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約束の18歳
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彼女は幼少から大人達と攻防することが多かった、そのせいも災いしてかカサンドラは気の強い性格にならざるを得なかった。王族に限らず、甘い言葉で擦り寄りその能力を己がために使わせようと目論む者が絶えなかったからだ。
相手は子供と見縊った者は手痛い目に合うが、自分はそんな抜かりはしないと思うのか次々と良からぬ者が彼女の周囲に群がる。結果としては全員伸されてしまうのだが。
「本当にシツコイこと!私を使って国家転覆まで企てるヤツまでいるなんて」
そのような腹黒い輩は王に密告して丸投げしている、そんなだから図らずも彼女の敵は内外に増え続けるのだった。
もうじき18回目の誕生日を迎える春先の事だ。
婚約者としての親睦を深める名目の茶会が開かれた、事なかれ主義なブルーノ王子を良く思っていない彼女は茶会を欠席することが多かった。
カサンドラは、その日も反故にするつもりで準備などしなかった。王城へ行けば必ず面倒ごとに巻き込まれるからだ。
だがしかし、その茶会は違った。
ブルーノ王子自らが侯爵家へ出向き彼女を迎えに来てしまったからである。
嫌そうに顔を顰めるカサンドラと隙を伺う愚妹アマリアが玄関で対応した。
「姉様が気乗りしないのでしたら是非私が!」
姉を強引に除けて出しゃばるアマリアは可愛い顔を作って王子にアピールする、だが良い反応は得られない。
「悪いが私が招きたいのはカサンドラだけなんだよ、遠慮したまえ」
「んまっ!……私の方が若くて可愛いですのに!」
空気を読もうとしない愚妹は王子に縋ったが、護衛によって剥がされてしまう。
猿のようにキィーキィー喚く愚妹を余所に、王子は甘い笑顔を婚約者に向けた。いつもと違う様子に彼女は渋々と彼の腕に手を置くしかなかった。
「我が家まで来るなどどういう風の吹き回しでしょう?」
王城のテラスへ着いて早々に仏頂面を隠しもせずカサンドラは王子に尋ねた、そうとう苛立っているのか茶を混ぜる匙をグルグルさせたまま尋ねている。
「まぁ、穏やかに茶を楽しもうよ。苺のタルトは嫌いかな?」
「……苺は好きです」
丸いタルトに乗った苺だけをフォークに刺してモクモクと咀嚼する様は子ネズミのようだ。甘い香気が口いっぱいに広がるが彼女の気分は晴れない。
「約束の18歳……らしいね」
王子は物憂げな面持ちで白いカップに視線を落として言った。
侯爵とカサンドラの密約を耳にしたらしい王子はなんとかして彼女の気持ちを止まらせたいようだ。
「どうして貴方が知っているのですか、父上を脅しましたか?」
「いいや、違うよ。私の我儘で聞き出した事だ申し訳ない、どうか侯爵を責めないでいただきたい」
「咎めないと言うなら良いですよ、母と妹は愚鈍ですがね。父は少し違います、父だけは一応味方です。日和見なところが癪ですが」
その言葉に王子は約束すると言って冷めた紅茶を一気に飲み干す。
「私の事は――好いてるわけがないか。もう少し時間をくれないかな?」
「王子、この国の為に私なんかを選ばないで下さいよ」
魔法が使えるからなんだとカサンドラは己の価値など路傍の草も同然と言う、便利な小道具とさして変わりはないと王子に伝えた。
「愛せなくてごめんなさい、私は家を出ます。さようなら」
「カサンドラ!」
揺るぎのない決意を示して、魔法使いの彼女はテラスから去って行った。
***
テラスに一人残されたブルーノは、彼女の心を掴めなかったことに打ちひしがれていた。
「好きなんだ、伝えられなかったけれど。私はいつも意気地なしだ愛想尽かされても仕方ない、それでも諦めきれない」
彼は唇を噛み震えながら独り言ちた。
家出を宣言した彼女は今後どのように生きるつもりなのか、様々に考えを巡らせてみたが王子には正解がみつかりそうもない。
「勝気でいつも凛としていたキミは私の憧れだった、ずっと傍にいたかったよ。追う資格なんてありはしない」
自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ王子だが、心の方は納得してくれない。密かに懸想するくらいなら許されるだろうかと彼は甘い事を考えた。
「いつまでもウジウジと、そんな風に落ち込むならば動きなさいませ」
「!?――シャレン、また勝手に陰にいたのか」
暗黒騎士にして王子の護衛のシャレンが柱の裏からスイッと姿を現した。影から影へと移動する様は魔法のようにも見えたが、実際はそうではない。異常なほどに発達した身体能力を発揮して彼に仕えているだけだ。
「ご命令とあらばどこまでも魔女様を追いますよ」
「追ってどうする、しつこくしてこれ以上嫌われたら私は……」
「はあ?とっくに嫌われてるでしょうが、ゼロどころかマイナスですよ、今更何をしても嫌われるのなら同じじゃないですか?」
影者シャレンの言葉はグサグサとブルーノの心に刺さって激しく痛みつけた。
「ぐあ、もう虫の息だよ!……でもそうか、地の底ほどに嫌われているなら怖くも無いか」
彼は少し遠い目をしてから、何かを決意してテラスから移動した。
「私も変わる時がきた……諦めないさ。愛しいカサンドラ」
***
「ひぃ!なにか悪寒が走ったけど、なに?なに?」
屋敷に戻って早々に旅支度をしていたカサンドラは出立前に体調を崩しては困ると自身に回復魔法を必死にかけた。
そして、一息つくとどこへ向こうかと地図を広げるのだった。
相手は子供と見縊った者は手痛い目に合うが、自分はそんな抜かりはしないと思うのか次々と良からぬ者が彼女の周囲に群がる。結果としては全員伸されてしまうのだが。
「本当にシツコイこと!私を使って国家転覆まで企てるヤツまでいるなんて」
そのような腹黒い輩は王に密告して丸投げしている、そんなだから図らずも彼女の敵は内外に増え続けるのだった。
もうじき18回目の誕生日を迎える春先の事だ。
婚約者としての親睦を深める名目の茶会が開かれた、事なかれ主義なブルーノ王子を良く思っていない彼女は茶会を欠席することが多かった。
カサンドラは、その日も反故にするつもりで準備などしなかった。王城へ行けば必ず面倒ごとに巻き込まれるからだ。
だがしかし、その茶会は違った。
ブルーノ王子自らが侯爵家へ出向き彼女を迎えに来てしまったからである。
嫌そうに顔を顰めるカサンドラと隙を伺う愚妹アマリアが玄関で対応した。
「姉様が気乗りしないのでしたら是非私が!」
姉を強引に除けて出しゃばるアマリアは可愛い顔を作って王子にアピールする、だが良い反応は得られない。
「悪いが私が招きたいのはカサンドラだけなんだよ、遠慮したまえ」
「んまっ!……私の方が若くて可愛いですのに!」
空気を読もうとしない愚妹は王子に縋ったが、護衛によって剥がされてしまう。
猿のようにキィーキィー喚く愚妹を余所に、王子は甘い笑顔を婚約者に向けた。いつもと違う様子に彼女は渋々と彼の腕に手を置くしかなかった。
「我が家まで来るなどどういう風の吹き回しでしょう?」
王城のテラスへ着いて早々に仏頂面を隠しもせずカサンドラは王子に尋ねた、そうとう苛立っているのか茶を混ぜる匙をグルグルさせたまま尋ねている。
「まぁ、穏やかに茶を楽しもうよ。苺のタルトは嫌いかな?」
「……苺は好きです」
丸いタルトに乗った苺だけをフォークに刺してモクモクと咀嚼する様は子ネズミのようだ。甘い香気が口いっぱいに広がるが彼女の気分は晴れない。
「約束の18歳……らしいね」
王子は物憂げな面持ちで白いカップに視線を落として言った。
侯爵とカサンドラの密約を耳にしたらしい王子はなんとかして彼女の気持ちを止まらせたいようだ。
「どうして貴方が知っているのですか、父上を脅しましたか?」
「いいや、違うよ。私の我儘で聞き出した事だ申し訳ない、どうか侯爵を責めないでいただきたい」
「咎めないと言うなら良いですよ、母と妹は愚鈍ですがね。父は少し違います、父だけは一応味方です。日和見なところが癪ですが」
その言葉に王子は約束すると言って冷めた紅茶を一気に飲み干す。
「私の事は――好いてるわけがないか。もう少し時間をくれないかな?」
「王子、この国の為に私なんかを選ばないで下さいよ」
魔法が使えるからなんだとカサンドラは己の価値など路傍の草も同然と言う、便利な小道具とさして変わりはないと王子に伝えた。
「愛せなくてごめんなさい、私は家を出ます。さようなら」
「カサンドラ!」
揺るぎのない決意を示して、魔法使いの彼女はテラスから去って行った。
***
テラスに一人残されたブルーノは、彼女の心を掴めなかったことに打ちひしがれていた。
「好きなんだ、伝えられなかったけれど。私はいつも意気地なしだ愛想尽かされても仕方ない、それでも諦めきれない」
彼は唇を噛み震えながら独り言ちた。
家出を宣言した彼女は今後どのように生きるつもりなのか、様々に考えを巡らせてみたが王子には正解がみつかりそうもない。
「勝気でいつも凛としていたキミは私の憧れだった、ずっと傍にいたかったよ。追う資格なんてありはしない」
自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ王子だが、心の方は納得してくれない。密かに懸想するくらいなら許されるだろうかと彼は甘い事を考えた。
「いつまでもウジウジと、そんな風に落ち込むならば動きなさいませ」
「!?――シャレン、また勝手に陰にいたのか」
暗黒騎士にして王子の護衛のシャレンが柱の裏からスイッと姿を現した。影から影へと移動する様は魔法のようにも見えたが、実際はそうではない。異常なほどに発達した身体能力を発揮して彼に仕えているだけだ。
「ご命令とあらばどこまでも魔女様を追いますよ」
「追ってどうする、しつこくしてこれ以上嫌われたら私は……」
「はあ?とっくに嫌われてるでしょうが、ゼロどころかマイナスですよ、今更何をしても嫌われるのなら同じじゃないですか?」
影者シャレンの言葉はグサグサとブルーノの心に刺さって激しく痛みつけた。
「ぐあ、もう虫の息だよ!……でもそうか、地の底ほどに嫌われているなら怖くも無いか」
彼は少し遠い目をしてから、何かを決意してテラスから移動した。
「私も変わる時がきた……諦めないさ。愛しいカサンドラ」
***
「ひぃ!なにか悪寒が走ったけど、なに?なに?」
屋敷に戻って早々に旅支度をしていたカサンドラは出立前に体調を崩しては困ると自身に回復魔法を必死にかけた。
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