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呪い発動 チェニーの罰

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マニエが投獄されてから二日、王族達にとくに変化はなかった。

「ふ、ふん!なんだただの虚仮威こけおどしではないか!別に怖がってなどいないがな!」
矜持だけは山のように高い王子はそう唾棄した。

その言葉に同調して両陛下も若干引きつるも笑い飛ばした。
「サンタアスの言う通りだな、所詮は小娘の戯言だったのだ!一国の王を脅そうなど生意気なことだ」
「え、ええ。そうですわ。たかが呪いですもの、攻撃魔法ならともかくね」

”ハハハハ””ホホホホ”と笑い好き勝手ほざく王族だった。


婚約破棄が成立して自由の身になったサンタアスは、チェニーと人目も憚らず逢瀬を楽しむようになった。
正式に認めらえた仲ではないが、側近たちも見ぬふりを決め込む。


「いずれは婚約するのだから」と……。




「会いたかったよチェニー!」
「私もよタース!」

美しい庭園で見つめ合うふたりは絵に描いたような恋人だった。
見目麗しい王子を見上げてチェニーは口づけを待つ。

そっと目を閉じて待機したチェニーだったが、いっこうにブチュリという感触がやって来ない。
不審に思って目を開けると、愛してやまない顔が苦悶に歪んでいた。


「ど、どうなさったの!?」
「……く、くさい」

「え?」


王子は数歩下がって手巾を鼻に当てて叫んだ。
「お前の口が凄く臭い!いったいなにを食べてきた!?馬糞みたいな臭いがするぞ!オエェエエ!」
「な、なんですって!?」


そんなバカなとチェニーは口臭を確認した、しかし己ではわからない。
「タ、タース、これはなにかの間違いよ、だって私はフルーツサラダしか食べてないわ」

チェニーはそう言って王子に数歩近づくと彼もさらに下がった。

「うぐっ!近寄るな臭い!嘘をつくな!だったらなんでこんな!……馬糞を直食いしたような臭いだぞ!」
「ひ、酷いわ!なんてことを言うの!」


あれほど愛おしいと思った女が臭いだけで、嫌悪の対象になるなど王子自身が信じられなかった。
蓼食う虫も好き好きと言うが、とても耐えられない悪臭が恋人から漂う。


「オェ!悪いがデートは中止だ、ブエッ!その口臭をどうにかしてこい!とてもじゃないが愛せないぞ!」
「……ひっく……うぅわかりましたわ、次回はしっかり洗浄して参ります」


その日はたまたま口臭が酷かっただけだろうと、二人は思った。
だがしかし、歯茎が痛むほど磨いても、嗽をしてもチェニーの口臭は一向に改善することはなかった。


最終手段で食事を抜いてみたが変化はない。
王子どころか、チェニーの家族と使用人たちまで彼女の汚臭に耐えられず避けるようになった。


「いったいどうなっているの!?こんなこと有り得ないわ!」チェニー自身には悪臭は感じないのだ。
ぷるりとしたローズピンクの唇をそっと撫でる、男だったら貪りたくなる可愛いさだ。

しかし、治らない口臭は彼女を悩ませ続ける。


「は!ま、まさか……これが呪い?マニエが言っていた呪いなの?」


命に係わることではないが物凄く地味な嫌がらせは酷い苦痛を与える、人々から避けられ続けることはチェニーにとって屈辱であり精神が病みそうだった。



”年頃の娘が馬糞臭い”
美少女と評判だったチェニーには耐えがたいことだろう。


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