完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
2 / 15

約束の18歳

しおりを挟む
彼女は幼少から大人達と攻防することが多かった、そのせいも災いしてかカサンドラは気の強い性格にならざるを得なかった。王族に限らず、甘い言葉で擦り寄りその能力を己がために使わせようと目論む者が絶えなかったからだ。

相手は子供と見縊った者は手痛い目に合うが、自分はそんな抜かりはしないと思うのか次々と良からぬ者が彼女の周囲に群がる。結果としては全員伸されてしまうのだが。
「本当にシツコイこと!私を使って国家転覆まで企てるヤツまでいるなんて」
そのような腹黒い輩は王に密告して丸投げしている、そんなだから図らずも彼女の敵は内外に増え続けるのだった。



もうじき18回目の誕生日を迎える春先の事だ。
婚約者としての親睦を深める名目の茶会が開かれた、事なかれ主義なブルーノ王子を良く思っていない彼女は茶会を欠席することが多かった。
カサンドラは、その日も反故にするつもりで準備などしなかった。王城へ行けば必ず面倒ごとに巻き込まれるからだ。

だがしかし、その茶会は違った。
ブルーノ王子自らが侯爵家へ出向き彼女を迎えに来てしまったからである。
嫌そうに顔を顰めるカサンドラと隙を伺う愚妹アマリアが玄関で対応した。
「姉様が気乗りしないのでしたら是非私が!」
姉を強引に除けて出しゃばるアマリアは可愛い顔を作って王子にアピールする、だが良い反応は得られない。

「悪いが私が招きたいのはカサンドラだけなんだよ、遠慮したまえ」
「んまっ!……私の方が若くて可愛いですのに!」
空気を読もうとしない愚妹は王子に縋ったが、護衛によって剥がされてしまう。
猿のようにキィーキィー喚く愚妹を余所に、王子は甘い笑顔を婚約者に向けた。いつもと違う様子に彼女は渋々と彼の腕に手を置くしかなかった。



「我が家まで来るなどどういう風の吹き回しでしょう?」
王城のテラスへ着いて早々に仏頂面を隠しもせずカサンドラは王子に尋ねた、そうとう苛立っているのか茶を混ぜる匙をグルグルさせたまま尋ねている。
「まぁ、穏やかに茶を楽しもうよ。苺のタルトは嫌いかな?」
「……苺は好きです」
丸いタルトに乗った苺だけをフォークに刺してモクモクと咀嚼する様は子ネズミのようだ。甘い香気が口いっぱいに広がるが彼女の気分は晴れない。

「約束の18歳……らしいね」
王子は物憂げな面持ちで白いカップに視線を落として言った。
侯爵とカサンドラの密約を耳にしたらしい王子はなんとかして彼女の気持ちを止まらせたいようだ。
「どうして貴方が知っているのですか、父上を脅しましたか?」
「いいや、違うよ。私の我儘で聞き出した事だ申し訳ない、どうか侯爵を責めないでいただきたい」
「咎めないと言うなら良いですよ、母と妹は愚鈍ですがね。父は少し違います、父だけは一応味方です。日和見なところが癪ですが」
その言葉に王子は約束すると言って冷めた紅茶を一気に飲み干す。

「私の事は――好いてるわけがないか。もう少し時間をくれないかな?」
「王子、この国の為に私なんかを選ばないで下さいよ」
魔法が使えるからなんだとカサンドラは己の価値など路傍の草も同然と言う、便利な小道具とさして変わりはないと王子に伝えた。

「愛せなくてごめんなさい、私は家を出ます。さようなら」
「カサンドラ!」
揺るぎのない決意を示して、魔法使いの彼女はテラスから去って行った。

***

テラスに一人残されたブルーノは、彼女の心を掴めなかったことに打ちひしがれていた。
「好きなんだ、伝えられなかったけれど。私はいつも意気地なしだ愛想尽かされても仕方ない、それでも諦めきれない」
彼は唇を噛み震えながら独り言ちた。
家出を宣言した彼女は今後どのように生きるつもりなのか、様々に考えを巡らせてみたが王子には正解がみつかりそうもない。
「勝気でいつも凛としていたキミは私の憧れだった、ずっと傍にいたかったよ。追う資格なんてありはしない」
自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ王子だが、心の方は納得してくれない。密かに懸想するくらいなら許されるだろうかと彼は甘い事を考えた。

「いつまでもウジウジと、そんな風に落ち込むならば動きなさいませ」
「!?――シャレン、また勝手に陰にいたのか」
暗黒騎士にして王子の護衛のシャレンが柱の裏からスイッと姿を現した。影から影へと移動する様は魔法のようにも見えたが、実際はそうではない。異常なほどに発達した身体能力を発揮して彼に仕えているだけだ。

「ご命令とあらばどこまでも魔女様を追いますよ」
「追ってどうする、しつこくしてこれ以上嫌われたら私は……」
「はあ?とっくに嫌われてるでしょうが、ゼロどころかマイナスですよ、今更何をしても嫌われるのなら同じじゃないですか?」
影者シャレンの言葉はグサグサとブルーノの心に刺さって激しく痛みつけた。

「ぐあ、もう虫の息だよ!……でもそうか、地の底ほどに嫌われているなら怖くも無いか」
彼は少し遠い目をしてから、何かを決意してテラスから移動した。
「私も変わる時がきた……諦めないさ。愛しいカサンドラ」


***

「ひぃ!なにか悪寒が走ったけど、なに?なに?」
屋敷に戻って早々に旅支度をしていたカサンドラは出立前に体調を崩しては困ると自身に回復魔法を必死にかけた。
そして、一息つくとどこへ向こうかと地図を広げるのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...