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その後の話
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身分を奪われた元王太子アンドレは、壊れた心を抱えたまま放逐となった。ただの平民になった男は着の身着のまま彷徨う。当初は理性を失くしていた彼は方々で小さな罪を重ねては豚箱の厄介になっていた。
けれどもそんな彼もやがて正気が戻り始めて、おかれた立場を理解すると惨めさに泣くようになった。ある意味、人格崩壊したまま生きていた方が楽だったかもしれない。
かつての家族の足跡を追ってみたが、母親は遠い国へ旅立った後でさらに父親はアンドレより先に放逐された先で発狂して川へ身投げしたと知った。
絶望した彼は縁戚を頼ろうとしたが、誰も相手にしてくれなかったし住む家さえ無くした者も少なくなかった。王族のほとんどは財を奪われていたからだ。それほどに国を揺るがした罪は大きいのだ。
「頼む!片隅でいいから置いてくれ!お願いだ!」
「うるさい!そもそもお前達親子のせいで遠縁の俺達にまで塁が及んだのだぞ!恨み言はあっても助ける義理はねぇよ!」
怒り狂った親戚の男に蹴り飛ばされたアンドレは「ヒーヒー」言いながら逃げていった。
逃げた先は結局住み慣れた旧王都だった、以前のような華やかさは褪せていたが活気は湧いている。民たちは新しい国の夜明けに心躍らせて働いているからだ。
アンドレはかつて生活の拠点だった城を眺めて「俺の城……なんて遠いんだ」と嘆いた。贅を尽くした晩餐と毎夜のように開いていた夜会を思い出して涙を流した。今の彼の姿は薄汚い浮浪者だ、下町の片隅か貧民窟がお似合いだ。
聖女さえ国へ来なければ自分は王になっていたのにと虚しいことを思う。
グズグズと泣いていると足元に古い新聞が千切れて落ちているのに気が付く。
気休めになる記事を探して、道端でそれを開いてみた。すると、見覚えある女の顔写真を見つけて瞠目した。
元婚約者のロズアンナが帝国へ嫁ぎ、両国を結ぶ懸け橋だと賞賛されていた内容に驚く。
「なんで……どうして待っててくれなかったんだ?一時は離れてしまったけれど私達は思い合っていたじゃないか!」
自分の裏切りを棚に上げて、ロズアンナのことを責めて怒り狂った。
無駄な事とわかっていたが彼は遥か遠くの帝国の方へと走り出した。国境さえ越えることは出来やしないのに彼の狂った足は止まらなかった。
走って走って、縺れても彼は止まらなかった。
そして、王都の端へ辿り着いた時だ。どこかの商団らしきがガラガラと大音を立てて王都門へ差し掛かった。左右の確認など無視して走っていたアンドレは馬車に弾かれて堀の中へ落とされてしまう。
嘶く馬の声を聞きながらアンドレは投げ出された水へと落ちて行った。奇しくも父親と同じ水難だった。
ドボドボと深く落ちていく途中で彼は断末魔の夢を見る。
美しい宮殿の中央でロズアンナが優雅に踊っていた、アンドレは夢中で駆け寄って手を伸ばす。
『ロズ!会いたかったよ!さぁこの手を取って!』
だが彼女は冷笑を浮かべてこう言った。
『汚穢聖女と浮気した貴方に用はありませんことよ?』
了
けれどもそんな彼もやがて正気が戻り始めて、おかれた立場を理解すると惨めさに泣くようになった。ある意味、人格崩壊したまま生きていた方が楽だったかもしれない。
かつての家族の足跡を追ってみたが、母親は遠い国へ旅立った後でさらに父親はアンドレより先に放逐された先で発狂して川へ身投げしたと知った。
絶望した彼は縁戚を頼ろうとしたが、誰も相手にしてくれなかったし住む家さえ無くした者も少なくなかった。王族のほとんどは財を奪われていたからだ。それほどに国を揺るがした罪は大きいのだ。
「頼む!片隅でいいから置いてくれ!お願いだ!」
「うるさい!そもそもお前達親子のせいで遠縁の俺達にまで塁が及んだのだぞ!恨み言はあっても助ける義理はねぇよ!」
怒り狂った親戚の男に蹴り飛ばされたアンドレは「ヒーヒー」言いながら逃げていった。
逃げた先は結局住み慣れた旧王都だった、以前のような華やかさは褪せていたが活気は湧いている。民たちは新しい国の夜明けに心躍らせて働いているからだ。
アンドレはかつて生活の拠点だった城を眺めて「俺の城……なんて遠いんだ」と嘆いた。贅を尽くした晩餐と毎夜のように開いていた夜会を思い出して涙を流した。今の彼の姿は薄汚い浮浪者だ、下町の片隅か貧民窟がお似合いだ。
聖女さえ国へ来なければ自分は王になっていたのにと虚しいことを思う。
グズグズと泣いていると足元に古い新聞が千切れて落ちているのに気が付く。
気休めになる記事を探して、道端でそれを開いてみた。すると、見覚えある女の顔写真を見つけて瞠目した。
元婚約者のロズアンナが帝国へ嫁ぎ、両国を結ぶ懸け橋だと賞賛されていた内容に驚く。
「なんで……どうして待っててくれなかったんだ?一時は離れてしまったけれど私達は思い合っていたじゃないか!」
自分の裏切りを棚に上げて、ロズアンナのことを責めて怒り狂った。
無駄な事とわかっていたが彼は遥か遠くの帝国の方へと走り出した。国境さえ越えることは出来やしないのに彼の狂った足は止まらなかった。
走って走って、縺れても彼は止まらなかった。
そして、王都の端へ辿り着いた時だ。どこかの商団らしきがガラガラと大音を立てて王都門へ差し掛かった。左右の確認など無視して走っていたアンドレは馬車に弾かれて堀の中へ落とされてしまう。
嘶く馬の声を聞きながらアンドレは投げ出された水へと落ちて行った。奇しくも父親と同じ水難だった。
ドボドボと深く落ちていく途中で彼は断末魔の夢を見る。
美しい宮殿の中央でロズアンナが優雅に踊っていた、アンドレは夢中で駆け寄って手を伸ばす。
『ロズ!会いたかったよ!さぁこの手を取って!』
だが彼女は冷笑を浮かべてこう言った。
『汚穢聖女と浮気した貴方に用はありませんことよ?』
了
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みんなの感想(4件)
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聖教国の末路が文章を探しても見つからないんですが、あの国も無くなったと見ていいでしょうか
ご感想ありがとうございます。
文才が無い故……申し訳ありませんでした。
頭の中で国を消滅させていたので書き損じてました。
後日談で書き足そうと思います。
正気を取り戻したのに走って帝国に行こうとするとか……正気か!?( ゚д゚ )
ご感想ありがとうございます。
矛盾が生じてますが(;^ω^)
彼女を思い出して会いたい衝動が抑えられなかった故の悲劇です。
聖女の本当の年齢って…∑( 'д' )ヒェッ
ご感想ありがとうございます。
実年齢は20代ですが、実力以上の聖魔法を使っていたせいで老いてしまったのです。
無理はいくない……"(-""-)"