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遊学篇
待っていたスカーレット
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色々と面倒ごとがあった帰国だったが無事婚約を済ませ、再び遊学先へ戻った二人。
帰国した時は他人だったのにとアイリスは不思議でむず痒い思いだ。
馬車で移動中も前回と違ってセイン王子が対面に座っていた。
ほんとうは横に座ると主張した王子だが、侍女ルルが許さなかった。
マウゼオ公爵邸に戻ったアイリスは照れながらも婚約の報告をした、手紙ではすでに伝えてあったが改めて叔母に言いたかったのだ。
「おめでとうリィ!やーっとくっついたのねぇ」
「ええ?どうして」
両片想いがバレバレだったと叔母夫婦に突っ込まれ、キョトリするアイリスである。
「ほんとにねぇ……セイン殿下が気の毒で気の毒で」
「……恐れ入ります」
王子が叔母に頭を下げて溜息を吐く、置いてきぼりのアイリスは不満顔だ。
「なんかわからないけど失礼ね!」
***
帰国中に参加できなかった講義分を自習して、3カ月ぶりの学園へ向かうアイリスは浮かれ気味だ。
談話室を見回し見覚えのある背中を見つけると駆け寄った。
「レット!ただいま!」
「まぁ!リィ!おかえりなさい!」
二人は手を取り合い再会を喜んだ、だがなんとなくスカーレットの様子がおかしいと気が付く。
「レット?なにかあったの元気がないわ、それに眼鏡なんてしてた?」
若干濁りがあるそれは伊達眼鏡のようだ。
ここでは話せないとスカーレットはアイリスの手を引いて裏庭へ向かう。
レットは躊躇いながら眼鏡を外した。
「まぁレット!?腫れあがって痛そうよ!」
労わるアイリスにスカーレットはポロリと涙を零した。
「うぅ……リィ、私……悔しい。」
もどかしい口調でそう告げた彼女はアイリスの胸で嗚咽を漏らした、アイリスは驚きつつも落ち着かせようと背中を撫でて話すのを待つ。
「グス……取り乱してごめんね、実は婚約破棄になったの」
「ええ!?マイキーと?あんなに愛し合っていたじゃないの!」
信じられないとアイリスは震える、寄り添い合って常にハートを飛ばしていた二人が破局するとは俄かに信じられなかった。
どうしてそんな事にと思ったが彼女が話すのを待つ。
「私の家は他国の珍しい食品を輸入して販売しているの、それがこのところ思わしくなくて」
「まぁ……それは大変ね」
スカーレットの話では貴族街を中心に店を数件経営している家だという、しかしライバル店が近所に建てられ客が取られてしまったというのだ。
売り上げが減ったものの大きな打撃ではなかった、だがマイキーの伯爵家が傾きそうな家と縁を結べば共倒れしかねないと婚約破棄を願いでたというのだ。
「そんな一方的に?ひどいわ、マイキーは抵抗しなかったの?」
「……破棄にはマイキーも賛成したの、むしろ率先してたわ」
「なんですって!」
考え直してほしいと席を設けたが彼は現れなかった、そしてその話し合いの当日にマイキーは見知らぬ女性と逢引していたという。
「なによそれ!浮気じゃないの!」
「……どうやら我が家とその女性の家を天秤にかけてたらしいの」
相手の女性は裕福な子爵家で織物産業で成功した家だという。
「家柄がうちより下だから……でも傾いた伯爵より金持ちの子爵が良いって……あちらの有責で慰謝料を払うから手打ちにしろと……父は怒ってたけど薄情な家と手が切れて良かったと言ってたわ」
スカーレットは一気に事情を告白すると大きく息を吸って落ち着いた。
「聞いてくれてありがとう、心の靄が晴れた気分よ」
「ううん、何もしてあげられなくてもどかしいわ」
それからハッと気が付くアイリス、婚約破棄して悲しむ友人に自分の婚約報告は酷だと思った。
「どうかしたアイリス、今度は貴女が顔色が悪いわ」
「え……ゃそんな事わ~」
何か隠しているでしょうと目を眇めるスカーレットがにじり寄る。
「リィ私達ともだちよね?親友とも思ってる間柄よ?」
困り果てたアイリスはボソボソと婚約の報告をした。
「えっと……タイミングが最悪でごめ……ん」
「何いってるの!怒るわよリィ!」
スカーレットはアイリスを抱きしめて「でかした!」そう言って喜び、バンバンと背を叩いた。
「あんたたち両片思いでヤキモキしてたのよ!ニブチンのリィにしては上出来!よくやった!」
「やだもう、父親みたいよ!」
「ひどい、せめて母親って言って!」
二人は声を揃えて笑いあった。
落ちついた二人は食堂でお祝いのケーキを食べようと、来た時とは違う軽やかな足取りで向かう。
ランチ時間ではないので空いているだろうと入室すれば、セイン王子が手を振ってこちらへやってくる。
そして従者に紛れて、ありえない人物が手を振った。
「ウィル兄さま!?」
帰国した時は他人だったのにとアイリスは不思議でむず痒い思いだ。
馬車で移動中も前回と違ってセイン王子が対面に座っていた。
ほんとうは横に座ると主張した王子だが、侍女ルルが許さなかった。
マウゼオ公爵邸に戻ったアイリスは照れながらも婚約の報告をした、手紙ではすでに伝えてあったが改めて叔母に言いたかったのだ。
「おめでとうリィ!やーっとくっついたのねぇ」
「ええ?どうして」
両片想いがバレバレだったと叔母夫婦に突っ込まれ、キョトリするアイリスである。
「ほんとにねぇ……セイン殿下が気の毒で気の毒で」
「……恐れ入ります」
王子が叔母に頭を下げて溜息を吐く、置いてきぼりのアイリスは不満顔だ。
「なんかわからないけど失礼ね!」
***
帰国中に参加できなかった講義分を自習して、3カ月ぶりの学園へ向かうアイリスは浮かれ気味だ。
談話室を見回し見覚えのある背中を見つけると駆け寄った。
「レット!ただいま!」
「まぁ!リィ!おかえりなさい!」
二人は手を取り合い再会を喜んだ、だがなんとなくスカーレットの様子がおかしいと気が付く。
「レット?なにかあったの元気がないわ、それに眼鏡なんてしてた?」
若干濁りがあるそれは伊達眼鏡のようだ。
ここでは話せないとスカーレットはアイリスの手を引いて裏庭へ向かう。
レットは躊躇いながら眼鏡を外した。
「まぁレット!?腫れあがって痛そうよ!」
労わるアイリスにスカーレットはポロリと涙を零した。
「うぅ……リィ、私……悔しい。」
もどかしい口調でそう告げた彼女はアイリスの胸で嗚咽を漏らした、アイリスは驚きつつも落ち着かせようと背中を撫でて話すのを待つ。
「グス……取り乱してごめんね、実は婚約破棄になったの」
「ええ!?マイキーと?あんなに愛し合っていたじゃないの!」
信じられないとアイリスは震える、寄り添い合って常にハートを飛ばしていた二人が破局するとは俄かに信じられなかった。
どうしてそんな事にと思ったが彼女が話すのを待つ。
「私の家は他国の珍しい食品を輸入して販売しているの、それがこのところ思わしくなくて」
「まぁ……それは大変ね」
スカーレットの話では貴族街を中心に店を数件経営している家だという、しかしライバル店が近所に建てられ客が取られてしまったというのだ。
売り上げが減ったものの大きな打撃ではなかった、だがマイキーの伯爵家が傾きそうな家と縁を結べば共倒れしかねないと婚約破棄を願いでたというのだ。
「そんな一方的に?ひどいわ、マイキーは抵抗しなかったの?」
「……破棄にはマイキーも賛成したの、むしろ率先してたわ」
「なんですって!」
考え直してほしいと席を設けたが彼は現れなかった、そしてその話し合いの当日にマイキーは見知らぬ女性と逢引していたという。
「なによそれ!浮気じゃないの!」
「……どうやら我が家とその女性の家を天秤にかけてたらしいの」
相手の女性は裕福な子爵家で織物産業で成功した家だという。
「家柄がうちより下だから……でも傾いた伯爵より金持ちの子爵が良いって……あちらの有責で慰謝料を払うから手打ちにしろと……父は怒ってたけど薄情な家と手が切れて良かったと言ってたわ」
スカーレットは一気に事情を告白すると大きく息を吸って落ち着いた。
「聞いてくれてありがとう、心の靄が晴れた気分よ」
「ううん、何もしてあげられなくてもどかしいわ」
それからハッと気が付くアイリス、婚約破棄して悲しむ友人に自分の婚約報告は酷だと思った。
「どうかしたアイリス、今度は貴女が顔色が悪いわ」
「え……ゃそんな事わ~」
何か隠しているでしょうと目を眇めるスカーレットがにじり寄る。
「リィ私達ともだちよね?親友とも思ってる間柄よ?」
困り果てたアイリスはボソボソと婚約の報告をした。
「えっと……タイミングが最悪でごめ……ん」
「何いってるの!怒るわよリィ!」
スカーレットはアイリスを抱きしめて「でかした!」そう言って喜び、バンバンと背を叩いた。
「あんたたち両片思いでヤキモキしてたのよ!ニブチンのリィにしては上出来!よくやった!」
「やだもう、父親みたいよ!」
「ひどい、せめて母親って言って!」
二人は声を揃えて笑いあった。
落ちついた二人は食堂でお祝いのケーキを食べようと、来た時とは違う軽やかな足取りで向かう。
ランチ時間ではないので空いているだろうと入室すれば、セイン王子が手を振ってこちらへやってくる。
そして従者に紛れて、ありえない人物が手を振った。
「ウィル兄さま!?」
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