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出奔篇
見慣れたそこは……
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所謂ワームホールを歩いている最初はまだ良かった。
歩を進める足元はグニャグニャと不安定だったが、魔王がアキフミの腕を掴んでいたので苦ではない。
しかし、いよいよ異界と異界を繋ぐ場所へ来ると急激に狭くなる。空間をムリヤリに繋ぐ場所だ、生物がいて良い環境ではない。
胃がひっくり返るような不快感の後に全身が臍に収縮するような圧がかかった。
あまりの苦しみにアキフミは声すら出せず激痛に耐えるしかない。
圧死とはこれほど惨い苦痛なのかと思った瞬間に、彼は気を失った。
彼が気が付いたのは意外にも数秒後のことだった、亜空間を通る転移中は時の流れというものは存在しないからだ。
一気に酸素が身体に入ったアキフミは悶絶して咳き込み、そして盛大に吐いた。
そこへ魔王の声が降って来た。
「しゃんとしろ弱っちいな、無事に転移したぞ。アキフミお前は死ななかったぞ、気分はどうだ?」
「うううう……最悪な気分です」
圧縮されて捏ねられて、さらに引っ張られ投げ捨てられたような衝撃だった。
「まるでピザの生地になったようだな……はぁ」
ひどい倦怠感に襲われたが今いる場所が気になって仕方ない、アキフミは周囲を見まわすのに必死になった。
「……えっと、どこかで見た風景だな」
微かな肌寒さと虫の声が届く、どうやら季節は秋のようだ。
そして懐かしい土の臭いが鼻を掠める……
「ここは!ばーちゃんの家の田んぼ!間違いない!ここは日本だ!やったぞ俺は帰れたんだ!!」
滂沱に涙を流して感動する彼に水を注す魔王の声。
「なぁアキフミ、ここがアキバとやらなのか?田畑しかないではないか。話と違うぞ?」
「……アキバじゃないですからね、ここは俺のばーちゃんの家近くです。とんでもないド田舎です。まぁ時系列が大きくずれてなければコンビニくらいはありますよ」
刈り入れが終わった様子の田んぼを見渡す、アキフミは落穂を拾って感傷に浸る。
「こらアキフミ!帰ってくるなら連絡寄越せと言ったろうが!」
背後から怒鳴られた彼はすごい勢いで振り返った。
少し腰が曲がったばーちゃんと、その横に真っ白な犬がモフモフの尻尾を振っている。
「ハギばーちゃん!ひさしぶり!チコも元気そうで良かった!」
抱き着かんばかりの孫の様子に「きしょいわ!」と祖母はゲンコツを食らわす。
「そんで、そちらさんはお友達かい?面白い服を着て、アキが好きなコスプレっちゅーヤツかぁ?」
「え?あ!?この人はね……えーと」
すっかり魔王の存在を忘れていたアキフミは大慌てだ、こちら用の和名を考えていなかったことに後悔した。
「どーしたアキ?」
「あの、えっと……」
「お初にお目にかかる、余はレイジャーフリード、わけ合って魔王をしている。よろしく祖母殿」
漆黒のマントを翻して魔王は堂々と名乗った。
「あらまぁ外人さんだったのねぇ、よろしくレイさん!すごいイケメンねぇ!」
コスプレ好きの外人だと思い込んだアキフミのばーちゃんは快く魔王を迎えた。
ひとりで焦っていたアキフミは呆気にとられていた。
歩を進める足元はグニャグニャと不安定だったが、魔王がアキフミの腕を掴んでいたので苦ではない。
しかし、いよいよ異界と異界を繋ぐ場所へ来ると急激に狭くなる。空間をムリヤリに繋ぐ場所だ、生物がいて良い環境ではない。
胃がひっくり返るような不快感の後に全身が臍に収縮するような圧がかかった。
あまりの苦しみにアキフミは声すら出せず激痛に耐えるしかない。
圧死とはこれほど惨い苦痛なのかと思った瞬間に、彼は気を失った。
彼が気が付いたのは意外にも数秒後のことだった、亜空間を通る転移中は時の流れというものは存在しないからだ。
一気に酸素が身体に入ったアキフミは悶絶して咳き込み、そして盛大に吐いた。
そこへ魔王の声が降って来た。
「しゃんとしろ弱っちいな、無事に転移したぞ。アキフミお前は死ななかったぞ、気分はどうだ?」
「うううう……最悪な気分です」
圧縮されて捏ねられて、さらに引っ張られ投げ捨てられたような衝撃だった。
「まるでピザの生地になったようだな……はぁ」
ひどい倦怠感に襲われたが今いる場所が気になって仕方ない、アキフミは周囲を見まわすのに必死になった。
「……えっと、どこかで見た風景だな」
微かな肌寒さと虫の声が届く、どうやら季節は秋のようだ。
そして懐かしい土の臭いが鼻を掠める……
「ここは!ばーちゃんの家の田んぼ!間違いない!ここは日本だ!やったぞ俺は帰れたんだ!!」
滂沱に涙を流して感動する彼に水を注す魔王の声。
「なぁアキフミ、ここがアキバとやらなのか?田畑しかないではないか。話と違うぞ?」
「……アキバじゃないですからね、ここは俺のばーちゃんの家近くです。とんでもないド田舎です。まぁ時系列が大きくずれてなければコンビニくらいはありますよ」
刈り入れが終わった様子の田んぼを見渡す、アキフミは落穂を拾って感傷に浸る。
「こらアキフミ!帰ってくるなら連絡寄越せと言ったろうが!」
背後から怒鳴られた彼はすごい勢いで振り返った。
少し腰が曲がったばーちゃんと、その横に真っ白な犬がモフモフの尻尾を振っている。
「ハギばーちゃん!ひさしぶり!チコも元気そうで良かった!」
抱き着かんばかりの孫の様子に「きしょいわ!」と祖母はゲンコツを食らわす。
「そんで、そちらさんはお友達かい?面白い服を着て、アキが好きなコスプレっちゅーヤツかぁ?」
「え?あ!?この人はね……えーと」
すっかり魔王の存在を忘れていたアキフミは大慌てだ、こちら用の和名を考えていなかったことに後悔した。
「どーしたアキ?」
「あの、えっと……」
「お初にお目にかかる、余はレイジャーフリード、わけ合って魔王をしている。よろしく祖母殿」
漆黒のマントを翻して魔王は堂々と名乗った。
「あらまぁ外人さんだったのねぇ、よろしくレイさん!すごいイケメンねぇ!」
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ひとりで焦っていたアキフミは呆気にとられていた。
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