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遊学篇
ほんとうの旅立ちへ
新年が明けて初夏の陽射しが降り注ぐある日。
純白を纏ったアイリスが緊張の面持ちでドレッサーの前で震える。
「ル、ルルルルルルル……」
「お嬢様、私の名はそんなに長くないですよ」
緊張しまくるアイリスを窘め、5回目のルージュを引きなおす。
落ち着かない彼女が何度も唇を舐めてしまうのだ。お陰で歯が赤くなってしまい、うがいも何度したことか。
「歯が赤い鬼女みたいになっちゃいます!」
「だってー!緊張するんだもの!」
まったくもう!とルルが溜息をつく。
「だいじょうぶですよ、バージンロードは侯爵様が手を引いてくださいます。ねぇ侯爵様」
アイリスの父、侯爵に声を掛けたルル。
「あ、アバババババババババッ」
「侯爵様……」
アイリスより酷い状態の当主に侍女ルルは眩暈がした。
そこへ仕度を見に来た母ソルニエが夫アンリオに盛大にビンタして喝を入れた。
「全員背筋を伸ばして並べ!点呼!」
軍隊よろしく檄を飛ばす母、1!2!3!4!と声を張り上げた。
「ん?なんだ……いたのですかウィル。なんて影の薄い」
「酷いな、母上!」
身内でギャイギャイやっているとノック音が聞こえた。ドア影から現れた顔を見たアイリスは急に元気になった。
「まぁ!レット!来てくれたのね!」
「当たり前よ!なんて素敵なのアイリス!おめでとう」
挨拶もそこそこに抱き合うふたり。
それから慌ててスカーレットが侯爵夫妻に挨拶する。
「あらまぁ素敵なお嬢さんね」
「うん、美人だ!」
褒められて困っているスカーレットへ、羨望の眼差しを送る影の薄いウィルフレッドがいた。
「兄さま、もじもじして気持ち悪いですよ」
「う、一言多いなもー!」
するとスカーレットの方からウィルフレッドへ近づいた。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「あ!はい!でもレット嬢と会えなくて寂しかったですよ!いやぁ美しいです!主役が霞みますね!」
兄の暴言にアイリスがローキックをお見舞いする。
尻の良いところへヒットしたらしく、ウィルが雄叫びをあげて昏倒した。
花嫁になってもアイリスは変わらない。
リンゴンと鐘が鳴り、厳かなパイプオルガンの音が鳴り響く。
仰向けに転がったウィルフレッドが目を覚ます、毛の長い絨毯のおかげで瘤はできなかった。
「は、しまった!式は!?」
「まだ始まってませんよ」
優しい声がすぐ横で聞こえた、スカーレットがソファの横で見守っていた。
ウィルフレッドがガバリと起きて「結婚してください!」と叫んだ。
大きく瞳を見開いた彼女はいきなりですねぇと苦笑した。
「私は婚約破棄された傷物ですよ、それに……」
「待ちます!何年でも何十年でも!ボクは貴女をずっと愛します!」
そんなに待たせたらオバアチャンになっちゃうわとスカーレットが笑う。
共白髪までという誓いがあるんですよ、そうウィルが言えば「素敵な言葉ですね」と微笑んだ。
***
ド緊張した親娘がバージンロードを歩く、半分くらいのところで躓いたが辛うじて踏ん張る。
待ちかねた新郎セイン王子が優しい笑みを浮かべてアイリスの手を取った。
「待ち焦がれましたよ、私の唯一で可愛い子猫ちゃん」
「もう、恥ずかしいです!」
朗々と誓いを促す言葉を神父が読み上げていく、誓いのキスがやたら長いと独身貴族が野次った。
それから花とライスシャワーを浴びて、アイリスはブーケを投げた。
「お次はだーれ?」
ワーキャーと独身女性陣が大騒ぎする、ポンポン撥ね返るブーケの行方を目で追う。
見事キャッチした幸運な人は――?
……
……
……
後方に控えていたヒャッハー!なモヒカン男が申し訳なさそうにブーケを握っていた。
アイリスらしい式になったと両親が笑った。
(完)
純白を纏ったアイリスが緊張の面持ちでドレッサーの前で震える。
「ル、ルルルルルルル……」
「お嬢様、私の名はそんなに長くないですよ」
緊張しまくるアイリスを窘め、5回目のルージュを引きなおす。
落ち着かない彼女が何度も唇を舐めてしまうのだ。お陰で歯が赤くなってしまい、うがいも何度したことか。
「歯が赤い鬼女みたいになっちゃいます!」
「だってー!緊張するんだもの!」
まったくもう!とルルが溜息をつく。
「だいじょうぶですよ、バージンロードは侯爵様が手を引いてくださいます。ねぇ侯爵様」
アイリスの父、侯爵に声を掛けたルル。
「あ、アバババババババババッ」
「侯爵様……」
アイリスより酷い状態の当主に侍女ルルは眩暈がした。
そこへ仕度を見に来た母ソルニエが夫アンリオに盛大にビンタして喝を入れた。
「全員背筋を伸ばして並べ!点呼!」
軍隊よろしく檄を飛ばす母、1!2!3!4!と声を張り上げた。
「ん?なんだ……いたのですかウィル。なんて影の薄い」
「酷いな、母上!」
身内でギャイギャイやっているとノック音が聞こえた。ドア影から現れた顔を見たアイリスは急に元気になった。
「まぁ!レット!来てくれたのね!」
「当たり前よ!なんて素敵なのアイリス!おめでとう」
挨拶もそこそこに抱き合うふたり。
それから慌ててスカーレットが侯爵夫妻に挨拶する。
「あらまぁ素敵なお嬢さんね」
「うん、美人だ!」
褒められて困っているスカーレットへ、羨望の眼差しを送る影の薄いウィルフレッドがいた。
「兄さま、もじもじして気持ち悪いですよ」
「う、一言多いなもー!」
するとスカーレットの方からウィルフレッドへ近づいた。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「あ!はい!でもレット嬢と会えなくて寂しかったですよ!いやぁ美しいです!主役が霞みますね!」
兄の暴言にアイリスがローキックをお見舞いする。
尻の良いところへヒットしたらしく、ウィルが雄叫びをあげて昏倒した。
花嫁になってもアイリスは変わらない。
リンゴンと鐘が鳴り、厳かなパイプオルガンの音が鳴り響く。
仰向けに転がったウィルフレッドが目を覚ます、毛の長い絨毯のおかげで瘤はできなかった。
「は、しまった!式は!?」
「まだ始まってませんよ」
優しい声がすぐ横で聞こえた、スカーレットがソファの横で見守っていた。
ウィルフレッドがガバリと起きて「結婚してください!」と叫んだ。
大きく瞳を見開いた彼女はいきなりですねぇと苦笑した。
「私は婚約破棄された傷物ですよ、それに……」
「待ちます!何年でも何十年でも!ボクは貴女をずっと愛します!」
そんなに待たせたらオバアチャンになっちゃうわとスカーレットが笑う。
共白髪までという誓いがあるんですよ、そうウィルが言えば「素敵な言葉ですね」と微笑んだ。
***
ド緊張した親娘がバージンロードを歩く、半分くらいのところで躓いたが辛うじて踏ん張る。
待ちかねた新郎セイン王子が優しい笑みを浮かべてアイリスの手を取った。
「待ち焦がれましたよ、私の唯一で可愛い子猫ちゃん」
「もう、恥ずかしいです!」
朗々と誓いを促す言葉を神父が読み上げていく、誓いのキスがやたら長いと独身貴族が野次った。
それから花とライスシャワーを浴びて、アイリスはブーケを投げた。
「お次はだーれ?」
ワーキャーと独身女性陣が大騒ぎする、ポンポン撥ね返るブーケの行方を目で追う。
見事キャッチした幸運な人は――?
……
……
……
後方に控えていたヒャッハー!なモヒカン男が申し訳なさそうにブーケを握っていた。
アイリスらしい式になったと両親が笑った。
(完)
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