28 / 32
火蓋は切られた
しおりを挟む
「密偵と連絡が取れないだと!?」
王太子ルードの報告にイースレッド王は声を荒げた。
密偵達が入国して半月、総勢15名の者の行方がわからなくなった。
第一報の「無事入国、街商人らと接触開始」と報告があったきり連絡が途絶えたままだった。
「間諜部隊を預け仕切らせたのは失敗だったのだな、ルードお前には失望したぞ」
「待ってください父上!」
「黙れ!聞けば精鋭を出し惜しんで末端の者を使ったそうではないか!あれほどゼベールを侮るなと言ったであろうが!王太子は貴様から第二王子に挿げ替える!余の前から去ね!」
「そんな!挽回させてください!是非ゼベールへ俺を派遣させてください!かならず…」
縋ろうと手を伸ばしたルードの腕を払って王が怒鳴る。
「ウルサイ!もはや密偵を送る段階ではない!イースレッドがチョッカイをかけたと露見した今、再び探るなど意味はないわ!皇帝の寵姫の母国を踏み荒らしたと知れたら……いやもう手遅れかもしれん、我が国は帝国と魔法国を相手に戦う羽目になった……終わりだ、海戦ならいざ知らず双方より陸から攻められたら、いや帝国は飛竜使いがいて空戦も優れている、皇帝ひとりでも厄介だと言うのに……」
王は頭を抱えて玉座から崩れ落ちた。
***
「汚いネズミがイースレッドから届いたよ」
ハウラナの兄カインが就寝前のところへ転移してきた。
「兄さま!淑女の部屋ですよ!兄妹とはいえど許されません」
「ごめんごめん、ついね。荒事好きなラナなら喜ぶかと思って逸ってしまったよ」
「……まぁ否定はしませんが、戦争になりそうですか?」
眠気が吹っ飛んでしまったハウラナは夜着にガウンを重ねて聞き入る。
「皇帝の耳に入ったからね、ラナの国が狙われていると知れば避けられないさ」
「どうして?」
たかが小娘如きの為に帝国が動くだろうかと、ハウラナは解せないと頭を振った。
「なんていうか、クレイブ殿は気の毒だ。ラナには乙女心がないんだな」
「ちょっと!失礼ですよ兄様!わたしは女の子です!」
とにかく、イースレッドの造船技術を欲している帝国にとっては好機だろう。
結んでいた同盟を破棄して堂々と開戦の根拠(言いがかり)を掲げて進軍するに違いない。
「嫌ですよ、私をダシに戦争なんて!苦しむのは民ではないですか!少なくともイースレッドの国民が気の毒です」
「つけ入る隙を見せた側が悪いんだ政とはそういうものなんだ」
為政者の顔をした兄に、ハウラナは言葉に詰まったがなるべく最小限の被害内でとお願いした。
「わかってる、その為にはラナ……君の手も貸してくれ」
「……安くないですよ?」
ふくれっ面の妹の頭を撫でて「夜分すまなかった」と謝罪するとこまめに連絡を取ると約束して消えて行った。
「暴れるのは好きだけど、戦争となると違うわよ。困ったものね」
ハウラナはボフンと寝具に体を預けると目を瞑る、けれどその日はなかなか寝付けなかった。
王太子ルードの報告にイースレッド王は声を荒げた。
密偵達が入国して半月、総勢15名の者の行方がわからなくなった。
第一報の「無事入国、街商人らと接触開始」と報告があったきり連絡が途絶えたままだった。
「間諜部隊を預け仕切らせたのは失敗だったのだな、ルードお前には失望したぞ」
「待ってください父上!」
「黙れ!聞けば精鋭を出し惜しんで末端の者を使ったそうではないか!あれほどゼベールを侮るなと言ったであろうが!王太子は貴様から第二王子に挿げ替える!余の前から去ね!」
「そんな!挽回させてください!是非ゼベールへ俺を派遣させてください!かならず…」
縋ろうと手を伸ばしたルードの腕を払って王が怒鳴る。
「ウルサイ!もはや密偵を送る段階ではない!イースレッドがチョッカイをかけたと露見した今、再び探るなど意味はないわ!皇帝の寵姫の母国を踏み荒らしたと知れたら……いやもう手遅れかもしれん、我が国は帝国と魔法国を相手に戦う羽目になった……終わりだ、海戦ならいざ知らず双方より陸から攻められたら、いや帝国は飛竜使いがいて空戦も優れている、皇帝ひとりでも厄介だと言うのに……」
王は頭を抱えて玉座から崩れ落ちた。
***
「汚いネズミがイースレッドから届いたよ」
ハウラナの兄カインが就寝前のところへ転移してきた。
「兄さま!淑女の部屋ですよ!兄妹とはいえど許されません」
「ごめんごめん、ついね。荒事好きなラナなら喜ぶかと思って逸ってしまったよ」
「……まぁ否定はしませんが、戦争になりそうですか?」
眠気が吹っ飛んでしまったハウラナは夜着にガウンを重ねて聞き入る。
「皇帝の耳に入ったからね、ラナの国が狙われていると知れば避けられないさ」
「どうして?」
たかが小娘如きの為に帝国が動くだろうかと、ハウラナは解せないと頭を振った。
「なんていうか、クレイブ殿は気の毒だ。ラナには乙女心がないんだな」
「ちょっと!失礼ですよ兄様!わたしは女の子です!」
とにかく、イースレッドの造船技術を欲している帝国にとっては好機だろう。
結んでいた同盟を破棄して堂々と開戦の根拠(言いがかり)を掲げて進軍するに違いない。
「嫌ですよ、私をダシに戦争なんて!苦しむのは民ではないですか!少なくともイースレッドの国民が気の毒です」
「つけ入る隙を見せた側が悪いんだ政とはそういうものなんだ」
為政者の顔をした兄に、ハウラナは言葉に詰まったがなるべく最小限の被害内でとお願いした。
「わかってる、その為にはラナ……君の手も貸してくれ」
「……安くないですよ?」
ふくれっ面の妹の頭を撫でて「夜分すまなかった」と謝罪するとこまめに連絡を取ると約束して消えて行った。
「暴れるのは好きだけど、戦争となると違うわよ。困ったものね」
ハウラナはボフンと寝具に体を預けると目を瞑る、けれどその日はなかなか寝付けなかった。
29
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約を解消されたし恋もしないけど、楽しく魔道具作ってます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「君との婚約を解消したい」
「え? ああ、そうなんですね。わかりました」
サラは孤児で、大人の男であるジャストの世話になるため、体面を考えて婚約していただけだ。これからも変わらず、彼と魔道具を作っていける……そう思っていたのに、サラは職場を追われてしまった。
「甘やかされた婚約者って立場は終わったの。サラ先輩、あなたはただの雇われ人なんだから、上司の指示通り、利益になるものを作らなきゃいけなかったのよ」
魔道具バカなのがいけなかったのだろうか。けれどサラは、これからも魔道具が作りたい。
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる