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セシルはのろのろと地下階段を降りて行く、小さなランプが一つ灯されているだけなのでかなり薄暗い。手摺がないことを彼はブチブチ文句を言う。貴族の常識ではありえない歓迎だ、案内役さえ現れないことに立腹している。”客に対してなんたる無礼”と彼は思った。
じっくり3分もかけて降り立ったそこも薄暗くて、甘ったるい香りが充満していた。非合法な何かの薬物だろうかと鼻を覆って警戒する。
「おい、そこの。さっさとカードを寄越しな無駄な挨拶はしねぇぞ」
「ひっ!?」
身の置き場に困っていると、酒焼けした低い声がセシルを脅すように聞こえてきた。部屋の奥まった所にひとつのカウチとサイドテーブルが置かれている。声の主はそこで脚を組み待っていた。そして再度カードを出せと言う。
怒らせてはいけないとセシルは焦る、カードはさきほど女に渡したことを伝えた。
「半切れのカードならお前さんの帽子の上にあるだろうが」苛立ちが混じった声でそう言われたセシルは「そんなバカな」と帽子を脱ぎ確かめると、巻きの部分に何かが挟まっていたことに驚いた。間違いなくさっき手渡したはずのカードだったからだ。
「いつの間に……と、とにかくこれだ」
セシルは震える手でそれを摘まむと男に渡そうと腕を伸ばした、だが横合いから突如出てきた野太い腕が彼の細腕を掴み上げてそれを奪った。暗がりで気づかなかったが部屋には10人の男達が潜んでいたのだ。
「お、脅かさないでくれ!」
「いちいちうるせぇなこのチキン野郎が、お頭どうぞ」2mくらいありそうな大男がノシノシとカウチにいた男へカードを渡す。そして、カシラと呼ばれた男が半分に切れたカードを取り出して二つを重ね見分した。
「ふん、間違いなく仲介屋デテのカードだ。奴と何処で会った?包み隠さず言いな」男は葉巻の先をブチリと千切ってふかし始めた。甘く燻した香りが部屋に漂う。益々委縮していくセシルは震える声でここへ来ることになった経緯を語る。
西外れの安宿に宿泊している事、そこの食堂兼バーで酒をあおり己の不幸を嘆いていたこと。そして、愚痴を肴に慰めてきた人物がデテという小男だったことを明かした。弱みを掴み”こちら側”へ引き込むやり口はまさに仲介屋の手口だとカシラは認めた。ほんの少し、場の空気が緩んだような気がしたセシルは固まっていた身体から力を抜く。
「良かろう闇ギルドへようこそ。さて……早速だが仕事を受ける前の段階を説明する。まず依頼人の相談を聞く、金貨2枚だ。これは口止め料とでも思え。請け負う価値があった場合は引き受ける、難度によるが前金5割先に貰い受ける、成功した場合は当然残りを戴く。そして不測の事態でこちらの人材が怪我や死亡した場合は割増しだ。さてどうするかね?」
眼光鋭い男に問われてセシルはグビリと唾を飲み込む。だが、カラカラの喉には飲み込むものがなく拍子に咳き込んだ。我ながら情けないと落ち込んだが確認するために前を向く。
「し、失敗した場合は……渡した金はどうなるんだ?返せるのか?」
その言葉に周囲の男達が反応して舌打ちや怒りの声を発してきた。矜持を傷つける質問だったようだ。
荒れて来た手下たちをカシラが「静まれ」と怒鳴った、シンとしたそこにピリピリした緊張が走る。
「客人、愚問には気を付けな。闇ギルドの俺達は命を張って仕事をするんだ、当然依頼人のアンタもだ。言葉は選ぶことだ、運河に浮かぶか細切れにされて山に埋まるかはアンタ次第だぞ」
「う、気を付ける。取り合えず相談をしたい金貨2枚だったな」
未だ貴族気分が抜けないセシルは脆弱なくせに上からの物言いをして相手を怒らせてしまう。虚勢はいつまで持つだろうか。
セシルは自分の身の上から始まり、最近世間を騒がせている王子の婚約についてぶちまけた。
カシラは黙って聞いていたが話が終わると同時に「俺達に国と戦えというのか」と呆れた顔をした。そんな大袈裟なことは言っていないとセシルは反論したが「阿呆」と一蹴された。
「もっと簡単な方法もあるだろうが、貴族に戻りたいなら男爵令嬢とかいるだろうが……なんでまた王子の婚約者を狙う?たしかにコリンソンは手広い商売でかなりの財産は持ってると聞くがな」
「ぐ、ボクは伯爵家の息子だ!低位貴族ではダメだ!ボクに流れる矜持が許さない!」
貴族だ血統だと煩いゲスの言葉をカシラは面倒そうに聞いていた、そして見合うだけの資金が出せるのかと問う。
すると少し威勢が落ちたセシルは「当主になったら伯爵家の財で払う」とほざいた。どうあってもコリンソン家に執着する彼は引かない。
「ガハハハッ!面白い。その業突くな性根が気に入った、国に楯突いて悪さをするのが闇ギルドってもんさ。良いぞ受けてやるただし伯爵家の財が残るかは保障できねぇぞ大仕事だからな」
「わ、わかった。ボクは爵位が欲しい、それが叶うなら財産は二の次さ。ボクは優秀だから領主としてすぐに挽回してみせる!」
愚かなセシルは闇ギルドの長へ大ぼらを吹いた。
じっくり3分もかけて降り立ったそこも薄暗くて、甘ったるい香りが充満していた。非合法な何かの薬物だろうかと鼻を覆って警戒する。
「おい、そこの。さっさとカードを寄越しな無駄な挨拶はしねぇぞ」
「ひっ!?」
身の置き場に困っていると、酒焼けした低い声がセシルを脅すように聞こえてきた。部屋の奥まった所にひとつのカウチとサイドテーブルが置かれている。声の主はそこで脚を組み待っていた。そして再度カードを出せと言う。
怒らせてはいけないとセシルは焦る、カードはさきほど女に渡したことを伝えた。
「半切れのカードならお前さんの帽子の上にあるだろうが」苛立ちが混じった声でそう言われたセシルは「そんなバカな」と帽子を脱ぎ確かめると、巻きの部分に何かが挟まっていたことに驚いた。間違いなくさっき手渡したはずのカードだったからだ。
「いつの間に……と、とにかくこれだ」
セシルは震える手でそれを摘まむと男に渡そうと腕を伸ばした、だが横合いから突如出てきた野太い腕が彼の細腕を掴み上げてそれを奪った。暗がりで気づかなかったが部屋には10人の男達が潜んでいたのだ。
「お、脅かさないでくれ!」
「いちいちうるせぇなこのチキン野郎が、お頭どうぞ」2mくらいありそうな大男がノシノシとカウチにいた男へカードを渡す。そして、カシラと呼ばれた男が半分に切れたカードを取り出して二つを重ね見分した。
「ふん、間違いなく仲介屋デテのカードだ。奴と何処で会った?包み隠さず言いな」男は葉巻の先をブチリと千切ってふかし始めた。甘く燻した香りが部屋に漂う。益々委縮していくセシルは震える声でここへ来ることになった経緯を語る。
西外れの安宿に宿泊している事、そこの食堂兼バーで酒をあおり己の不幸を嘆いていたこと。そして、愚痴を肴に慰めてきた人物がデテという小男だったことを明かした。弱みを掴み”こちら側”へ引き込むやり口はまさに仲介屋の手口だとカシラは認めた。ほんの少し、場の空気が緩んだような気がしたセシルは固まっていた身体から力を抜く。
「良かろう闇ギルドへようこそ。さて……早速だが仕事を受ける前の段階を説明する。まず依頼人の相談を聞く、金貨2枚だ。これは口止め料とでも思え。請け負う価値があった場合は引き受ける、難度によるが前金5割先に貰い受ける、成功した場合は当然残りを戴く。そして不測の事態でこちらの人材が怪我や死亡した場合は割増しだ。さてどうするかね?」
眼光鋭い男に問われてセシルはグビリと唾を飲み込む。だが、カラカラの喉には飲み込むものがなく拍子に咳き込んだ。我ながら情けないと落ち込んだが確認するために前を向く。
「し、失敗した場合は……渡した金はどうなるんだ?返せるのか?」
その言葉に周囲の男達が反応して舌打ちや怒りの声を発してきた。矜持を傷つける質問だったようだ。
荒れて来た手下たちをカシラが「静まれ」と怒鳴った、シンとしたそこにピリピリした緊張が走る。
「客人、愚問には気を付けな。闇ギルドの俺達は命を張って仕事をするんだ、当然依頼人のアンタもだ。言葉は選ぶことだ、運河に浮かぶか細切れにされて山に埋まるかはアンタ次第だぞ」
「う、気を付ける。取り合えず相談をしたい金貨2枚だったな」
未だ貴族気分が抜けないセシルは脆弱なくせに上からの物言いをして相手を怒らせてしまう。虚勢はいつまで持つだろうか。
セシルは自分の身の上から始まり、最近世間を騒がせている王子の婚約についてぶちまけた。
カシラは黙って聞いていたが話が終わると同時に「俺達に国と戦えというのか」と呆れた顔をした。そんな大袈裟なことは言っていないとセシルは反論したが「阿呆」と一蹴された。
「もっと簡単な方法もあるだろうが、貴族に戻りたいなら男爵令嬢とかいるだろうが……なんでまた王子の婚約者を狙う?たしかにコリンソンは手広い商売でかなりの財産は持ってると聞くがな」
「ぐ、ボクは伯爵家の息子だ!低位貴族ではダメだ!ボクに流れる矜持が許さない!」
貴族だ血統だと煩いゲスの言葉をカシラは面倒そうに聞いていた、そして見合うだけの資金が出せるのかと問う。
すると少し威勢が落ちたセシルは「当主になったら伯爵家の財で払う」とほざいた。どうあってもコリンソン家に執着する彼は引かない。
「ガハハハッ!面白い。その業突くな性根が気に入った、国に楯突いて悪さをするのが闇ギルドってもんさ。良いぞ受けてやるただし伯爵家の財が残るかは保障できねぇぞ大仕事だからな」
「わ、わかった。ボクは爵位が欲しい、それが叶うなら財産は二の次さ。ボクは優秀だから領主としてすぐに挽回してみせる!」
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