お願いだから噛んで欲しい!

そらうみ

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もうどうしたらいいか分からない俺

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泰昌と付き合うようになり、初めはどうなるのかと思っていたが・・・気付けば3年が経とうとしていた。
そして今、俺は泰昌とルームシェアをする事となり、先ほど引っ越しの荷物を運び終えた所だった。

毎週のようにどちらかの家に泊まりに行っていたし、もうそれなら一緒に住もうかと泰昌が提案してきたのだ。
ルームシェアという事で、合わなければまた1人暮らしに戻ればいいと言ってきた。

俺たちが付き合い始めた時の感じに似ている。
試してみて、ダメなら元通りにすればいいという気楽なお誘いだ。
気楽なお誘い・・・ルームシェアね・・・。

俺は今、泰昌と並んでベランダにいる。
一通り片付けも終わり、少し休憩という事で、外の景色を眺めている。
俺は泰昌を横目で見ながら考えていた。
泰昌はいつも俺に気を遣ってくれている。優しいし、決して怒ったりしない。
けれどその表情の下には、当たり前だが、色々な感情が隠れているのだと知っている。

俺と付き合うと言ってくれたのも、今回一緒に住む事だって、気楽に誘ってくれているようだけれど・・・本当は違うんだよな。
俺の視線に気づいて、泰昌が俺を見てくる。

「蓮どうした? 疲れた?」

全く疲れが見えない笑顔の泰昌。

「なあ、キスして欲しい」

泰昌に真顔で言う俺。
泰昌は笑いながら、優しく俺の要望に応えてくれる。
うん、泰昌はめちゃくちゃ優しいし、自然に言えるようになった俺も成長したな。

「泰昌、明日仕事の休み、取ってくれたんだよな?」

「うん。蓮もだろ? 引っ越しで疲れるから休みたいって言い出したの」

そう、俺たちは明日休みを取っている。
もちろん体力的な事もあるのだが、俺は3年付き合ってようやく、ある決意をしていたのだった。

「泰昌・・・一緒に住もうって言ってくれてありがとう」

「うん? どうした急に。別にお礼を言われるほどの事じゃないよ。お試しルームシェアだろ?」

そう・・・こうやっていつも泰昌は俺が構えすぎないよう、今まで気を使ってくれていたんだと、ようやく気づく事が出来たんだ。
俺は泰昌に向き合うと、少し顔を上げて、真剣に泰昌を見つめた。
泰昌はそんな俺に少し動揺したような表情をしている。

「蓮? どうした? 何か言いたい事があるのか?」

「あのさ、これからも泰昌と別れるつもりないし、きっとこれから一緒に住んでいくんだと思っている。
いつも泰昌は俺に気を使ってくれていたけれど・・・俺、ちゃんと泰昌のこと好きだし、泰昌も俺の事を・・・真剣に好きになって欲しいんだ。
いや、好きでいてくれているのは分かる!
ただ、俺が泰昌と気楽に付き合っているんじゃなくて、本当に側にいたくて一緒に過ごしているんだって分かって欲しいんだ」

「・・・うん」

泰昌が返事をすると、優しく俺を抱きしめてくれた。
俺も優しく抱き返す。

そして・・・ここからが本題なんだ。

引っ越しの日付が決まった時から予感はしていたし、先ほどから気づき始めていた。
これは間違いないな。

俺は抱きしめられながら顔を上げ、泰昌を見て話し続ける。
俺は今、自分がどんな表情をしているか分からないが・・・もうなりふり構っていられない。

「泰昌・・・あのさ、俺が本気で泰昌の事好きだって分かってるよな?」

「うん、分かってる」

そうしてまた、優しくキスをしてくれる。

「んっ・・・でさ、もうひとつ言いたいんだけれど・・・」

「うん?」

「あのさ・・・俺そろそろ発情期なんだ」

「・・・そうなのか・・・じゃあ無理しちゃいけないな。
もう薬は飲んだのか? 今日、本当は辛かったんじゃないのか?」

俺が発情期の時は、泰昌は俺の体調を労ってくれている。
今も俺から体を離そうとしているのを、俺は必死にしがみついて止める。

「? 蓮? どうした? 大丈夫か?」

「あのさ、俺、今回は・・・薬は飲まない・・・」

「? どうして?」

「薬飲む必要がないと思っている・・・本来は発情期を止めるために飲んでいるけど・・・別に今の俺は・・・止めなくたっていい・・・と思ってる・・・」

泰昌にしがみつき、顔を埋めながら言う俺。
俺は今まで、発情期を薬無しで過ごした事はない。薬を飲まなかったらどうなるかも分からないし、実際発情期の時にするのは・・・可能性が高くなる事だ。
けれど、俺はそれでも良いと思っている。
そして、それほど泰昌の事を本気で思っているんだと・・・伝えたかったし、分かって欲しかったんだ。

力強く抱きつく俺に対して、先ほどから泰昌は全く動かない。
・・・え? ここにきて断られるとか・・・無しだぞ!?

実は先ほどから発情期の兆候が出始めていて、体温が高くなり、体がそわそわし始めている。
本当に今すぐ薬を飲まないと、色々と抑えられなくなるギリギリのタイミングなのですが!?

するとようやく、泰昌が手を俺の肩に当て、真剣な表情で俺を見ていた。

「蓮・・・良いんだな?」

「うん・・・というか、そろそろヤバい。出来れば早く移動して・・」

俺が言い終わるや否や、泰昌がおれを担ぎ上げて寝室へと連れて行く。

俺一応成人男性なんですが・・・泰昌よく担ぎ上げれたな。

力が抜け始めている俺はそんな事を思いながら、けれど全く抵抗せずに、そのまま素直に寝室へと運ばれていった。
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