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激動篇
記憶を奏でる木
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母とグルドの物語に耳を傾ける、知らないはずの話がなせだか懐かしく感じた。
ボクの中に母の痕跡が存在するせいだろうか。
「日に日に弱り、痩せ細る彼女を憐憫の目で追うようになっていた。何か助力になれないかと吾輩も穢れ地に通うようになった。そのうち、隠れて見物していた吾輩に気が付いたメリアーデはこちらに話しかけてきた。それをきっかけに我らは友になった」
とても美しい女性だったと言ってグルドは遠い目をした。
「こんな獣の吾輩を嫌悪もせず対等に接してくれた、なんて懐の深いと感謝した。しかしだな聡明な彼女は吾輩の正体を見透かしていた。どうしてそんな形で生きているのかとね」
「ふーん、仮の姿を通して時の精霊クロノスを見ていたのか。さすが母様」
「うむ、洞察力に脱帽したよ。記憶を封じていた吾輩としては何の話だと当時はわからなかったがな」
一旦休憩とばかりにグルドは胡桃を噛みだした、こうなると待つほかない。
ボクもポットから茶を注いで口を湿らせた。
胡桃を二つほど食べたグルドは満足そうに腹を撫でて再開する。
「吾輩のことを美しいと言ってくれた、なにを言っているのかと相手にしなかったがな。」
「うーん、恐らく仮の姿じゃなくクロノスを見てたんじゃない?顕現した時のキミはとても麗しかった、中性的な顔だったし。なるほど母様はかなりの面食いだな!」
「んな!?吾輩の獣の姿が愛くるしいと思ってたのではないか?」
「それはないと思う……」
ボクが膨れたメタボ腹を突くとグルドは「よさないか」と怒った。
それのどこが可愛いと?
「と、とにかくだな!我々は互いを思い合う仲になったのだ!友人から恋人になったのだ、ぐぬぅ恥ずかしいことを言わすな!」
「え、精霊同士で恋なんてするの?おかしくない?」
「何を言うか、神達とて結婚をするのだぞ。精霊は雌雄がはっきりせぬが互いに愛しむ心があれば問題ない!」
「そういうもん?なんか混乱するな」
しきりに頭を左右に傾げるボクを見てグルドは「未熟もん」と怒った。
「ドリュアスは無自覚で唐変木なのだな、やれやれ……メイペルが哀れであるぞ」
「なんのこと?」
ここでなぜメイペルの名が出るのさ。
ん、雌雄……心と愛?――この流れでボクの話に向いたのは…………えーまさか。
「ボクがメイペルに恋してるとでも?ハハハ、そんなまさか」
「そのまさかである、現実を見よ。あちらは明らかに愛を持って接触しておるわ!大戦中に大怪我を負った貴殿に誰が癒したと思っておる?知らんのか?」
――『坊ちゃんを助けたたのはメイペルなんす』
あの日、アクティが言った言葉を思い出してボクは顔を覆った。
しまった、命を助けてくれた恩人に改めて感謝を伝えることを怠っていたじゃないか!
すっかり忘れていた事実を掘り返したグルドが「ド阿呆が」と言ってボクの頭を小突いた。
いっそのこと殴り殺してくれ!
グルドの話によれば、メイペルは自身の腕を切りつけ魔力を込めた血をボクの傷に注いだという。
なんて無茶をすると恐ろしくなった、人間はとても脆い存在なのを知っている。
なのに、魔術師が施す最上の治癒術をボクにかけたてくれたようだ。
大量の血を失うと人間は死ぬ。
そうか、命の危険をおかしてまでボクを救おうとしたのだね。
今まで感じたことのない熱が身体の中心を巡った、なんてことだ……。
メイペルに会いたい、触れたい、抱きしめて誰より大切だと伝えたくて仕方くなった。
混乱して頭がズクズクと痛い、そしてなにより胸に襲いかかる甘美な痛みはなんだ?
「グルド……相手の顔を思い浮かべるだけで胸が痛くて辛い、なのに幸せになる。なんともじれったい感情だ……これが恋というものなのかい?」
「そうだぞ、やっと理解したか?ちょっぴり成長したではないか」
グルド曰く、心の成長が遅いボクは外見の成長も遅いらしい。そんなものなのか疑問だが、反面ドリアード王として強くなれるのなら本望だと思った。
***
それからグルドは壁の洞を弄り、あの小さな植木鉢を再びボクの手の平へ乗せた。
前回の不愉快な体験が蘇って渋面になった。
「記憶の補填とでも思え、未成熟なままでは貴殿が困るのだぞ?」
「……う、わかったよ。わかってるけどさ」
煮え切らないボクの態度にグルドはまたボクを小突く、全然痛くはないけど不愉快なのは同じ。
えーと……前回は始祖の契約とその歴史だったよな。
戸惑うボクを無視してグルドは植木鉢に呪いの言葉をかけた。
すると瞬く間に芽が出て30センチほどの樹木が生えた、前回とほぼ同じに見える。
小さな木に金色の丸い実が鈴なりになった、以前は銀だったはずだ。
またもシャンシャンと音を鳴らす、急激にやってきた眩暈にボクは目を閉じて辛抱するほかない。
情報が脳内に流れてくると吐き気がとめどなく湧いて辛い、脂汗が全身から噴き出て不快だった。
歴代王達の膨大な心情がボクの心を責めてくる、感情の起伏がグルグルと巡っては消える。
怒りと悲しみの記憶がとても辛辣で心身を抉られるようだ。
最後半は母とグルドの心情だった、プライバシーの侵害で申し訳ないが二人のなれ初めは美しかった。
加えて、グルドとマホガニーが犬猿になった原因を知って腑に落ちたよ。
必死に耐えること数分、ボクは漸く解放された。
体感的には数百年なんだけどね……その辺りグルドはわかってくれてるかな?
「調子はどうだ、不足していた心というものは補填されたはずだぞ」
「うぅ……とっても気分最悪だよ、でもボクは未熟に株分けされて誕生していたというのが良く理解できた」
ボクに足りなかった重大な欠損は”感情”だった。
根本の喜怒哀楽とは別の最も肝心なもの”愛”。
自身では母を愛していたと自負してたけれど、とんだ勘違いだったみたい。
愛の意味と重さを知った瞬間にボクは羞恥心に苛まれた、先刻メイペルに恋していると吐露したことをとても後悔したよ。
そして、前回同様にすべてを吐き出した木はやはり枯れて消失していた。
心身を疲弊したボクは暫く動けなくなり、一日の大半をベッドの上で過ごす羽目に陥った。
無理をさせたことをマホガニーが猛抗議したらしいがグルドは「すべきことをしただけ」と突っぱねたようだ。
通常通りに戻れたのは雨季が去った頃だった。
ボクの中に母の痕跡が存在するせいだろうか。
「日に日に弱り、痩せ細る彼女を憐憫の目で追うようになっていた。何か助力になれないかと吾輩も穢れ地に通うようになった。そのうち、隠れて見物していた吾輩に気が付いたメリアーデはこちらに話しかけてきた。それをきっかけに我らは友になった」
とても美しい女性だったと言ってグルドは遠い目をした。
「こんな獣の吾輩を嫌悪もせず対等に接してくれた、なんて懐の深いと感謝した。しかしだな聡明な彼女は吾輩の正体を見透かしていた。どうしてそんな形で生きているのかとね」
「ふーん、仮の姿を通して時の精霊クロノスを見ていたのか。さすが母様」
「うむ、洞察力に脱帽したよ。記憶を封じていた吾輩としては何の話だと当時はわからなかったがな」
一旦休憩とばかりにグルドは胡桃を噛みだした、こうなると待つほかない。
ボクもポットから茶を注いで口を湿らせた。
胡桃を二つほど食べたグルドは満足そうに腹を撫でて再開する。
「吾輩のことを美しいと言ってくれた、なにを言っているのかと相手にしなかったがな。」
「うーん、恐らく仮の姿じゃなくクロノスを見てたんじゃない?顕現した時のキミはとても麗しかった、中性的な顔だったし。なるほど母様はかなりの面食いだな!」
「んな!?吾輩の獣の姿が愛くるしいと思ってたのではないか?」
「それはないと思う……」
ボクが膨れたメタボ腹を突くとグルドは「よさないか」と怒った。
それのどこが可愛いと?
「と、とにかくだな!我々は互いを思い合う仲になったのだ!友人から恋人になったのだ、ぐぬぅ恥ずかしいことを言わすな!」
「え、精霊同士で恋なんてするの?おかしくない?」
「何を言うか、神達とて結婚をするのだぞ。精霊は雌雄がはっきりせぬが互いに愛しむ心があれば問題ない!」
「そういうもん?なんか混乱するな」
しきりに頭を左右に傾げるボクを見てグルドは「未熟もん」と怒った。
「ドリュアスは無自覚で唐変木なのだな、やれやれ……メイペルが哀れであるぞ」
「なんのこと?」
ここでなぜメイペルの名が出るのさ。
ん、雌雄……心と愛?――この流れでボクの話に向いたのは…………えーまさか。
「ボクがメイペルに恋してるとでも?ハハハ、そんなまさか」
「そのまさかである、現実を見よ。あちらは明らかに愛を持って接触しておるわ!大戦中に大怪我を負った貴殿に誰が癒したと思っておる?知らんのか?」
――『坊ちゃんを助けたたのはメイペルなんす』
あの日、アクティが言った言葉を思い出してボクは顔を覆った。
しまった、命を助けてくれた恩人に改めて感謝を伝えることを怠っていたじゃないか!
すっかり忘れていた事実を掘り返したグルドが「ド阿呆が」と言ってボクの頭を小突いた。
いっそのこと殴り殺してくれ!
グルドの話によれば、メイペルは自身の腕を切りつけ魔力を込めた血をボクの傷に注いだという。
なんて無茶をすると恐ろしくなった、人間はとても脆い存在なのを知っている。
なのに、魔術師が施す最上の治癒術をボクにかけたてくれたようだ。
大量の血を失うと人間は死ぬ。
そうか、命の危険をおかしてまでボクを救おうとしたのだね。
今まで感じたことのない熱が身体の中心を巡った、なんてことだ……。
メイペルに会いたい、触れたい、抱きしめて誰より大切だと伝えたくて仕方くなった。
混乱して頭がズクズクと痛い、そしてなにより胸に襲いかかる甘美な痛みはなんだ?
「グルド……相手の顔を思い浮かべるだけで胸が痛くて辛い、なのに幸せになる。なんともじれったい感情だ……これが恋というものなのかい?」
「そうだぞ、やっと理解したか?ちょっぴり成長したではないか」
グルド曰く、心の成長が遅いボクは外見の成長も遅いらしい。そんなものなのか疑問だが、反面ドリアード王として強くなれるのなら本望だと思った。
***
それからグルドは壁の洞を弄り、あの小さな植木鉢を再びボクの手の平へ乗せた。
前回の不愉快な体験が蘇って渋面になった。
「記憶の補填とでも思え、未成熟なままでは貴殿が困るのだぞ?」
「……う、わかったよ。わかってるけどさ」
煮え切らないボクの態度にグルドはまたボクを小突く、全然痛くはないけど不愉快なのは同じ。
えーと……前回は始祖の契約とその歴史だったよな。
戸惑うボクを無視してグルドは植木鉢に呪いの言葉をかけた。
すると瞬く間に芽が出て30センチほどの樹木が生えた、前回とほぼ同じに見える。
小さな木に金色の丸い実が鈴なりになった、以前は銀だったはずだ。
またもシャンシャンと音を鳴らす、急激にやってきた眩暈にボクは目を閉じて辛抱するほかない。
情報が脳内に流れてくると吐き気がとめどなく湧いて辛い、脂汗が全身から噴き出て不快だった。
歴代王達の膨大な心情がボクの心を責めてくる、感情の起伏がグルグルと巡っては消える。
怒りと悲しみの記憶がとても辛辣で心身を抉られるようだ。
最後半は母とグルドの心情だった、プライバシーの侵害で申し訳ないが二人のなれ初めは美しかった。
加えて、グルドとマホガニーが犬猿になった原因を知って腑に落ちたよ。
必死に耐えること数分、ボクは漸く解放された。
体感的には数百年なんだけどね……その辺りグルドはわかってくれてるかな?
「調子はどうだ、不足していた心というものは補填されたはずだぞ」
「うぅ……とっても気分最悪だよ、でもボクは未熟に株分けされて誕生していたというのが良く理解できた」
ボクに足りなかった重大な欠損は”感情”だった。
根本の喜怒哀楽とは別の最も肝心なもの”愛”。
自身では母を愛していたと自負してたけれど、とんだ勘違いだったみたい。
愛の意味と重さを知った瞬間にボクは羞恥心に苛まれた、先刻メイペルに恋していると吐露したことをとても後悔したよ。
そして、前回同様にすべてを吐き出した木はやはり枯れて消失していた。
心身を疲弊したボクは暫く動けなくなり、一日の大半をベッドの上で過ごす羽目に陥った。
無理をさせたことをマホガニーが猛抗議したらしいがグルドは「すべきことをしただけ」と突っぱねたようだ。
通常通りに戻れたのは雨季が去った頃だった。
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