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離れの住人
しおりを挟む居室に籠城していればジョルジュはご機嫌伺いに現れると踏んでいたのだが、そんな様子はちっともなかった。ただ虚しく流れる時間にクリステルは涙も枯れ果てた。
「はぁ……ほんとうに私は新婚なの?嫌になってしまうわ」
義父母に相談しようにも彼らはとうに蟄居しており、遠く離れたカントリーハウスにいる。ちょっと相談にと言っても中々骨が折れそうだ。
そんな事もあってか彼女の心は一向に晴れない。結局何も出来ないままその日も寝室で食事を摂った。動いていないので腹も空かず大半を残した。
「ああ、虚しいわ。明日は外に出てみようかしら」
眠れないまま悶々と過ごす彼女は何度も寝返りを打つ、そして、すっかり目が冴えてしまったので本を読むことにした。
その時だ、玄関が開くような音がした。
ハッとした彼女は窓をそっと開けて様子を伺う、何故だかとても嫌な予感がした。出て来たのは愛しい夫ジョルジュその人だった。
「何故こんな夜更けに?それに何かを持っているわ」
気になった彼女はジッとその様子を見守っている、行く先は離れのようだ。防犯用のガス灯が彼の行き先をしっかり教えてくれた。
どうしても気になった彼女はコソリと屋敷を抜け出し後を追う。離れは真っ黒で人が棲んでいる様子はない。だが僅かに灯が漏れ出ている箇所を見つけた。
「まぁ、遮光カーテンが引かれているのね。それも相当分厚い……」
隠れて暮らす人はどんな人物なのだろう、彼女は”愛人”というワードが頭に過る。
「まさかそんな……そんな素振りは微塵にも見せたことはないわ」
クリステルはドキドキと煩い胸をギュウと押し込めて、離れの出入り口へ向かう。ドアは開け放たれいて簡単に侵入を許した。
まさか入って来る者がいるとは思っていないのだろうか。
兎に角彼女はランタンの灯りを頼りに二階奥へと歩を進める、時折ミシリとする音にヒヤリとしたが杞憂に終わる。
『ここにジョルが……いったいどんな用事で』
彼女は壁に張り付き聞き耳を立てた、だがまったく様子が伺えない。止む無く透明の窓を作る魔法を掛けた、術をかけた者以外には見えない魔法だ。たった2センチ幅だが覗くには十分だ。
いけない事だと思いつつ彼女は小窓を覗く。どうか違う光景が覗けますようにと願をかけて。
そこにはジョルジョがカウチに座り誰かがそれに凭れているのが見えた。会話はまでは聞こえない。
『あれは誰?……少年のようだけれど』
美しく白い美少年がそこにいて微笑んでいた、耳が尖り赤い目をしている。どうやら人族とは違うと彼女は息を飲む。肌も髪も真っ白で血が通っているようには見えなかった。
そして、その白い少年がジョルジュの腕を取って口づける、彼女にはそう見えた。やがてそこから血が滴り落ちて小さな血溜まりを作る。
ジョルジュはされるがままウットリとして、その少年の頭を撫でていた。
『なんてこと……あれは吸血族だわ、そんな異形に憑りつかれているなんて!』
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