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冒険者ドーラ

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山に行こうか、海へ行こうかで散々悩んだカサンドラだったが、急ぐ旅でもないので「どっちも行く」と決めた。
万能が過ぎる彼女は空間収納を開いて部屋に在る物をポイポイ投げ入れ続ける。
10分も経たずに部屋の中は空っぽになった、衣服などはタンス事収納したので仕分ける必要もなかったのだ。
最後に浄化魔法で清掃をすると「18年ありがとう」と部屋に感謝と決別をした。

父の書斎のドアに手紙を挟むとカサンドラはにっこり微笑む、その顔にはなんの憂いも無かった。
軽装のまま屋敷の外に出る彼女は家出を決行したようには見られない、どこかへ散歩にでも行くかのように足取りも軽やかだ。
ただいつもと違うのは馬車を使わないことだ、門番に絡まれるのが面倒と思った彼女は御用聞きが使う裏門から外へ出た。一応そこにも兵はいたが邪魔させない様に魔法で昏倒させて事なきを得る。

「あぁこの瞬間私は自由!誰にも邪魔はさせないわ、とはいえ小娘一人がウロウロしては目立つわよね」
彼女は認識疎外の魔法を発動させて移動する、このように堂々と街中を歩くのは初めてのことだ。
王都民には魔法使いカサンドラを知らぬ者はいない、人目を気にすることがない奔放な旅を彼女は嬉しくて仕方がないようだ。

移動魔法を使ってしまえばもっと楽ではあるが、それでは面白くないし魔力も消耗するのでいざと云う時以外は温存することにしていた。
「旅といえば冒険者ギルドよね、でも本名は伏せておかないと」
身バレしては元も子もないのでそこは慎重にする、目当てのギルドは王都の中心にデデンと構えていた。
登録せずとも良かったが、最低限の資金は必要なのでやむを得なかった。



「ご新規登録ですね、Fランクからスタートです頑張ってくださいね」
「はい、シガナイ冒険者ドーラ!頑張ります」

***

「お姉様が家出したですって?バカねぇ、でもこれで王子の妃の席が空いたわ!未来の王子妃はこの私アマリアよ、オーホホホホッ!」
なにをどう勘違いすればそういう未来を描くのか、全く理解できない父は頭に熱が籠っていくのを感じる。
「無能のお前が相手にされるものか」
今のところは王家が騒ぐ様子は伺えないが、魔女カサンドラの失踪を知るのは時間の問題だろう。

「私こそが遠くへ行きたいものだよ、どうか息災でなカサンドラ」
娘が残した手紙を丁寧に畳むと書斎の奥へ隠した、取り立てて重要な文書でもないが愛娘が残したそれは宝に違いない。
もっと丁寧に愛してあげれば良かったと父親は渋面になりながらも、侯爵家が所有する領地運営に従事するのだ。
邪魔に思っていた長女が消えて花畑状態にある母子は請われもいないのに次の夜会までにドレスを誂えようとはしゃいでいる。

ブルーノ王子がアマリアを選ぶ理由もないのだが、彼女らはそれに気が付かない。



王都で冒険者登録を済ませたドーラことカサンドラは海方面を目指して南下していた。
辻馬車を乗り継いで着いた最初の街はローグという場所だった。
そこは小さいながらも医学と薬草学で発展した町である、茶色と黄色で統一された独特の街並みは整頓されていて地味ながらも趣があるとドーラは関心する。

「えっと、ここのギルドでは薬草探しが主なのね、初心者にぴったりだわ」
依頼ボードのほとんどが薬草求ムの貼り紙で溢れていた、日焼けした茶色の依頼書が一番報酬が高い。
どうやら入手が困難な薬草らしく、手を出す冒険者がいないと見えた。
「ふぅん、10gで金貨1枚か悪くないわ」
収穫限度は記されていないので収穫出来た量だけ報酬が受け取れるようだ、彼女は早速それを剥ぎ取った。


「これ受けたいです!」
「はいはい、……あぁ青麒麟草の収穫ですね。山岳地の危険な場所に自生してます。面倒ですが大丈夫ですか?」
「ええ、平気ですよ。山岳というと西の山ですよね」
依頼書にサインしてドーラは契約を結んだ、怪我などしても自己責任と書面に記されていたが万能娘にはなにも問題はない。

「いっちょやりますか」
身体をゴキゴキさせるとドーラは辻馬車と転移を挟んで移動をした。
ゴツゴツの岩肌だらけの岩山は登るほど険しく傾斜も酷くなった。それでも彼女は臆せず目当ての物を探すのだ。
やがて傾きと言えないほど岩は壁のようになり、這うように登る他なくなった。
「なるほど、依頼を受けたくないわけね」

断崖絶壁となった現場に目当ての草が点在していた。足場になりそうな箇所は僅か数センチ、辛うじて足がかけられても踏み外してしまいそうだ。
「だったら足場を気にしなきゃいいんだわ」
彼女はそう言うと透明な床でも出来たかのように、空中に浮かんで移動した。
下から吹き上げてくる突風もものともせずにドーラはひょいひょいと薬草を摘んでいった。風魔法を駆使して絶壁を制する彼女は涼しい顔である。

元から数が少ないので量を集めるのは中々骨が折れたが、そこそこの収穫になった。
麻袋二つ分を採ったドーラはホクホク顔でローグのギルドへ戻ったのである。
「……あ、ええと選別してすり潰し成分を鑑定いたしますので時間をく、くださいね」
「はい、いいですよ」
想像以上の収穫量を持参した新人にしどろもどろになりながら受付嬢が応対する、常人は魔力は僅かに保有しているが肝心の魔法が使えない、魔道具に頼り過ぎた歴史がそうさせたのだ。

「鑑定魔法が使えないのはもどかしいわね」

ギルド員が手分けして薬草を仕分けているのをボンヤリ眺めて待った。待ちくたびれて船を漕ぎ出した頃に名を呼ばれた。
「お待たせしました、全部本物です。1.2kg買い取って金貨120枚です」
「はい、ありがと。お疲れ~」
半日仕事で金貨が120枚、十分過ぎる収入である。王都で贅沢に暮らしても半年は生活できる額だ。
彼女は散財する予定もないのでほぼ貯金とした。

「順調過ぎて怖い!」


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