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戦火の先に(覚醒)篇
灰色の地獄絵図
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「なにか聞こえないか?」
「え……そう言えば聞いたことのない音がするぜ」
見張り役のひとりが小さいながらも地を叩くような音に気が付いた。不審に思った見張り番の一組が辺りを見渡すがなにも確認がとれなかった。広範囲に轟く音は確かにするのにでどころが不明だった。
それから数分後。
廃屋から悲鳴が上がった、ネズミが嫌いだと言っていた男が異常なまで騒ぐのだ。
床穴から数匹のネズミが次々と顔を出してきたからである。
「おいおい、うるせえな。たかが小さなネズミだろ踏み潰しちまえよ」
「ばっ!こんな気持ち悪いものを踏むだと!?冗談じゃねーぜ!」
動物嫌いな男は堪らず外へ飛び出し、見張り番と交代すると言って逃げだしていった。情けない野郎だと言って屋内の監視役たちが大笑いする。
その間もチョロチョロと這い出てくるネズミたち、あっという間に床一面に彼らは溢れていた。そして人間を取り囲むように円陣を組むではないか。知能などないと小馬鹿にしていた小動物が敵意を向けている、しまいには威嚇するように鳴きだしクラッキングをし始めた。
<――ッカカカカカカカカカカカカカカ>
「な、なんだよコイツら!生意気に俺達と一戦交えようってか?」
監視役の一人がナイフを投擲して蹴散らそうと躍起になる。だが身軽なネズミ達は方々に散りあっさりと躱されてしまうだけ。傍観していた者も腰の剣を抜きその鋭利な先でもって殲滅せんと暴れ出した。
横薙ぎにしようが上から叩きつけようが、小さいネズミはなんなく往なして壁や天井へ逃げてしまう。
こいつはキリがないと悪漢たちは漸く焦りだす、上下左右から鳴り響く歯の音が不気味に耳に届く。
気が付けば床には足の踏み場が無いほどネズミたちが群がり、穴からは噴き出す水のようにネズミが湧き出て灰色の小山が出来始めている。
「や、やべぇ……どんどん増えてるぞ!どうしてこんなに集まったんだ!?」
「ひぃ!一斉に飛び掛かられて噛まれたら……ああああ!」
体格差はあれど多勢に無勢だ、何匹か斬り伏せても意味はなく無駄な抵抗になるだろう。どうにか逃げようと一味の魔法使いが火を放つも攻撃が当たるのは廃屋の壁や柱ばかりだった。
***
一方、捕らわれていたティリルも事の異変に気が付き、床から煙が立ち上ってきたことに狼狽する。
「まさか、私達を火炙りで殺すつもりかしら!」
なんとか逃げなくてはと彼女は立ち上がろうと藻掻いたが手足はグルグル巻きにされたままだ。無様に転がることしかできない。
「そんな、せめてジェイラだけでも……あぁ!なんてことなのゴホゲホッ」
悔し涙を流す彼女の顔の近くで薄金色のものがチョロリと動いた、さきほどやってきたネズミが彼女を宥めるかのように鎮座する。
「ネズミさん……ここは危ないわ。早く外へ逃げるのよ。できれば友人の縄を解いて欲しいけれど」
叶わないとわかっていてもティリルは小さな生き物に縋って苦笑する。
するとネズミが二足立ちになって敬礼をしたではないか、突然のことに驚く彼女にネズミは名乗った。
「吾輩、獣王国隠密隊第一部隊長ラトリにございます!皇帝ティリル陛下を救いに馳せ参じました!」
「ま、まぁ!獣王国の……なんて頼もしい御仁でしょう。ではあの騒ぎはお仲間の仕業でしょうか?」
「はい!隠密部隊全員がここへ終結しております、間もなく誘拐犯らは一網打尽に――いえ、たかが数人ですから大袈裟でございますな!ハッハッハッ!」
「まぁ、ふふふふ。ありがとうございます。この大恩は皇帝として必ずお返ししますわ」
すると幾匹かの救護班と思しきネズミがティリル達のもとへやってきて「もう少しの辛抱にございます」と言って縄を解き始め癒し魔法をかけた。
「ふふ、同じ治癒師として礼を言いますわ。とても上手に施しますのね」
「い、いいえ!戦場の女神と称えられたティリル陛下からお褒め頂き身に余る光栄ですチュ!」
「チュチュ!そうですとも!そうですとも!ささ、裏手から逃げましょう」
そう言われて彼女は未だ意識が戻らないジェイラを気遣って躊躇する。しかし、我らが担ぎ出しますと言った。
その様子はまるでジェイラの身体が床を滑っていくかのようだった。
「恐れ入りますわ皆様、ほんとうにありがとう」
***
「伝令!例のあばら家で悶着がございました!」とある貴族の居城へ私兵の一人が駆け込み大声で伝えて来た。
陽が落ちた頃合いで優雅にワインを楽しもうとしていた城の主は不機嫌に顔を顰めると兵を怒鳴る。
「もう少し慎み深く発言できんのか……まぁ良い、変事とはなんだ?なにか不手際を起こしたか?」
「は、大量のネズミが湧いたそうで……」
「ネズミ?まさか帝国兵に感づかれたか!」
「いいえ、その……ただの害獣ネズミにございます。」
「なんだと、くだらん。ワシの寛ぎの時間を騒がすことではあるまい!駆除すれば済むことだ馬鹿者共が」
バウリガ共和国を治むる三大公のひとり、タヴァナ公爵が大きな目を見開いてギョロリと兵を睨んだ。
兵はただただ平謝りして脱兎の如く宵闇に消えて行った。
後に、攫って監禁したはずの皇帝にまんまと逃げられたと報せを聞くのは小一時間のことである。
ただし、それで諦める大公たちではなかった。
「え……そう言えば聞いたことのない音がするぜ」
見張り役のひとりが小さいながらも地を叩くような音に気が付いた。不審に思った見張り番の一組が辺りを見渡すがなにも確認がとれなかった。広範囲に轟く音は確かにするのにでどころが不明だった。
それから数分後。
廃屋から悲鳴が上がった、ネズミが嫌いだと言っていた男が異常なまで騒ぐのだ。
床穴から数匹のネズミが次々と顔を出してきたからである。
「おいおい、うるせえな。たかが小さなネズミだろ踏み潰しちまえよ」
「ばっ!こんな気持ち悪いものを踏むだと!?冗談じゃねーぜ!」
動物嫌いな男は堪らず外へ飛び出し、見張り番と交代すると言って逃げだしていった。情けない野郎だと言って屋内の監視役たちが大笑いする。
その間もチョロチョロと這い出てくるネズミたち、あっという間に床一面に彼らは溢れていた。そして人間を取り囲むように円陣を組むではないか。知能などないと小馬鹿にしていた小動物が敵意を向けている、しまいには威嚇するように鳴きだしクラッキングをし始めた。
<――ッカカカカカカカカカカカカカカ>
「な、なんだよコイツら!生意気に俺達と一戦交えようってか?」
監視役の一人がナイフを投擲して蹴散らそうと躍起になる。だが身軽なネズミ達は方々に散りあっさりと躱されてしまうだけ。傍観していた者も腰の剣を抜きその鋭利な先でもって殲滅せんと暴れ出した。
横薙ぎにしようが上から叩きつけようが、小さいネズミはなんなく往なして壁や天井へ逃げてしまう。
こいつはキリがないと悪漢たちは漸く焦りだす、上下左右から鳴り響く歯の音が不気味に耳に届く。
気が付けば床には足の踏み場が無いほどネズミたちが群がり、穴からは噴き出す水のようにネズミが湧き出て灰色の小山が出来始めている。
「や、やべぇ……どんどん増えてるぞ!どうしてこんなに集まったんだ!?」
「ひぃ!一斉に飛び掛かられて噛まれたら……ああああ!」
体格差はあれど多勢に無勢だ、何匹か斬り伏せても意味はなく無駄な抵抗になるだろう。どうにか逃げようと一味の魔法使いが火を放つも攻撃が当たるのは廃屋の壁や柱ばかりだった。
***
一方、捕らわれていたティリルも事の異変に気が付き、床から煙が立ち上ってきたことに狼狽する。
「まさか、私達を火炙りで殺すつもりかしら!」
なんとか逃げなくてはと彼女は立ち上がろうと藻掻いたが手足はグルグル巻きにされたままだ。無様に転がることしかできない。
「そんな、せめてジェイラだけでも……あぁ!なんてことなのゴホゲホッ」
悔し涙を流す彼女の顔の近くで薄金色のものがチョロリと動いた、さきほどやってきたネズミが彼女を宥めるかのように鎮座する。
「ネズミさん……ここは危ないわ。早く外へ逃げるのよ。できれば友人の縄を解いて欲しいけれど」
叶わないとわかっていてもティリルは小さな生き物に縋って苦笑する。
するとネズミが二足立ちになって敬礼をしたではないか、突然のことに驚く彼女にネズミは名乗った。
「吾輩、獣王国隠密隊第一部隊長ラトリにございます!皇帝ティリル陛下を救いに馳せ参じました!」
「ま、まぁ!獣王国の……なんて頼もしい御仁でしょう。ではあの騒ぎはお仲間の仕業でしょうか?」
「はい!隠密部隊全員がここへ終結しております、間もなく誘拐犯らは一網打尽に――いえ、たかが数人ですから大袈裟でございますな!ハッハッハッ!」
「まぁ、ふふふふ。ありがとうございます。この大恩は皇帝として必ずお返ししますわ」
すると幾匹かの救護班と思しきネズミがティリル達のもとへやってきて「もう少しの辛抱にございます」と言って縄を解き始め癒し魔法をかけた。
「ふふ、同じ治癒師として礼を言いますわ。とても上手に施しますのね」
「い、いいえ!戦場の女神と称えられたティリル陛下からお褒め頂き身に余る光栄ですチュ!」
「チュチュ!そうですとも!そうですとも!ささ、裏手から逃げましょう」
そう言われて彼女は未だ意識が戻らないジェイラを気遣って躊躇する。しかし、我らが担ぎ出しますと言った。
その様子はまるでジェイラの身体が床を滑っていくかのようだった。
「恐れ入りますわ皆様、ほんとうにありがとう」
***
「伝令!例のあばら家で悶着がございました!」とある貴族の居城へ私兵の一人が駆け込み大声で伝えて来た。
陽が落ちた頃合いで優雅にワインを楽しもうとしていた城の主は不機嫌に顔を顰めると兵を怒鳴る。
「もう少し慎み深く発言できんのか……まぁ良い、変事とはなんだ?なにか不手際を起こしたか?」
「は、大量のネズミが湧いたそうで……」
「ネズミ?まさか帝国兵に感づかれたか!」
「いいえ、その……ただの害獣ネズミにございます。」
「なんだと、くだらん。ワシの寛ぎの時間を騒がすことではあるまい!駆除すれば済むことだ馬鹿者共が」
バウリガ共和国を治むる三大公のひとり、タヴァナ公爵が大きな目を見開いてギョロリと兵を睨んだ。
兵はただただ平謝りして脱兎の如く宵闇に消えて行った。
後に、攫って監禁したはずの皇帝にまんまと逃げられたと報せを聞くのは小一時間のことである。
ただし、それで諦める大公たちではなかった。
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