完結 弄ぶのも大概に

音爽(ネソウ)

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漢を見せたステファン

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病院での騒ぎから七日後、いよいよ帰国する事となった使節団。
彼らを見送る王侯貴族達の中にナタリアの姿をみつけたステファン王子は護衛を振り切ってそこへ駆け寄った。
「ナタリア!来てくれたんだね」
頬を紅潮させた彼はとても嬉しそうだ、だがナタリアは一国民として見送りに参加しただけに過ぎない。
「道中はお気をつけてお帰り下さい、短い期間でしたがありがとうございました。どうぞ息災で」
事務的な言葉と過去形で締めた挨拶にステファンは寂しそうに微笑んで彼女の言葉を受け取った。

馬車に乗りこんだ彼は遠くなっていく異国の民へ手を振りながら呟く。
「国交は結ばれた、いつでも会いに行けるさ」
その台詞を拾った側近のひとりが「王族の権威を揮い連れて帰ることもできたでしょう」と嘯いたが王子は「馬鹿な」と言って相手にしない。
「そんな無体を働いたら、私は一生彼女に嫌われるだろう。それだけは絶対に嫌だ」
ステファンは大きく頭を振り存外自分は小心者なのだと自虐する。

「王子、いまなら間に合いますよ」
「止せ」
「正式に求婚はしたのですか?はぁ情けない……項垂れて後悔する暇があるのなら騎馬を一頭奪って漢を見せたらどうです?」
「な、なんだと!?」
あからさまな煽りに王子はムッとしたが、側近達はニヤニヤと笑って噂話をしていた。
「我らが帰国したら頃にはナタリア嬢は余所に求婚されているかもしれない」
「あれほどの美女だ引く手あまたに違いないよ」
「下卑た金持ちに迫られ無理矢理に嫁にされてしまうかも」などとコソコソと言っている。

彼らの嫌味を聞いた王子はみるみる顔を赤らめて叫んだ。
「お、お前達ぃ!好き勝手言いやがって!クソったれが、馬車を止めろ!おいそこの護衛、馬を貸せ!」
引き剥がすように手綱を奪うと王子は一目散に元来た道を駆けていった。愛するものを失いたくないと必死の形相である。
「もしもの話をしただけのなのにな?」
「ふふ、単純なものだなぁ」
「そこが良いところですよ、彼女はどう応えるか知りませんが」
いい性格の側近らは小さくなっていく王子の背中を見守りながら、我が国にもうひとつ土産話が増えそうだと笑うのであった。


***

「落ちついた見た目に反して騒がしい方だったわね、やんちゃというか」
「ええ、ほんとに少年のまま大人になったような……」
見送りを終えた王女とナタリアはやれやれと言って、次の慈善活動について話し合うべく城へと戻るところだ。

「元気な声がいまでも耳に残っていますわ」
「ほんとねぇ、独特な声質の方だったから」
”ナ……リア”
「バリトンボイスとでも言うのでしょうか?」
「それだわ!心に直接響くような」
”ナタ……ア~!”

”戻って来たよ!愛しいキミ”
「あらやだ、本当に聞こえてきたわ」
「空耳とはこんなに明瞭でしたでしょうか?」
王女たちは不思議なことだと首を傾いで、風の悪戯は面白い事をすると笑い合った。

しかし、彼の声に似た風の音と共に馬の駆ける音までしてきて、彼女らは漸く歩を止めて振り向いた。
数十メートル先に先ほど別れをしたはずのステファンの姿を捉えて驚愕する。
「蜃気楼にしては妙にリアルね」
「はい……そうですね。幻が近づいてきますわ」

「ナタリア!ナタリア嬢よ!聞いてくれ!」
名指しされた彼女は瞠目して、駆け寄って来る青年を見た。そして、ブルルと鼻を鳴らす馬を見上げて呆れる。
「王子殿下、なにをなさってますの?」
「ナタリアに正式に求婚しに舞い戻ってきたんだ!どうかこの手を取ってはくれないだろうか?」
馬から飛び降りて早々に跪いて彼はそう言った。

「ま……しょうがない人」
「ナタリア・オーストン嬢、私と結婚してください!」
「うーん……困ったわ」
愛を請う王子と求婚に困惑する令嬢の図はなかなか絵になっていたが、見守っていた王女らは笑うのを堪えるに必死である。

「お願いだナタリア~!」
「……うーん、お友達からならば良いですよ?」

ステファンの苦悩はしばらく続きそうだ。




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感想 1

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みんなの感想(1件)

おこ
2023.04.06 おこ

面白かったです〜

ナタリアとステファンの2人の今後がとても気になりました😳💓

2023.04.06 音爽(ネソウ)

ご感想ありがとうございます。
新しい話も近く公開しますので機会がありましたら読んでください。( ´▽`)

解除

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