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侵入者 対峙するふたり
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意気投合とまではいかない二人ではあったが、帰路の馬車内では穏やかな雰囲気ですごした。
ブルフィールド侯爵邸に着くとアイリスは御礼を述べて、是非お茶をと誘った。
セインは即答で誘いにのる、半分は社交辞令で誘ったアイリスだが頬を引きつらせつつ案内する。
王子相手に門前で帰れとは非礼にあたるので止むを得ない。
当たり障りない世間話をしながら玄関へ歩く二人と従者。
フットマンがドアを開いた時だった、庭園の茂みから這い出るなにかが彼等の前に立ちはだかる。
「リリィ……会いたかったよ、俺の女神」
痩せこけて姿は変貌していたが、それはロードリックだった。
どう侵入したのか疑問だが目の前の怪人物を撃退するのが先決だ。
セイン王子がアイリスを庇うように立ち剣の柄に手をやる、友人相手にも躊躇はなかった。
「ロディ、不法侵入とは見下げたな。夜分にどういうつもりだ?斬られても文句は言えないぞ」
「……なんでセインがアイリスといるんだ?彼女は俺の恋人だ、俺の物だぞ!」
唾を飛ばし激高するロードリックは飢えた魔物のようだった。
落ち窪んだ目は正気を失い、尋常ではない殺気と嫉妬をセイン王子に向けている。
「不敬ですよ、アイスブラド令息。それに屋敷に無断で侵入とは許せません!」
アイリスの固い台詞を耳にしたロードリックは目を見開いて反論する。
「き、キミは俺の妻になるのに!なんでそんな他人行儀なのだ!そうか、王子に誑かされて洗脳でもされたのだね、可哀そうに俺が助けてあげるよ。こっちへおいで?邪魔者はすべて排除して幸せになろうじゃないか」
狂気の沙汰に陥っているロードリックは、自分の都合の良い思考で捲し立ててくる。
アイリスはかつて恋した相手にただただ嫌悪する。
「気持ち悪い」
「え?」
「気持ち悪いと言ったのです、アイスブラド令息。私達は婚約解消した他人ですよ。いつまで恋人気取りなんでですか!脳みそにウジでも湧きましたか?はっきり言って迷惑なんです!」
「あ、アイリス……あの」
「おだまり変質者!勘違いしているようなのではっきり申します、あの最後の茶会で私は貴方を見限りました。冷たい態度ばかりとられ続けて愛想が尽きたのですよ、恋心も情けも木っ端微塵ですよ!一片たりとも貴方に心などありません!視界に入れるのも不快です、まるで汚物を見てるようですわ!貴方の顔を見ると吐き気がします、出て行ってください!貴方なんか大嫌いです!二度と目の前に現れないで!」
一気に本音を吐いたアイリスと嫌悪の感情をぶつけられたロードリックは対局な表情だ。
すっきりした顔のアイリス。
この世の終わりを迎えたかのような顔のロードリックは地面に崩れ落ちて死にそうだ。
「あ、あ……アイリスが俺を嫌い……?そんな……うぅ大嫌いって……あああぁぁぁ」
子どものように泣き叫び、滂沱に涙を流す哀れな姿は社交界で羨望された氷の貴公子の片鱗は残っていない。
彼等の問答を見てセイン王子が盛大に吹き出した。
「ぶっふー!ご、ゴメン……耐え切れない!ぶっは!アハハハハハ!」
目の前の悲劇は彼にとっては喜劇に映ったらしい。夜の庭園に王子の笑い声が響いた。
「ひどいぞ!お前友人じゃないか……手ひどく振られたのに!」
「ぶっふ!だってお前げっふー!あの晩言っただろう?諦めろってブハッ……ブハハハハハ!」
地面に這いつくばって泣く男と笑い転げ悶絶する男を見下ろして、アイリスはどうしてこうなった?と頭痛に襲われた。
屋敷へ入ったアイリスはすぐに公爵家へ伝令を飛ばす。
事の顛末を知った公爵側は、後日正式に謝罪すると言い残してバカ息子を回収して行った。
「はぁ……疲れましたわ」
「いやぁ面白い物を見せて貰ったよ」
笑い疲れたセインは冷茶を一気にあおり氷の音を鳴らしておかわりを所望した。
「殿下は良い性格してらっしゃいますね」
「あれ?今頃気が付いたの?フフフ」
「……」
サロンに合流した兄ウィルが「お疲れ」と労いの言葉をかける。
「まさか侵入するとは、酷い騒ぎだったね」
「せっかくの歌劇の感動が失せてしまいましたわ」
そう嘆くアイリスに、また誘って欲しいと強請られたと勘違いしたセイン王子は大喜びする。
「そういう意味じゃなくて」
「ふふ、私はいつでも機会を作るよ?」
セインを胡乱な目で見るアイリスとニコニコ相好を崩しご機嫌な王子を見たウィルは、急に仲良くなったなと首を傾げた。
騒ぎの翌日に、早速謝罪に訪れたデンゼル公爵は平謝りであった。
「毎度毎度、わが愚息が申しわけないことを……」
不法侵入したロードリックを衛兵に渡さなかった慈悲に感謝しつつ、納めて欲しいと大金貨がぎっしり詰まった箱を差し出してきた。
アイリスは荒事にしたくなかっただけと受け取りを拒否したが、面目が潰れるからと押し切られてしまう。
「では、これっきりロードリック様との係りはごめん被ります」
「はい、わかってますアイリス嬢。夜会であっても声をかけさせません!」
それを聞いてやっと安堵したアイリスは両親に目配せした。
「うむ、デンゼルきみとの友情は永遠であると約束しよう、頭をあげたまえ」
「あぁ、ありがとう!君の心の広さに感謝する」
いまだ大失恋の傷が癒えないロードリックは置いといて両家は手打ちした。
こうして漸く婚約解消の悲喜劇は幕を下ろしたのである。
ブルフィールド侯爵邸に着くとアイリスは御礼を述べて、是非お茶をと誘った。
セインは即答で誘いにのる、半分は社交辞令で誘ったアイリスだが頬を引きつらせつつ案内する。
王子相手に門前で帰れとは非礼にあたるので止むを得ない。
当たり障りない世間話をしながら玄関へ歩く二人と従者。
フットマンがドアを開いた時だった、庭園の茂みから這い出るなにかが彼等の前に立ちはだかる。
「リリィ……会いたかったよ、俺の女神」
痩せこけて姿は変貌していたが、それはロードリックだった。
どう侵入したのか疑問だが目の前の怪人物を撃退するのが先決だ。
セイン王子がアイリスを庇うように立ち剣の柄に手をやる、友人相手にも躊躇はなかった。
「ロディ、不法侵入とは見下げたな。夜分にどういうつもりだ?斬られても文句は言えないぞ」
「……なんでセインがアイリスといるんだ?彼女は俺の恋人だ、俺の物だぞ!」
唾を飛ばし激高するロードリックは飢えた魔物のようだった。
落ち窪んだ目は正気を失い、尋常ではない殺気と嫉妬をセイン王子に向けている。
「不敬ですよ、アイスブラド令息。それに屋敷に無断で侵入とは許せません!」
アイリスの固い台詞を耳にしたロードリックは目を見開いて反論する。
「き、キミは俺の妻になるのに!なんでそんな他人行儀なのだ!そうか、王子に誑かされて洗脳でもされたのだね、可哀そうに俺が助けてあげるよ。こっちへおいで?邪魔者はすべて排除して幸せになろうじゃないか」
狂気の沙汰に陥っているロードリックは、自分の都合の良い思考で捲し立ててくる。
アイリスはかつて恋した相手にただただ嫌悪する。
「気持ち悪い」
「え?」
「気持ち悪いと言ったのです、アイスブラド令息。私達は婚約解消した他人ですよ。いつまで恋人気取りなんでですか!脳みそにウジでも湧きましたか?はっきり言って迷惑なんです!」
「あ、アイリス……あの」
「おだまり変質者!勘違いしているようなのではっきり申します、あの最後の茶会で私は貴方を見限りました。冷たい態度ばかりとられ続けて愛想が尽きたのですよ、恋心も情けも木っ端微塵ですよ!一片たりとも貴方に心などありません!視界に入れるのも不快です、まるで汚物を見てるようですわ!貴方の顔を見ると吐き気がします、出て行ってください!貴方なんか大嫌いです!二度と目の前に現れないで!」
一気に本音を吐いたアイリスと嫌悪の感情をぶつけられたロードリックは対局な表情だ。
すっきりした顔のアイリス。
この世の終わりを迎えたかのような顔のロードリックは地面に崩れ落ちて死にそうだ。
「あ、あ……アイリスが俺を嫌い……?そんな……うぅ大嫌いって……あああぁぁぁ」
子どものように泣き叫び、滂沱に涙を流す哀れな姿は社交界で羨望された氷の貴公子の片鱗は残っていない。
彼等の問答を見てセイン王子が盛大に吹き出した。
「ぶっふー!ご、ゴメン……耐え切れない!ぶっは!アハハハハハ!」
目の前の悲劇は彼にとっては喜劇に映ったらしい。夜の庭園に王子の笑い声が響いた。
「ひどいぞ!お前友人じゃないか……手ひどく振られたのに!」
「ぶっふ!だってお前げっふー!あの晩言っただろう?諦めろってブハッ……ブハハハハハ!」
地面に這いつくばって泣く男と笑い転げ悶絶する男を見下ろして、アイリスはどうしてこうなった?と頭痛に襲われた。
屋敷へ入ったアイリスはすぐに公爵家へ伝令を飛ばす。
事の顛末を知った公爵側は、後日正式に謝罪すると言い残してバカ息子を回収して行った。
「はぁ……疲れましたわ」
「いやぁ面白い物を見せて貰ったよ」
笑い疲れたセインは冷茶を一気にあおり氷の音を鳴らしておかわりを所望した。
「殿下は良い性格してらっしゃいますね」
「あれ?今頃気が付いたの?フフフ」
「……」
サロンに合流した兄ウィルが「お疲れ」と労いの言葉をかける。
「まさか侵入するとは、酷い騒ぎだったね」
「せっかくの歌劇の感動が失せてしまいましたわ」
そう嘆くアイリスに、また誘って欲しいと強請られたと勘違いしたセイン王子は大喜びする。
「そういう意味じゃなくて」
「ふふ、私はいつでも機会を作るよ?」
セインを胡乱な目で見るアイリスとニコニコ相好を崩しご機嫌な王子を見たウィルは、急に仲良くなったなと首を傾げた。
騒ぎの翌日に、早速謝罪に訪れたデンゼル公爵は平謝りであった。
「毎度毎度、わが愚息が申しわけないことを……」
不法侵入したロードリックを衛兵に渡さなかった慈悲に感謝しつつ、納めて欲しいと大金貨がぎっしり詰まった箱を差し出してきた。
アイリスは荒事にしたくなかっただけと受け取りを拒否したが、面目が潰れるからと押し切られてしまう。
「では、これっきりロードリック様との係りはごめん被ります」
「はい、わかってますアイリス嬢。夜会であっても声をかけさせません!」
それを聞いてやっと安堵したアイリスは両親に目配せした。
「うむ、デンゼルきみとの友情は永遠であると約束しよう、頭をあげたまえ」
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