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忘れられたアフォ達、そして伝説へ……にならない。
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俯瞰視点。
忙しい日々を送るアリスを余所にアフォカップルこと、イーライとポリーは優雅な旅行を楽しんでいた。
資金が尽きるギリギリまで遊ぶことにしている彼らに、後先を考えるという頭がなかった。
いま、彼らが逗留しているのは湖近くに佇む豪奢なホテルだった。
朝靄が漂うそこは夏ということを忘れるほど涼しい。
暑がりのポリーの我儘で、旅行先は高原の避暑地に決まったのである。
「はぁ、湖畔近くはほんとうに涼しくて好きだわー!華やかな王都も良いけど夏は絶対ここよ!」
大はしゃぎするポリーに、イーライは連れてきて良かったと相好を崩す。
湖の水際で遊ぶ彼女を抱き寄せて今日も甘く囁いた。
「愛しいポリーに喜んでもらえて嬉しいよ」
「ふふ、私の喜びはライの幸せ?」
「うん、そうだよ。ボクはキミの笑顔さえあれば何も要らないんだ!」
「まぁ、ライったら!ウフフフ」
二人は見つめ合い、熱い口づけを交わす。
事情を知らない旅人は「お似合いの夫婦ですね」と世辞をよこす。
彼らはそれに満足して呑気に笑う。
自分達こそが真の愛を掴んだ選ばれし恋人なのだと確信した。
いつものように湖畔で戯れる二人だったが、やがて空腹に気が付き宿泊先に戻ることにした。
やや急ぎ足になるイーライに、ポリーがシャツの裾を引っ張りぐずりだした。
「どうかした?疲れたのならば食堂ではなく部屋へ食事を運ばせようね」
「……違うのライ、その……この楽しい時間が終わったらどうしようと思って」
いつか領地へ帰る、当たり前の現実がもうすぐやってくる。
急に不安に駆られたらしいポリーが悲し気に俯いていた。
しかし、イーライは能天気に笑ってこう言う。
「領地に帰るのが嫌になったのかな?まだ数日ほど時間はあるよ」
「うん、でも帰ればあのブスがいるし……なぜだか私の給金もストップしたでしょ。きっと意地悪されて追い出されるわ!そんなのあんまりだと思わない!?なんであんなのが正妻なのかしら!」
癇癪を起したポリーはキーキー声で喚く。
そんな所も可愛いとイーライは抱きしめて、彼女の頭を撫でる。
「あぁ、こんなに怯えて可哀そうに……。そうだな、あんな化物が棲む家など帰るのも癪だな。いっそのことこちらに屋敷を買ってしまおうか」
「名案だけどぉ~、ホテル暮らしではないの?そのほうが色々便利だし、使用人だってすぐには雇えないわ」
「そうか、そうだね。ポリーは可愛いうえに賢いな!」
そうと決まれば早速家令に連絡をとろうと、イーライは当面の宿泊費と小遣いを送金するよう手紙を書くことにした。避暑地の豪華なホテルはかなり高い、離縁までとなればかなりの額になる。
先日に、稼業が傾いていると報告が届いたことをすっかり忘却していたイーライは、その日も豪勢な夕食を注文してしまう。宿泊料とは別途料金だというのに浅慮過ぎた。
「すごぉーい!今夜はいつにも増して贅沢で美味しいわ!」
「はは、良かった。ポリーに元気がなかったからね奮発してしまったよ」
「うん、ありがとうライ。とっても嬉しいわ大好きよ!」
すっかり気をよくしたイーライは、高級ワインを何本も注文してを水のように飲み干した。
嫌いな女が待つ領地へは帰らないと決めたことからテンションも上がりまくって羽目を外す。
「ボクらの幸せに!」
「私たちの永遠に!」
***
一方で、アフォ当主からの巫山戯た要求とホテルからの高額請求書に家令は気を失いかけた。
踏ん張って立ち直った家令は急ぎ本邸のアリスに助けを求める。
「なんですかこの請求額は!?貴方、ちゃんと伯爵家の現状を伝えたんでしょうね!私に借金があることを理解しているのかしら?融資はいづれ返済はして貰うものですからね」
「もちろんです、わかっております!……ですが、恐らく坊ちゃんは妻の金だから自分のものも同然と勘違いしているかと、申し訳ありません!」
「はぁ!?あの男は何を学んで生きてきたの!」
「教育不足です!申し訳ありません!」
青白くなって謝り倒す家令に、怒鳴ったところで解決しないとアリスは深呼吸して怒りを抑え込む。
若干冷静になった頭でどうすべきか思案して、手紙の内容を改めて確認した。
「一泊5万ですって?それを3年分寄越せと?さらに遊ぶ金を年間500万……どこから出てくるのそのお金」
「……はぁ全くでございます」
辛うじて事業が回っている現状で、とんでもない要求をするアフォ達に呆れかえる二人である。
一旦は冷静になったアリスだが、彼女の額には怒りで膨れた青筋がピキピキと蠢く。
「ふ、ふふふふ……アーハハハハッ!アハハハハハッ!!!」
突然に気が触れた様に笑い出した女主人に、家令は慄いて後ろにひっくり返った。
奥様ご乱心!と家令が誰かを呼ぼうと慌てるが、アリスはそれを制する。
「ごめんなさい、つい取り乱しちゃった。ここまで愚かとは思わなかったわ。大方遊び歩いているうちに現実逃避したくなったのでしょうよ。だったら逃避したままでいて貰いますわ」
アリスは名案が浮かんだと言って、満面の悪い笑顔を浮かべるのだった。
忙しい日々を送るアリスを余所にアフォカップルこと、イーライとポリーは優雅な旅行を楽しんでいた。
資金が尽きるギリギリまで遊ぶことにしている彼らに、後先を考えるという頭がなかった。
いま、彼らが逗留しているのは湖近くに佇む豪奢なホテルだった。
朝靄が漂うそこは夏ということを忘れるほど涼しい。
暑がりのポリーの我儘で、旅行先は高原の避暑地に決まったのである。
「はぁ、湖畔近くはほんとうに涼しくて好きだわー!華やかな王都も良いけど夏は絶対ここよ!」
大はしゃぎするポリーに、イーライは連れてきて良かったと相好を崩す。
湖の水際で遊ぶ彼女を抱き寄せて今日も甘く囁いた。
「愛しいポリーに喜んでもらえて嬉しいよ」
「ふふ、私の喜びはライの幸せ?」
「うん、そうだよ。ボクはキミの笑顔さえあれば何も要らないんだ!」
「まぁ、ライったら!ウフフフ」
二人は見つめ合い、熱い口づけを交わす。
事情を知らない旅人は「お似合いの夫婦ですね」と世辞をよこす。
彼らはそれに満足して呑気に笑う。
自分達こそが真の愛を掴んだ選ばれし恋人なのだと確信した。
いつものように湖畔で戯れる二人だったが、やがて空腹に気が付き宿泊先に戻ることにした。
やや急ぎ足になるイーライに、ポリーがシャツの裾を引っ張りぐずりだした。
「どうかした?疲れたのならば食堂ではなく部屋へ食事を運ばせようね」
「……違うのライ、その……この楽しい時間が終わったらどうしようと思って」
いつか領地へ帰る、当たり前の現実がもうすぐやってくる。
急に不安に駆られたらしいポリーが悲し気に俯いていた。
しかし、イーライは能天気に笑ってこう言う。
「領地に帰るのが嫌になったのかな?まだ数日ほど時間はあるよ」
「うん、でも帰ればあのブスがいるし……なぜだか私の給金もストップしたでしょ。きっと意地悪されて追い出されるわ!そんなのあんまりだと思わない!?なんであんなのが正妻なのかしら!」
癇癪を起したポリーはキーキー声で喚く。
そんな所も可愛いとイーライは抱きしめて、彼女の頭を撫でる。
「あぁ、こんなに怯えて可哀そうに……。そうだな、あんな化物が棲む家など帰るのも癪だな。いっそのことこちらに屋敷を買ってしまおうか」
「名案だけどぉ~、ホテル暮らしではないの?そのほうが色々便利だし、使用人だってすぐには雇えないわ」
「そうか、そうだね。ポリーは可愛いうえに賢いな!」
そうと決まれば早速家令に連絡をとろうと、イーライは当面の宿泊費と小遣いを送金するよう手紙を書くことにした。避暑地の豪華なホテルはかなり高い、離縁までとなればかなりの額になる。
先日に、稼業が傾いていると報告が届いたことをすっかり忘却していたイーライは、その日も豪勢な夕食を注文してしまう。宿泊料とは別途料金だというのに浅慮過ぎた。
「すごぉーい!今夜はいつにも増して贅沢で美味しいわ!」
「はは、良かった。ポリーに元気がなかったからね奮発してしまったよ」
「うん、ありがとうライ。とっても嬉しいわ大好きよ!」
すっかり気をよくしたイーライは、高級ワインを何本も注文してを水のように飲み干した。
嫌いな女が待つ領地へは帰らないと決めたことからテンションも上がりまくって羽目を外す。
「ボクらの幸せに!」
「私たちの永遠に!」
***
一方で、アフォ当主からの巫山戯た要求とホテルからの高額請求書に家令は気を失いかけた。
踏ん張って立ち直った家令は急ぎ本邸のアリスに助けを求める。
「なんですかこの請求額は!?貴方、ちゃんと伯爵家の現状を伝えたんでしょうね!私に借金があることを理解しているのかしら?融資はいづれ返済はして貰うものですからね」
「もちろんです、わかっております!……ですが、恐らく坊ちゃんは妻の金だから自分のものも同然と勘違いしているかと、申し訳ありません!」
「はぁ!?あの男は何を学んで生きてきたの!」
「教育不足です!申し訳ありません!」
青白くなって謝り倒す家令に、怒鳴ったところで解決しないとアリスは深呼吸して怒りを抑え込む。
若干冷静になった頭でどうすべきか思案して、手紙の内容を改めて確認した。
「一泊5万ですって?それを3年分寄越せと?さらに遊ぶ金を年間500万……どこから出てくるのそのお金」
「……はぁ全くでございます」
辛うじて事業が回っている現状で、とんでもない要求をするアフォ達に呆れかえる二人である。
一旦は冷静になったアリスだが、彼女の額には怒りで膨れた青筋がピキピキと蠢く。
「ふ、ふふふふ……アーハハハハッ!アハハハハハッ!!!」
突然に気が触れた様に笑い出した女主人に、家令は慄いて後ろにひっくり返った。
奥様ご乱心!と家令が誰かを呼ぼうと慌てるが、アリスはそれを制する。
「ごめんなさい、つい取り乱しちゃった。ここまで愚かとは思わなかったわ。大方遊び歩いているうちに現実逃避したくなったのでしょうよ。だったら逃避したままでいて貰いますわ」
アリスは名案が浮かんだと言って、満面の悪い笑顔を浮かべるのだった。
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