(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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真夏のデザートは贅沢品

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ベルフラワードーナツ屋がどうにか軌道にのった所で私は化粧品類の製作に集中することに。
気が付けば真夏となり、石畳が敷かれる王都は灼熱地獄になっている。
汗をかいてベタベタになった人々は嫌そうに歩き、しきりにタオルで拭っていた。

どんな人でも不快には耐えられないわよね。
そこで作ったのはベビーパウダーよ、材料はジャガイモ澱粉。


栽培用の種芋を買った際にクズ芋が安価で売られてたから大量確保しておいたの。
芋をすりおろして布で包み水に晒せば白い澱粉で瞬く間に濁る。
上澄みを捨てては水にさらすのを繰り返し、沈殿した白い澱粉を乾燥させれば完成。

所謂カタクリ粉ね。ついでにこれでわらび餅を作ったわ。
良く冷やせば夏のデザートにピッタリね。

話が逸れた……ケフンケフン。

ベビーパウダーを最初は自分と家族分だけをコッソリ試作したわ、香料代わりにミントオイルとレモンオイルを少量混ぜてみた。

汗ばんでいた肌がサラサラになったとお母様が大喜びした。
「衣服が張り付かなくてとても気持ちが良いわ、それに香りも良くてミントの効果で涼しいこと」

うんうん、そうでしょう。
涼感を楽しむならミントはかかせないわ。

男性は夏場もブーツを履くから是非足に使って欲しい。
こちらはベビーパウダーに重曹を混ぜたものよ、菌の繁殖を抑えて匂い防止にもなるわ。
父と兄に強制的に使わせたら、職場に持っていきたいと強請られた。

特に兄の友人は騎士が多いので夏場の寄宿舎は色々と地獄らしいの。
なんとなくわかるわ……怖くて詳細は聞きたくないけど。

ちなみに我がスペンサー家の稼業は茶葉栽培と販売よ。
ベビーパウダーの提供と引き換えに緑茶の開発をおねだりしておいた。

芽摘みの指示までしたら、変な顔をされちゃった。
そうよね、紅茶用の茶葉は新芽をざっくり収穫するらしいから。

首を傾げる父と兄に、緑茶の魅力について滔々と聞かせてあげたわ。
旨味のことからカテキンの健康効能まで2時間ほど喋りまくったら「わかったから勘弁してくれ」と嘆かれた。
なんでよ、解せない。


それから香水瓶にミント水を入れたものを我が家の庭師と茶畑の作業員にプレゼント。
虫除けに使ってと言えば喜んで貰えたわ、清涼感もあるのでメイドたちも欲しがった。
日頃のお礼に無償で配ったわ。いつもありがとう。

それにしても茶とハーブのほとんどは食用にしか使われてないなんて勿体ないこと。
商品化しない手はないわ。
先ずは同時進行で作っていたカモミールの日焼け止めの試作品を身近な女性たちに配ることにした。
どのような効果があるか説明書きも忘れない。

これまでへちま水しかなかっただけに相当珍しいので世間様の反応が怖い。
でも動かなければ先に進めないわ。


***

私はドーナツ店の片隅にハーブ化粧水を置くことにした。
家族や侍従たちの協力のもと、商品化することに成功したわ。自信はあるけどやっぱり不安。
ドーナツを買いにきた女性限定で試供品を配るのも忘れないわ。

「ローズウォーターと、それからタイムを使ったニキビ対策のものを並べましょう」
夏場は肌トラブルが多い季節だわ、絶対注目されると踏んでいるの。
それとイートインで出される飲み物に緑茶を加えることにしたわ。

水出しの緑茶は風味はもちろん、ほのかな甘味があって美味しいわ。
ドーナツのしつこさを流してくれるから一押しだというポスターも貼った。

浸透するまで長いかと思っていたけど、新しいものが大好物の貴婦人方が大量に釣れた。
ある意味大漁?……失礼しました。

お母さまが茶会を開いて広めて下さったことも大きな影響だと思う。
それからベビーパウダーが爆発的に売れまくった。領民達に新しい稼ぎが増えて家令が土下座の勢いで礼を言ってきたのは閉口する。

これは父と兄のお陰です、貴族の口コミは侮れないわね。
ひとりで奮闘だなんて思いあがってた、家族には感謝しきれない大恩が出来たわ。



そして、真夏日に油っぽいドーナツは犬猿されるかと危惧してたけど、順調に客足はあるみたい。
この国の人たちは胃腸が頑丈のようね、素晴らしいわ。

でもね夏用のデザートも用意しているのよ!
簡単に出来てしかも安価、わらび餅よ。記憶ノートにはワラビという山菜から粉を作るのが本当だと書いたけど無いのだから仕方ない。

それにしても私は一体何者なんだろう?うーん、わからない、一旦置いておこう。

わらび餅、透明なそれは涼やかで、黒糖蜜を垂らしきな粉を振りかけてできあがり。
ひんやり冷えたそれは暑気を掃うデザートよ。
こちらも女性限定でサービスしたら、喜ばれたわ。定番のメニューに加えましょう。

「でもね、一番提供したいのは氷菓子なのよね」
私の呟きを拾ったのは、厨房にいた主婦の料理人だった。毎日暑い中でもドーナツを揚げてくれる有難い人材です。

「オーナー様、氷を食べるのはさすがに無理ですよ。氷室に蓄えた氷は限りがあるし、冷蔵庫に使うだけで手一杯。しかも高いですから」

「うん、そうなのよねぇ。冷凍庫があればなー」

聞き慣れない機械名を聞いた主婦さんは「はて?」と言って不思議がる。
ごめんなさい、そんなもの存在しないのはわかってるのよ。

氷室は遠く離れた山に造られた穴だ。
王都へ運搬するだけでもかなり苦労する、よって当然値がはる代物。
どうしようもないと思ってもやっぱり欲しいわ。

「あぁ、かき氷。雪のように白くてフワフワ、それに果汁と練乳をかけた魅惑の逸品!」
突然と鮮明に蘇った記憶の断片が私を我儘にした。

「かきごおりとはなんですか?そんなに美味しいのですか?」
主婦さんと洗い場にいた従業員が、恍惚とした表情の私に注目していた。

あらやだ、恥ずかしい!

「え、えーと氷をフワフワに削って甘いシロップをかけて食べるデザートよ。夏の御馳走なの」
「氷がフワフワ?あんな硬い塊がですか……信じられない」

そうよねー、見たことがないんだもの仕方ないわ。
木箱の冷蔵庫から氷を拝借と悪い事を考えたが、猛反対されたのは言うまでもない。

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