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偶然か必然か
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「失礼しました、一つ部屋を間違えたようで」
彼は長身を折って詫び「ヴァヘナの第一王子ステファンです」と自己紹介をした。
不慣れな城で迷ったと言い訳をする異国の王子に対し、マリルー王女はすんなり納得はしなかった。
彼の身分を鑑みればそれは嘘であると即座に見抜いたのだ。護衛も城の従者を共わなず一人で徘徊するわけがない。
「あら、慣れていない自覚がおありなのに従者らを連れないのはどうしてかしら?外交大使だからと好き勝手に振る舞うのは如何な物か……それとも密偵の真似事がお好きなの?」
「……」
言葉に詰まった王子は言い訳を必死に考えているようだが、何も浮かばず降参した。そして改めて無礼を働いたことを謝罪した。そこで引き下がると思いきや彼はサロン奥へ歩を進め彼女らの間近にやってきた。
入室を許可していないと王女は怒ったが彼は穏やかな笑みを浮かべており怯まない。
「異国の美姫に一目お会いしたかった、どうか愚かな私を許していただけないだろうか」
「歯の浮くことをスラスラ言うのですね……まぁ良いでしょう客人を持て成さない愚国と触れ回られたらたまりません」王女は直ぐに侍従を呼び無頼な王子に席を作らせ紅茶をすすめる。
「心遣いに感謝します」
「ふん、では何のためにここへいらしたの?」ややせっかちな性分らしい王女は早速と質問攻めになった。
ステファン王子は「参ったな」と頬を掻いてから経緯を話す。
「……なるほど、我が国の子女と懇意になりあわよくば娶りたいという謀ですのね」
切っ掛けの作り方が乱暴すぎると苦言を呈する王女に、彼は縮こまって「申し訳ない」と何度も言った。
「生憎ですが私にも彼女達にも婚約者おりますの、他をあたって下さいまし」
けんもほろろな態度の王女にステファンは「残念だ」と肩を竦めた。彼は身を縮めて恐縮しているがいかんせん大柄過ぎる体躯では物理的に無理があり滑稽に見えてしまう。
「マリルー様、あまり責めては気の毒ですわ。どうぞ召し上がってお口に合うとよろしいのだけど」
ビターなチョコ入りのクッキーをすすめたのはナタリアだ、口元を手で隠してはいたが笑っているのがわかる。
「ありがとう、ひとつ戴こう」
菓子を咀嚼する音がやたら大きく聞こえた。サクサクと食べる姿が愛らしいリスのようだと彼女は思って微笑む。
「いやあ美味しいな!我が国でも菓子はありますがこんな繊細な味わいは出会ったことがない!」
あまりにも美味しそうに食べるので、ナタリアは気を良くして他の味のものを全て提供した。
「ああ、美味しかった!これはどこで購入できますか?国への土産にしたいものです」
「え、売り物ではありませんのよ……困ったわ」
困惑して頬に手を当てるナタリアは自作のものだといって苦笑する、すると王子は瞠目して乱暴に立ち上がった。
「素晴らしい!貴女の名を聞いても良いですか?」
「え……ナタリアです、ナタリア・オーストンでございます」
***
勢いに負けて名乗ってしまったナタリアだったが、暑苦しい視線に耐えかねてあまり見ないで欲しいと抗議する。彼の真っ直ぐ過ぎる眼差しが彼女には強すぎるようだ。
「これは失礼した、貴女の婚約者に叱られますね」
急にションボリする王子の様子にナタリアは噴き出してしまった、大柄で威風堂々とした御仁かと思えば小動物のように愛らしい素振りをする。そのギャップが可笑しくて堪らないと彼女は思う。
「私には婚約者はおりませんわ、王女様は私に気を使ったのでしょう」
「なるほど!それは良い」
「はぁ?」
休憩の間に談笑して彼は退室の旨を言う、しかし名残惜しそうにしていたので残りのクッキーを袋に詰めて持たせると満面の笑みを浮かべて去って行った。
いままで出会ったことないタイプの男性にナタリアは新鮮な体験をしたと微笑む。
「あらぁ、いい感じねぇ野生の熊を餌付けしたみたいだけど」傷心中の友人に良い風が吹いたと王女は顔をキラキラさせた。
「良い感じって……なんですの?お菓子が絶賛されたのは自信が付きましたけど」
「見初められたかもってことよ~鈍いわね!」
最初は異国の王子に対して牽制していた王女だが、異国へ嫁ぐ者がいるなら国家間の友好に繋がると王族らしい顔を覗かせる。
「ねえどうなのナタリア?少々無骨だけどなかなかの美男子だったわよ」
「どうと言われても……王子の妃だなんて荷が重いですわ」
未だ男性不信を引き摺る彼女は返答に困るばかりだった。しかも見知らぬ土地となれば他の不安要素が付きまとう。
「お似合いだと思うのだけど……うむ、我が国としては後押ししたいところだわ」
再び為政者の顔と友人の幸せを願う思いを綯交ぜにした王女は思案深くなるのであった。
彼は長身を折って詫び「ヴァヘナの第一王子ステファンです」と自己紹介をした。
不慣れな城で迷ったと言い訳をする異国の王子に対し、マリルー王女はすんなり納得はしなかった。
彼の身分を鑑みればそれは嘘であると即座に見抜いたのだ。護衛も城の従者を共わなず一人で徘徊するわけがない。
「あら、慣れていない自覚がおありなのに従者らを連れないのはどうしてかしら?外交大使だからと好き勝手に振る舞うのは如何な物か……それとも密偵の真似事がお好きなの?」
「……」
言葉に詰まった王子は言い訳を必死に考えているようだが、何も浮かばず降参した。そして改めて無礼を働いたことを謝罪した。そこで引き下がると思いきや彼はサロン奥へ歩を進め彼女らの間近にやってきた。
入室を許可していないと王女は怒ったが彼は穏やかな笑みを浮かべており怯まない。
「異国の美姫に一目お会いしたかった、どうか愚かな私を許していただけないだろうか」
「歯の浮くことをスラスラ言うのですね……まぁ良いでしょう客人を持て成さない愚国と触れ回られたらたまりません」王女は直ぐに侍従を呼び無頼な王子に席を作らせ紅茶をすすめる。
「心遣いに感謝します」
「ふん、では何のためにここへいらしたの?」ややせっかちな性分らしい王女は早速と質問攻めになった。
ステファン王子は「参ったな」と頬を掻いてから経緯を話す。
「……なるほど、我が国の子女と懇意になりあわよくば娶りたいという謀ですのね」
切っ掛けの作り方が乱暴すぎると苦言を呈する王女に、彼は縮こまって「申し訳ない」と何度も言った。
「生憎ですが私にも彼女達にも婚約者おりますの、他をあたって下さいまし」
けんもほろろな態度の王女にステファンは「残念だ」と肩を竦めた。彼は身を縮めて恐縮しているがいかんせん大柄過ぎる体躯では物理的に無理があり滑稽に見えてしまう。
「マリルー様、あまり責めては気の毒ですわ。どうぞ召し上がってお口に合うとよろしいのだけど」
ビターなチョコ入りのクッキーをすすめたのはナタリアだ、口元を手で隠してはいたが笑っているのがわかる。
「ありがとう、ひとつ戴こう」
菓子を咀嚼する音がやたら大きく聞こえた。サクサクと食べる姿が愛らしいリスのようだと彼女は思って微笑む。
「いやあ美味しいな!我が国でも菓子はありますがこんな繊細な味わいは出会ったことがない!」
あまりにも美味しそうに食べるので、ナタリアは気を良くして他の味のものを全て提供した。
「ああ、美味しかった!これはどこで購入できますか?国への土産にしたいものです」
「え、売り物ではありませんのよ……困ったわ」
困惑して頬に手を当てるナタリアは自作のものだといって苦笑する、すると王子は瞠目して乱暴に立ち上がった。
「素晴らしい!貴女の名を聞いても良いですか?」
「え……ナタリアです、ナタリア・オーストンでございます」
***
勢いに負けて名乗ってしまったナタリアだったが、暑苦しい視線に耐えかねてあまり見ないで欲しいと抗議する。彼の真っ直ぐ過ぎる眼差しが彼女には強すぎるようだ。
「これは失礼した、貴女の婚約者に叱られますね」
急にションボリする王子の様子にナタリアは噴き出してしまった、大柄で威風堂々とした御仁かと思えば小動物のように愛らしい素振りをする。そのギャップが可笑しくて堪らないと彼女は思う。
「私には婚約者はおりませんわ、王女様は私に気を使ったのでしょう」
「なるほど!それは良い」
「はぁ?」
休憩の間に談笑して彼は退室の旨を言う、しかし名残惜しそうにしていたので残りのクッキーを袋に詰めて持たせると満面の笑みを浮かべて去って行った。
いままで出会ったことないタイプの男性にナタリアは新鮮な体験をしたと微笑む。
「あらぁ、いい感じねぇ野生の熊を餌付けしたみたいだけど」傷心中の友人に良い風が吹いたと王女は顔をキラキラさせた。
「良い感じって……なんですの?お菓子が絶賛されたのは自信が付きましたけど」
「見初められたかもってことよ~鈍いわね!」
最初は異国の王子に対して牽制していた王女だが、異国へ嫁ぐ者がいるなら国家間の友好に繋がると王族らしい顔を覗かせる。
「ねえどうなのナタリア?少々無骨だけどなかなかの美男子だったわよ」
「どうと言われても……王子の妃だなんて荷が重いですわ」
未だ男性不信を引き摺る彼女は返答に困るばかりだった。しかも見知らぬ土地となれば他の不安要素が付きまとう。
「お似合いだと思うのだけど……うむ、我が国としては後押ししたいところだわ」
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