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呪い発動 両陛下の罰
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その日の王妃は朝から上機嫌だった、なぜなら血色がとても良いからだ。
気になりだした小皺とタルミがその朝はまったくなくなっていた。
「まるで10歳若返ったようだわ!頬には光り玉、唇はプルプルよ!」
「はい、王妃様。化粧のノリがとても良いですわ」
侍女の誉め言葉に気を良くした王妃は艶やかな笑みを零す。
いつもより明るめの口紅を引いて見れば、とても40代とは見えない若さがあった。
晴れやかな気分で廊下へ出てみれば、ちょうど国王陛下が通りかかったところだった。
「おはようメリアルデ、一緒に食堂へ行こうか」
「え、ええ。そうですわねアンソニー」
若く美しいままの王妃とは対照的に、国王は御髪が儚くなりつつあり、肌艶も失せていた。
王妃は心の奥で盛大に溜息を吐き、”禿げるなんて詐欺だ”と嘆いていた。
執政の能力は困らない程度にある現王ではあるが、些か身なりを気にしないところが嫌だと王妃は思っている。
禿げ散らかった頭部を横目に見て眉間に皺が寄りそうになった。
近頃は加齢臭も纏っている気がした。
それから第一王子ワイゼリアスも加わって朝食がはじまった、サンタァスは寝坊だ。
「……あれはまだ寝ているのか、仕事も覚えようとしないしどういうつもりだ」
勤勉なワイゼリアスは怠惰な愚弟を嫌っている。
眉間に皺を寄せる長男に王妃が口を挟む。
「まあまあ良いじゃない、あの子は努力しても報われないのよ?」
「……そうやって甘やかすから浮気して婚約破棄などするのでしょう!父上もアイツをあのまま放置する気ですか?」
目付きの鋭い息子に睨まれて王は些か震えモゴモゴと何か言うと気まずそうに下を向く。
「もう結構、早期の蟄居を望みます。近頃の陛下は書類ミスが多すぎると苦情が絶えません。」
ワイゼリアスはそう言うと間違いだらけの書面をテーブルに叩きつけた。
彼が添削した赤い文字が、至る所に書き添えてあり、まともな箇所がほとんどなかった。
それを見た王妃は「あなた……簡単な単語さえ間違えて耄碌したわね」と諌言する。
「な、それはたまたま……そうだ頭痛が酷い日できっと間違えたのだ!」
そう主張するが、ほぼ毎日間違えているため息子に相手にされない。
「はぁ、次の議会は陛下の退位を提起します、すでに宰相と大臣らの総意で動いております。ご覚悟を」
「待ってくれ!余はまだやれる!引退など嫌だ!」
反発をするかのようにガシャリと音を立てて立ち上がる王だが、ワイゼリアスは一瞥もくれなかった。
それでも諦めの悪い王は咆え続ける。
「余は認めんからな!国の父であり、余が法である!絶対に認めな……グアッ!」
「陛下?」
王はぎっくり腰をやらかし動けなくなった、それ見た事かと王子をはじめ従者達もあきれ顔で手当てにあたる。
急激に老け込んだ王は相貌も酷い有様だったが、歯まで抜け落ちてまるで老人のようになっている。
咳き込めば腰の激痛と共に歯がボロボロと抜けていく。
「ひょんは!余のひゃがほろんろないろ!?」
***
「あの人、あんなにジジィだったかしら?」
王妃は己の若々しい姿を鏡で確認しながら呟いた。
近頃崩れかけていた体型がしゃんとしてきて、垂れ気味だった胸も上を向いていた。
「やっぱり日々の心がけよねぇ」
美しい己の肢体を眺めて自画自賛する王妃。
肌の張り艶はますます良くなり、まるで王の若さと生気を吸い取るかのようだと侍女らは恐ろしくなる。
数日後、執事が議事録を持って現れた。
「王妃様、王の退位が決定しました。近く王太子であるワイゼリアス様が戴冠されます」
「……そう、まぁ仕方ないわ。あんなに耄碌してわね」
いつも通り麗しい王妃に頭を垂れていた執事だったが「おや?」と困った顔をした。
「パメラ王女殿下でしたか、これは大変失礼を」
「え?……なにを言ってるの。私が王妃で間違いはなくてよ?」
「え、ですがそのお姿はどう見ても……」
自称王妃と名乗るその人物はどこから見ても少女だった。
声も高く、小鳥の囀りのような声になっている。
「あらやだ、そんなに若造りしてたかしら?」
王妃は手鏡を持ちおのれの美貌をチェックする、毎日のように見ている顔だったがさすがに若く見えすぎると思った。
「でも、老け込むよりずっとマシでしょう?」
娘と瓜二つのような容姿をひけらかすように姿見の前でクルリと回って見せた。
若返った喜びに花のように笑う王妃だ。
だがしかし、さらに数日後――
「ど、どうして!?どうしてなの!いやぁー!こんなの私じゃないわ!」
その日の朝、元王妃の居室で身の丈80cmほどの幼児が姿見の前で泣き叫んでいた。
王妃は呪いによって若くなりすぎていったのだ。
それに対比して、蟄居した王は枯れ枝のように痩せこけ老人になって寝込んでいる。
気になりだした小皺とタルミがその朝はまったくなくなっていた。
「まるで10歳若返ったようだわ!頬には光り玉、唇はプルプルよ!」
「はい、王妃様。化粧のノリがとても良いですわ」
侍女の誉め言葉に気を良くした王妃は艶やかな笑みを零す。
いつもより明るめの口紅を引いて見れば、とても40代とは見えない若さがあった。
晴れやかな気分で廊下へ出てみれば、ちょうど国王陛下が通りかかったところだった。
「おはようメリアルデ、一緒に食堂へ行こうか」
「え、ええ。そうですわねアンソニー」
若く美しいままの王妃とは対照的に、国王は御髪が儚くなりつつあり、肌艶も失せていた。
王妃は心の奥で盛大に溜息を吐き、”禿げるなんて詐欺だ”と嘆いていた。
執政の能力は困らない程度にある現王ではあるが、些か身なりを気にしないところが嫌だと王妃は思っている。
禿げ散らかった頭部を横目に見て眉間に皺が寄りそうになった。
近頃は加齢臭も纏っている気がした。
それから第一王子ワイゼリアスも加わって朝食がはじまった、サンタァスは寝坊だ。
「……あれはまだ寝ているのか、仕事も覚えようとしないしどういうつもりだ」
勤勉なワイゼリアスは怠惰な愚弟を嫌っている。
眉間に皺を寄せる長男に王妃が口を挟む。
「まあまあ良いじゃない、あの子は努力しても報われないのよ?」
「……そうやって甘やかすから浮気して婚約破棄などするのでしょう!父上もアイツをあのまま放置する気ですか?」
目付きの鋭い息子に睨まれて王は些か震えモゴモゴと何か言うと気まずそうに下を向く。
「もう結構、早期の蟄居を望みます。近頃の陛下は書類ミスが多すぎると苦情が絶えません。」
ワイゼリアスはそう言うと間違いだらけの書面をテーブルに叩きつけた。
彼が添削した赤い文字が、至る所に書き添えてあり、まともな箇所がほとんどなかった。
それを見た王妃は「あなた……簡単な単語さえ間違えて耄碌したわね」と諌言する。
「な、それはたまたま……そうだ頭痛が酷い日できっと間違えたのだ!」
そう主張するが、ほぼ毎日間違えているため息子に相手にされない。
「はぁ、次の議会は陛下の退位を提起します、すでに宰相と大臣らの総意で動いております。ご覚悟を」
「待ってくれ!余はまだやれる!引退など嫌だ!」
反発をするかのようにガシャリと音を立てて立ち上がる王だが、ワイゼリアスは一瞥もくれなかった。
それでも諦めの悪い王は咆え続ける。
「余は認めんからな!国の父であり、余が法である!絶対に認めな……グアッ!」
「陛下?」
王はぎっくり腰をやらかし動けなくなった、それ見た事かと王子をはじめ従者達もあきれ顔で手当てにあたる。
急激に老け込んだ王は相貌も酷い有様だったが、歯まで抜け落ちてまるで老人のようになっている。
咳き込めば腰の激痛と共に歯がボロボロと抜けていく。
「ひょんは!余のひゃがほろんろないろ!?」
***
「あの人、あんなにジジィだったかしら?」
王妃は己の若々しい姿を鏡で確認しながら呟いた。
近頃崩れかけていた体型がしゃんとしてきて、垂れ気味だった胸も上を向いていた。
「やっぱり日々の心がけよねぇ」
美しい己の肢体を眺めて自画自賛する王妃。
肌の張り艶はますます良くなり、まるで王の若さと生気を吸い取るかのようだと侍女らは恐ろしくなる。
数日後、執事が議事録を持って現れた。
「王妃様、王の退位が決定しました。近く王太子であるワイゼリアス様が戴冠されます」
「……そう、まぁ仕方ないわ。あんなに耄碌してわね」
いつも通り麗しい王妃に頭を垂れていた執事だったが「おや?」と困った顔をした。
「パメラ王女殿下でしたか、これは大変失礼を」
「え?……なにを言ってるの。私が王妃で間違いはなくてよ?」
「え、ですがそのお姿はどう見ても……」
自称王妃と名乗るその人物はどこから見ても少女だった。
声も高く、小鳥の囀りのような声になっている。
「あらやだ、そんなに若造りしてたかしら?」
王妃は手鏡を持ちおのれの美貌をチェックする、毎日のように見ている顔だったがさすがに若く見えすぎると思った。
「でも、老け込むよりずっとマシでしょう?」
娘と瓜二つのような容姿をひけらかすように姿見の前でクルリと回って見せた。
若返った喜びに花のように笑う王妃だ。
だがしかし、さらに数日後――
「ど、どうして!?どうしてなの!いやぁー!こんなの私じゃないわ!」
その日の朝、元王妃の居室で身の丈80cmほどの幼児が姿見の前で泣き叫んでいた。
王妃は呪いによって若くなりすぎていったのだ。
それに対比して、蟄居した王は枯れ枝のように痩せこけ老人になって寝込んでいる。
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