頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

兄妹の再会

ハウラナが惰眠を貪っていた時だった。

ふわりと魔法の風が吹いて目が覚めた、彼女は不機嫌にそこを睨む。
ミーニャが素早く王女の盾になって身構える。


「うちの侍女によく似たメイドがいるな、ラナが作ったの？」
「……はぁ、バカ兄でしたか、皇帝がこられるわけないものね」

「あれ～、皇帝をつれてきたほうが良かった？相思相愛なら俺はマヌケな天使じゃないか」
「誰が天使だ」


ブツクサと文句を垂れながらもミーニャに茶を用意するよう指示するハウラナであった。

「うん、美味しい。ゼベールの茶と同じ、というかくすねてた？」
「さすが察しが良いですね、それで用件は？」


素っ気ない可愛くないとカインは嘆いたがハウラナの目は冷たかった。

「側室になってからスレちゃったねぇ、まぁ無理もないけど」
懲りずに話を変えようとする兄の腹を正拳でド衝いたハウラナ。


カインは咳き込みながら、ある書面と皇帝からの言伝を吐いた。

「は？なにそれ……愛しい姫に会いたい？巫山戯てんですか」
再び腹を狙おうと拳を構えたハウラナに兄は慌てて弁解する。


「嘘じゃないから！口頭で伝えて欲しいと言われたんだ！聞かされたこっちが恥ずかしかったよ！その証拠に正妃になる為の書類を預かってきただろう？」
「何を考えているやら、兄も馬鹿だけど皇帝も相当ね」


3年で側室を辞する予定を貫くと突っぱねるハウラナは書類を突き返してきた。
「ん、そうだよねぇラナなら拒否だと思ってた」
「破り捨てたいところですが、仮にも国家発行の書類ですからね。」


腹立たしいことだと彼女は残りの茶を一気飲みして「ふぅ」っと息を吐いた。

「どうする、俺と一緒にゼベール城へ帰る？ここは随分居心地が良いけどゼベールの一部だろ？」
「うーん、年季がだいぶ残っているわ。遺恨が残らないといいけど」

「たとえあったとしても帝国如きにゼベールは落ちないぞ」


そういえばそうね、とハウラナは思った。
魔法に特化した国であるゼベールは、皇帝一人の力頼りな帝国など敵にならない。


そもそも、側室に入ったのは彼女の意地でもあった。夜会のあの日、皇帝は「来ない方が良い」と後ろ向きなことを言っていたのだから。

そう、だからこそハウラナは”愛してる正妃に迎えたい”などと、どの口が言うかと立腹したのだ。
なにかを嗅ぎ取ったらしいカインがニヤニヤして尋ねる。


「ラナ、素直にならないと真実は見えないよ。皇帝も大分拗れてるけどさ」
「どういう意味？」


「ああ見えて皇帝はさ、一途な男なんだ。ほらごらんよ」

カインはハウラナの小さな手に、皇帝に託されたものを握らせる。

「指輪……？ずいぶん古いわね高価そうにも見えないわ」

それはただ、古そうだとわかるもので細かい傷がたくさんついている。
一見は金にも見えるが錆が少し付着している、真鍮製とわかる安物だった。


「これ、どこかで……」

指輪の内側に刻印された文字を見て、ハウラナは蘇った記憶に頬が熱くなっていくのを感じた。