世界征服した魔王は異世界に隠居したい

音爽(ネソウ)

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出奔篇

転移

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いきなり「今から」と散歩でも行くように誘われたアキフミは狼狽する。
全知全能の神に等しいと称えられる魔王を疑うわけではないが、心の準備というものが追い付かないと彼は思った。


「ま、待ってください!言ったことも無い場所に転移なんて……」
「うむ、だからこそ貴様が必要なのだ。地球から参ったアキフミが時空を繋ぐ媒介だ、貴様の存在そのものが地球へ渡る情報源で道標だ頼りにしておるぞ」

魔王の説明は大雑把すぎて益々怖いとアキフミは不安になった。
提示されたそれはワームホールの概念図にソックリだったから余計怖い。


「媒介って異界と異界の間を繋ぐ生贄?……異空間を繋ぐって俺の身体大丈夫!?魔王様!時空を繋ぐ魔法ってことですよね!?それって物質をグチャッと圧縮させて別時空へ飛ばされる現象なのでは?生物が生きれませんけど!?俺は物理化学とか苦手なんすけど死にそうなのは解ります!」


狼狽え大騒ぎするアキフミに魔王は顔色ひとつ変えずこう言った。
「論理でいえばそうだな、潰れるか粉砕されて出てくるな。だが案ずるなその辺は余の魔法で圧死などはさせぬ」


その言い草はまるで「明日の天気は雨だけど傘があるから大丈夫」のようだった。
「アキフミは心配症だな。余を信じよ、決して失敗せんフハハハハ!」

その根拠のない自信はどこから!とアキフミは叫びたかった。
どんな負荷がかかるかわからない、魔王そのものが特異点として魔術を発揮すると説明を受けたが所詮空論であって納得する内容ではなかった。



魔王は居室に「こちら側の点」とやらを造りだした。
それは壁に大きく穿たれた大きく歪な穴だった、陽炎が丸くそこに発生したかのようだとアキフミは驚愕する。
やがてそれはトンネル状に奥へ奥へと広がり細く長くうねっている。まさに空間を食い破るような現象だった。


「ハハ……視認したところで先が見えないですね、果ての無い魔法瓶の底みたいだ」
顔色を青くしたままアキフミは感想を述べた、なにを勘違いしたのか魔王は賞賛されたのだと嬉しそうに笑う。


「さあ、行くぞ。余は一刻も早くオタク文化を満喫したいのだ!」
「ひぎぃ!」

首根っこを掴まれたアキフミは成す術なく穴に引き摺りこまれた。


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