾向が強かったからな……可哀そうなことをしたよ。第二妃はアルミロにすべきだったよ」
身分が低い者が皇族になるのは世間が想像するより遥かに重責なのだろうと誰もが思った。
”違う、違うわ!私はフィオンに殺されたの!魔法が使えないなんて大嘘だった!”
”あぁ誰か……私の声を聞いて!”
”あの女はあらゆるものを爆発させる魔術が使えるのよ!誰か!誰か!聞いて!”
「真実を聞いて」
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