頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
27 / 32

魔法国ゼベール

しおりを挟む
勅命から僅か1週間で、旅商団を装ったイースレッドの密偵たちがゼベールへ入国した。


「加工品がほとんどだな、瓶詰の野菜に塩漬けの肉か……これはどうやって食べるんだ?」
「へい、こっちのは味付きオイル漬けでして野菜を解してパンにつけて食べると美味いんです。良かったら一つどうぞ」

「ほぉ!いいのか?悪いな、うん不審なところはない通っていいぞ」
積荷を見分した門兵たちは、特に変わった点はないと判断する。
実際、加工品の箱と少しの着替えくらいしか乗せていないのだ。


商団はガラガラと呑気に馬車を走らせ、商店街へと消えて行った。
「緊張感もなんもねぇな」
「そうだな、全体が平和ボケしているようだ」


揺れる馭者台で護衛役の男が入国時の印象などをメモしていた。

「それにしても見慣れないもんが多いな、空に浮かんでるのはランタンか?どういう仕組みだよ」
「魔道具だろ、夜になったら外灯の代わりになるんだろうよ」

得体の知れない魔道具があちこちに設置されていた、これらの技術が全てイースレッドのものになれば益々国は大きくなるだろうと密偵の一人は呟く。


「国王がここを欲しがるわけだな。見ろよアレ、馬なしの車が走ってるぞ!」
「あぁ、やけに街道が綺麗だと思ったが……そういうことか」

馬車は糞尿を垂れ流して闊歩する、それが諸外国では当然のことだ。
嫌な悪臭もなく、整頓された街並みは治安も良くなるのだろう。破落戸らしい者も見当たらない。



商売にきた体を装って、とある商店へ情報集めに立ち寄った。

「いーねぇ羨ましい、こんな綺麗な街は他で見ないよ」
「ええそうでしょうとも、ゼベールは優れた魔道具と浄化魔法を使う魔導士がいますからな」

店主は街を褒められて気を良くしたのか饒舌だった。
「この国には貧民街もありません、そのおかげか治安も良く、すべては国王様の統治力のお陰です」
「そうかい、俺も住みたくなるよ借家でも探そうかなハハハハッ」

商人がそういうと、店主は少し笑顔が強張った。
「どうかしたかね?」
「いや、……移民はあまり歓迎されませんのでね。出国もよほどの理由がないと許可がでないのですよ」

永住権を得るには相当の信頼を勝ち取らねばならないと店主が言った。
「買い付けや観光ならば歓迎されますが、ここの衛兵は厳しいので言動には気を付けなさいよ」
「そ、そうか肝に銘じておこう」


いくつかの商品をお試し交換をして、その場を辞する密偵たちだった。

「思いのほか余所者には風当りが強いようだ、ところで妙な球体が不自然な動きで浮いてるのがわかるか?」
「ああ、なんだろうな……俺達を追ってる気がする警戒しとけ」


その球体こと”映像記録魔道具”によって、密偵たちが追いつめられるのは数時間後の話。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約を解消されたし恋もしないけど、楽しく魔道具作ってます。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「君との婚約を解消したい」 「え? ああ、そうなんですね。わかりました」 サラは孤児で、大人の男であるジャストの世話になるため、体面を考えて婚約していただけだ。これからも変わらず、彼と魔道具を作っていける……そう思っていたのに、サラは職場を追われてしまった。 「甘やかされた婚約者って立場は終わったの。サラ先輩、あなたはただの雇われ人なんだから、上司の指示通り、利益になるものを作らなきゃいけなかったのよ」 魔道具バカなのがいけなかったのだろうか。けれどサラは、これからも魔道具が作りたい。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...