その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)

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遊学篇

失恋は恋で上書きすべし

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「ウィル兄さま!なんでここに?」
「なんでって来たから」
話にならないと言ったアイリスは兄の腹を優しく?殴る。

「ゲボォ!……容赦ないな……ゲッホ。じつはセインに遊学の話を聞いて興味が湧いてさゲフッ」
アイリス達を追いかけ半日遅れで着いたという。

「お仕事はどうするんです?」
「長期休暇をもぎ取ってきた、ここの所休暇なしだったから一気にね」

そういう事情ならとアイリスは納得して、友人のスカーレットを紹介する。
「こちらスカーレット嬢、わたしの大親友よ!」
「初めまして、スカーレット・サンドリアです。妹さんには良くしていただいて・・え?」

紹介途中だというのにウィルフレッドがスカーレットの腕を取りブンブン振った。
「ボクはウィルフレッド!ウィルと呼んで!よろしく美しいお嬢さん!」
「え……はぁよろしくお願いします?」

あっけにとられるスカーレットは兄にされるがまま腕をブンブン付き合わされていた。
「兄さま!落ち着いて!!!」

ズドゴッという鈍い音を鳴らしウィルフレッドの頭へ踵落としした妹である。
「ごげぉ!!さすがに痛いっ!!!脳漿飛び散ってない!?ボク生きてる?ねぇ!」
「生きてますよ、兄さま」

ドレスで格闘技はいけませんとスカーレットに怒られたアイリスだった。
「え。あ、ごめん、パンツ見えてないよね?」

その様子の傍らで笑い袋(セイン)が腹を抱えて転がっていたのは言うまでもない。

***

「キミの笑顔はボクが守りたい」
「はぁ……?」

ケーキより甘ったるい台詞をウィルフレッドが言う度に鳥肌がたつアイリス。
そして笑い転げるセイン王子。

「うっわー、なんか味がしないわこのケーキ……だれのせいかしら」
「ボクの妹は味音痴なんだねハッハッハ」
んだとコラッとやり返す妹。

「仲良しな兄妹ねぇ、ひとりっ子だから羨ましいわ」
「そうですか!だったらボクが婿入りしますよ!」

「兄さま!長男でしょ!?家督はどうするんですか!」
「アイリスがいるだろ?」

軽く言う兄になんてことをと頭を抱えるが「それなら私が侯爵家の婿になれるね」とセインが悪ノリする。
「どうしてこう男共は……ごめんねレット、兄が旅恥テンションみたいで」
「ふふ、いいのよ。面白い方ね、嫌な事も忘れてしまうわ」

コロコロと笑うスカーレットの様子に「たまにはバカ兄も役にたつのねぇ」と感心した。
「それで兄様はこれからどう過ごす予定で?」
「レット嬢の警備かな」
「は?」

どういうともりなのかと我が兄を睨むアイリス、親友を口説く兄の姿を見せられて居たたまれないと嘆く。
「レット、気持ち悪かったらワンパンしていいからね?」
「やーね、リィったら。うふふっ」


すっかり意気投合している二人に案外似合いなのかしらと思い始めていた。
「ねぇ。リィ、あっちはほっといて私を見てよ?やっと婚約できたのに塩すぎて寂しいよ」
「な、なななななんですか急に!」
「ナが多いね」

顔を真っ赤に染めて慌てる彼女の手を、両手で包むセイン王子は美しい笑みを浮かべる。
「う、眩しいっ目がやられる!」
「リィのほうが眩しいよ?」

急に甘くなったセイン達を眺めて、スカーレットが帰国前と全然違うと言って笑う。
お互い揶揄いあっては笑い、楽しいひと時を過ごす。


学園に戻り数日経てばセイン王子が婚約したと広まった。
相手は噂があったアイリスと知った女学生たちは悲喜こもごもの様子だ、だがメロルの件もあってか露骨な嫌がらせや悪口は聞こえてこなかった。


平和に遊学していた2週間後、兄ウィルフレッドは休暇を終えて後ろ髪引かれつつ帰国していった。
スカーレットとどう進展したかは今の所わからないが、良い友人くらいにはなって欲しいとアイリスは思う。

「素敵なお兄様だったわね」
「興味ある?弱いけど性格は良いわよ」
そういうアイリスにスカーレットは曖昧に笑うだけだった。

兄が去って3か月後、アイリス達も帰国となった。
「結婚式に招待しても良い?」
「もちろんよ!絶対行くからね!ブーケトス頑張るから!」

待っているわとアイリスは親友を優しく抱きしめた。
ちょっと遠い空の向こうの親友との再会を楽しみにして、アイリスは帰路へ向かった。

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