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拾い物

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「私の為に剣を取り盾となれ」
路地裏で膝を抱えて震えていた少女に向かって、そう告げたのは大帝国サルベルドの幼き皇子ガルディオだった。
孤児である少女は声の主を訝し気に見上げた、あまりに幼い彼女には言葉が理解できなかったのだ。

「この手を取ればパンを与えると言っている、ひもじいのは嫌いだろう?」
「あ……う」
餓死寸前に近かった少女はうまく喋られなかったが、なんとかその小さい手を挙げた。皇子は薄汚いのも気にせずにその手を握った。

「いまこの時よりお前は私のものになった、従順に仕えろそして存分に働け。褒美は惜しまないぞ」
少女は良く分からないが、とにかくご飯に困ることはなくなったと理解して頷いたのだ。


***

極寒の夜の出会いから14年、少女はミリアムという名を与えられ立派な大人になろうとしていた。
薄汚れていた顔を磨けば恐ろしく可憐な美少女に変貌して、当時の皇子を驚かせたものだ。
「つくづく面白い拾い物をした、私は先見の明でもあるのだろうか。なぁミリー」
「……返答に困ります主」
「ふむ」

彼女は彼の命令通り従順に傍に控えて力を付けてきた、糧を与えられるならなんでも熟す便利な道具に成長していた。そして、何故か皇子のことは殿下とは呼ばない。ガルディオが嫌がったからだ。
皇子は名で呼べと言ったのだが、それだけは反抗して「主」と呼ぶミリアムだった。万能な側近へと育ったミリアムに対して皇子はそれだけが不満だった。

整った顔立ちの彼女であるが化粧気がなく背も高めで凛とした佇まいのせいでか彼女は男子に良く間違われる、本人はそれはそれで便利なので受け入れている。しかし、それも皇子は気に入らない。
「紅くらい引いたらどうだ、この間贈ってやったろう」
「は?職務となにか関りがあるのでしょうか?秘書兼護衛に支障がでるのでしたら善処しますが」
「いや直接はないが……」
「ではこのままでおります」

頑なに化粧をしようとしないミリアムに皇子はつまらなそうに「チッ」と舌打ちする。彼女はそんな主を見て『私をいじる暇があるなら仕事すればいいのに』と思うのだった。
時々上の空になりがちな皇子ではあるが、政務についてはそつなく熟し有能である、来月には20歳の誕生日を迎えいよいよ皇太子に任命される時期にきた。

皇帝の子供は彼を除き姉妹ばかり三人いた、必然と男子のガルディオが皇帝を継ぐことになった。
「はぁ、釣書きがまた増えるのだろうな。なんて面倒な……書類に判を押しながら皇子はブツブツ愚痴を吐く。いつものことなので執務室にいたミリアムも仕分けの手伝いにいた文官たちも聞き流す。
「なぁベルノどう思う?やはり侯爵あたりか」
側近の一人である宰相の子息に皇子は答えを強請ってみた。

「え?そうですね、公爵陣は王族と血が近すぎますので。身分で選ぶなら……でも侯爵令嬢だと候補が少ないです、歳が近そうな方は未亡人で16歳上かと後は幼少から婚約者がいるので論外です」
「……16、かなりキツイな世継ぎが産めるか怪しいし俺が嫌だ。伯爵家で譲歩するしか」
「伯爵ならば全員年下ですね、一番年齢が近いのは8歳です」
「……俺はロリコンではない」

これでは国内から妃を娶るのは難儀だとガルディオは項垂れた、とならば諸外国からと考える他は選択肢がない。
「いいじゃないですか幼な妻、自分好みに育てるのも楽しいですよ」
「やめろ、まるで変態エロジジィの考えではないか!」
「えー親子くらい年の差はけっこういますよ?」
「いーやーだー!」

虚しい空論を繰り広げる二人の様子を少し離れたデスクで作業していたミリアムは”仕事しろ”と腹の内で呟くのだった。


そして、2月初旬に誕生日を迎えた皇子ガルディオは皇太子に無事任命された。この日、彼は一大決心を父である皇帝に宣言した。
「皇帝、私は他国から嫁を迎える所存です。国内では難しく思います」
「ふぅむ、そうか。仕方あるまいて、だが政界少し荒れそうだな。みんな我が子をと虎視眈々とこの日を狙っていたからな」
「ならば文句がつけようのない花嫁を探すまで!」


ババコンにもロリコンにもなれそうもないガルディオは窮地に立ったのである。
「絶対3歳前後!こればかりは譲れない!」
「おいおい……落ち着きなさい。許可を出しても良いが条件がある。皇太子として最初の仕事を命じる、謀反を企てる者を一掃せよ」
「ほお、父上は相変わらずの業吐くだ。わかりました、嫁探しのついでに処理しましょう」

皇太子の宣言を聞いた貴族たちは、適齢期に入った下位貴族の令嬢と養子縁組などをして候補を立てたりしたがそんな付け焼刃な縁談など皇太子は撥ね退けるのであった。
無論、穏やかではない方法で動き出す者も少なくなかった。


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