ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
78 / 82
激動篇

記憶を奏でる木

しおりを挟む
母とグルドの物語に耳を傾ける、知らないはずの話がなせだか懐かしく感じた。
ボクの中に母の痕跡が存在するせいだろうか。


「日に日に弱り、痩せ細る彼女を憐憫の目で追うようになっていた。何か助力になれないかと吾輩も穢れ地に通うようになった。そのうち、隠れて見物していた吾輩に気が付いたメリアーデはこちらに話しかけてきた。それをきっかけに我らは友になった」

とても美しい女性だったと言ってグルドは遠い目をした。
「こんな獣の吾輩を嫌悪もせず対等に接してくれた、なんて懐の深いと感謝した。しかしだな聡明な彼女は吾輩の正体を見透かしていた。どうしてそんな形で生きているのかとね」

「ふーん、仮の姿を通して時の精霊クロノスを見ていたのか。さすが母様」
「うむ、洞察力に脱帽したよ。記憶を封じていた吾輩としては何の話だと当時はわからなかったがな」


一旦休憩とばかりにグルドは胡桃を噛みだした、こうなると待つほかない。
ボクもポットから茶を注いで口を湿らせた。
胡桃を二つほど食べたグルドは満足そうに腹を撫でて再開する。


「吾輩のことを美しいと言ってくれた、なにを言っているのかと相手にしなかったがな。」
「うーん、恐らく仮の姿じゃなくクロノスを見てたんじゃない?顕現した時のキミはとても麗しかった、中性的な顔だったし。なるほど母様はかなりの面食いだな!」

「んな!?吾輩の獣の姿が愛くるしいと思ってたのではないか?」
「それはないと思う……」

ボクが膨れたメタボ腹を突くとグルドは「よさないか」と怒った。
それのどこが可愛いと?

「と、とにかくだな!我々は互いを思い合う仲になったのだ!友人から恋人になったのだ、ぐぬぅ恥ずかしいことを言わすな!」
「え、精霊同士で恋なんてするの?おかしくない?」

「何を言うか、神達とて結婚をするのだぞ。精霊は雌雄がはっきりせぬが互いに愛しむ心があれば問題ない!」
「そういうもん?なんか混乱するな」

しきりに頭を左右に傾げるボクを見てグルドは「未熟もん」と怒った。
「ドリュアスは無自覚で唐変木なのだな、やれやれ……メイペルが哀れであるぞ」
「なんのこと?」

ここでなぜメイペルの名が出るのさ。
ん、雌雄……心と愛?――この流れでボクの話に向いたのは…………えーまさか。

「ボクがメイペルに恋してるとでも?ハハハ、そんなまさか」
「そのまさかである、現実を見よ。あちらは明らかに愛を持って接触しておるわ!大戦中に大怪我を負った貴殿に誰が癒したと思っておる?知らんのか?」


――『坊ちゃんを助けたたのはメイペルなんす』
あの日、アクティが言った言葉を思い出してボクは顔を覆った。
しまった、命を助けてくれた恩人に改めて感謝を伝えることを怠っていたじゃないか!

すっかり忘れていた事実を掘り返したグルドが「ド阿呆が」と言ってボクの頭を小突いた。
いっそのこと殴り殺してくれ!


グルドの話によれば、メイペルは自身の腕を切りつけ魔力を込めた血をボクの傷に注いだという。
なんて無茶をすると恐ろしくなった、人間はとても脆い存在なのを知っている。
なのに、魔術師が施す最上の治癒術をボクにかけたてくれたようだ。

大量の血を失うと人間は死ぬ。

そうか、命の危険をおかしてまでボクを救おうとしたのだね。
今まで感じたことのない熱が身体の中心を巡った、なんてことだ……。


メイペルに会いたい、触れたい、抱きしめて誰より大切だと伝えたくて仕方くなった。
混乱して頭がズクズクと痛い、そしてなにより胸に襲いかかる甘美な痛みはなんだ?


「グルド……相手の顔を思い浮かべるだけで胸が痛くて辛い、なのに幸せになる。なんともじれったい感情だ……これが恋というものなのかい?」

「そうだぞ、やっと理解したか?ちょっぴり成長したではないか」
グルド曰く、心の成長が遅いボクは外見の成長も遅いらしい。そんなものなのか疑問だが、反面ドリアード王として強くなれるのなら本望だと思った。


***

それからグルドは壁の洞を弄り、あの小さな植木鉢を再びボクの手の平へ乗せた。
前回の不愉快な体験が蘇って渋面になった。


「記憶の補填とでも思え、未成熟なままでは貴殿が困るのだぞ?」
「……う、わかったよ。わかってるけどさ」

煮え切らないボクの態度にグルドはまたボクを小突く、全然痛くはないけど不愉快なのは同じ。
えーと……前回は始祖の契約とその歴史だったよな。

戸惑うボクを無視してグルドは植木鉢に呪いの言葉をかけた。
すると瞬く間に芽が出て30センチほどの樹木が生えた、前回とほぼ同じに見える。
小さな木に金色の丸い実が鈴なりになった、以前は銀だったはずだ。

またもシャンシャンと音を鳴らす、急激にやってきた眩暈にボクは目を閉じて辛抱するほかない。
情報が脳内に流れてくると吐き気がとめどなく湧いて辛い、脂汗が全身から噴き出て不快だった。
歴代王達の膨大な心情がボクの心を責めてくる、感情の起伏がグルグルと巡っては消える。

怒りと悲しみの記憶がとても辛辣で心身を抉られるようだ。
最後半は母とグルドの心情だった、プライバシーの侵害で申し訳ないが二人のなれ初めは美しかった。
加えて、グルドとマホガニーが犬猿になった原因を知って腑に落ちたよ。


必死に耐えること数分、ボクは漸く解放された。
体感的には数百年なんだけどね……その辺りグルドはわかってくれてるかな?

「調子はどうだ、不足していた心というものは補填されたはずだぞ」
「うぅ……とっても気分最悪だよ、でもボクは未熟に株分けされて誕生していたというのが良く理解できた」

ボクに足りなかった重大な欠損は”感情”だった。
根本の喜怒哀楽とは別の最も肝心なもの”愛”。

自身では母を愛していたと自負してたけれど、とんだ勘違いだったみたい。
愛の意味と重さを知った瞬間にボクは羞恥心に苛まれた、先刻メイペルに恋していると吐露したことをとても後悔したよ。


そして、前回同様にすべてを吐き出した木はやはり枯れて消失していた。


心身を疲弊したボクは暫く動けなくなり、一日の大半をベッドの上で過ごす羽目に陥った。
無理をさせたことをマホガニーが猛抗議したらしいがグルドは「すべきことをしただけ」と突っぱねたようだ。

通常通りに戻れたのは雨季が去った頃だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強い魔力を持つ少女レイラは、聖女として大神殿の小部屋で、祈るだけの生活を送ってきた。 けれど王太子に「身元不明の孤児だから」と婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中で出会った冒険者のステファンと狼男ライガに拾われ、レイラは初めて外の世界で暮らし始める。 冒険者としての仕事、初めてのカフェでのお茶会。 隣国での生活の中で、レイラは少しずつ自分の居場所を作っていく。 一方、レイラが去った王国では魔物が発生し、大神殿の大司教は彼女を取り戻そうと動き出していた。 ――私はなんなの? どこから来たの? これは、救う存在として利用されてきた少女が、「自分のこれから」を選び直していく物語。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

処理中です...