なぜか淫魔になりまして

そらうみ

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「え?誘われたのに逃げたの?なんで?」
 俺はイツキと一緒に寮の部屋に戻り、先程の出来事を話していた。イツキは、俺が知らない奴に襲われそうになったと聞いても特に驚かず、というか、逃げ出した俺に驚いていた。
 目の前にいるイツキは背が低くて華奢な容姿をしていて、男とは思えないほど可愛い顔をしている。男の俺でも思わずどぎまぎしてしまうくらいだ。
 そんなイツキの驚いた表情も可愛いと、こんな状況において一瞬でも思わせるのが恐ろしい。
「知らない奴に、いきなり抱きつかれること自体おかしいだろ?!」
「たっくん本当に記憶無いんだね…本当に淫魔じゃないみたい」
「だから、違うんだって…」
 俺は力なく答えた。

 最初に苦痛の暗闇から意識を取り戻した時、俺はこの部屋のベッドで目が覚めた。全く状況が分からずパニックになっている俺の傍に、イツキが立っていたのだ。
 イツキは様子がおかしい俺の話を聞いてくれた。そして、ここが寮の学校で、俺たちは友達だと教えてくれた。
 イツキと話をしていると、互いに腑に落ちないところがあり、さらに色々と聞いていくと、どうやらここは悪魔の世界であり、しかも俺とイツキは悪魔の中でも”淫魔”という事が分かった。
 それを聞かされた時、俺は思考が停止していた。
 いや、悪魔ってなんだよ。それに淫魔って…。
 俺の悪魔のイメージは、角があって翼があって、なんだか怖そうで…。
 俺は自分とイツキを見比べる。俺もイツキも容姿が良いこと以外、特にこれといって特徴は無い。普通の人間の体だ。俺に記憶は無いが、自分が悪魔ではなかったと断言できる。
 悪魔って想像のものじゃなかったのか?
 俺は記憶が無くても、自分が間違いなく人間だったと言える。俺はそのことをイツキに言ったが、
「自分が人間だなんて…本気で言ってるの?」
 と言って笑われた。可愛い笑顔で言われるのが本当に嫌だ。俺の気も知らず、イツキは話し続ける。
「どうして記憶を無くしたのか分からないけれど、今の君は間違いなく悪魔だよ」
「でも俺は人間なんだ」
「んー…あんまり人間だって言うと、周りに変な目で見られるだろうし…ここにいられなくなるよ?」
「…そうなのか?」
「僕はたっくんが記憶喪失なだけだと思っている。これから一緒にいてフォローしてあげるから大丈夫だよ。少し様子を見よう」
 イツキは再び可愛らしい笑顔を俺に向けた。
 記憶喪失なだけって…。
 俺は力なくイツキを見る。
「記憶喪失だってことも、隠した方がいいって事か…?」
「僕たちこの学校に入学したばかりだし、他に僕たちを知っている知り合いもいないから…記憶喪失に関してはそこまで気にしなくていいと思うよ?
 大丈夫、なんとかなるよ!それより、学校生活楽しもー!!!」
 イツキは楽しそうにはしゃいでいた。実際、今の俺にはどうすることもできない。なので、俺はイツキの言うとおり、このままここでの生活を続けることにした。
 まずは人間ではない悪魔たちの世界を把握しないといけない。悪魔が通う学校がどうなっているのか知りたいとイツキに言ってみると、まずは校内を散歩してみようということになった。
 部屋を出て校内を歩くと、なんてことはない。そこは普通の人間の学校のような場所だった。
 俺は学生だったのだろうか?
 そんなことを考えながら歩いていると、気づけばイツキが俺の傍からいなくなり、俺は知らない奴に誘われて、人気のないところへ連れていかれたのだ。そしてその場から逃げ出した俺はイケメン君に助けてもらい、イツキと合流して部屋に戻り、今に至る。

「イツキ、お願いだからしばらく俺から離れないでくれ」
「別にいいけどさ。でも部屋はどうする?一人部屋だけど、夜はどうする?」
「夜は部屋にいるから大丈夫」
「大丈夫かな?うーん。まだ大丈夫かな?」
「えっ?まだ大丈夫ってどういうこと!?え、怖い!イツキ頼む。やっぱり夜も一緒に居てくれ!!!」
「えー。僕だって夜は忙しいしー…仕方がない。僕からたっくんに、特別なプレゼントをあげるね!」
「プレゼント…?」
「はい、これどうぞ」
 そう言って、イツキはポケットからマスコットの様な小さな人形を取り出して俺に手渡した。
 受け取った人形はピンク色で、人のように直立しているウサギの姿だ。
「え…ウサギ?」
 すると、その人形の首が左右に動いて俺に視線を合わせてきた。
「わっ!!!」
 俺は驚いて思わず人形を手放す。
「たっくん酷い!優しくしないと~。これ、僕の使い魔だから。僕の代わりにこの子を置いていくね」
 イツキは俺が落としてしまった人形を拾い、再び俺に手渡した。
「…使い魔?」
 俺は改めてじっくりと見る。
 うん、ウサギの人形じゃん。これが俺を守ってくれるのか?
「何もないより良いでしょ!じゃあまた明日ね~」
 俺がウサギの人形に気を取られているうちに、イツキは部屋を出て行ってしまった。
 え?使い方は?これどうすんの?持ってたらいいの?本当にこんな人形で大丈夫なんだろうか?

 夜、俺はベッドの布団に潜り込んでいたが、なかなか寝付くことが出来なかった。すると、部屋の外からドアをノックをする音がした。
 こんな夜中に誰だ?まさか、昼間の奴か…?
 俺は枕元に置いていたウサギの人形を手に取ってドアまで近づいていく。ドアの傍に来たが、扉を開けて外を確認する勇気はなかった。ドアの向こうには誰かがいる気配がする。
 頼む、どこかへ行ってくれ!
 俺はウサギの人形を握りしめたまま息を潜めてじっとしていた。しばらくすると、ドアの前から足音が遠ざかる。俺は緊張が解け、その場に座り込む。すると突然、ウサギの人形が話し始めた。
「タクミ様。大丈夫ですか?」
「うわっ、喋った!?」
 俺は驚いて再び人形を落としてしまう。
「タクミ様、拾ってください」
「あ…ごめん、なさい…。ってお前、喋れるんだな…使い魔って何が出来るの?」
「イツキ様と契約で繋がっているため、私が何処にいるか、イツキ様にお伝えすることが出来ます」
「うん」
「それだけです」
「うん…それだけ?」
「それだけです」
「なんだよそれ…」
「あ、他の悪魔の気配も察知できます。ほら、今もドアの外に、先ほどとは別の悪魔が来ていますよ」
「なっ…!」
 それを聞いた瞬間、部屋のドアがノックされる。俺は慌てて自分の口を塞いだ。
 やって来た相手は何度か乱暴にノックをし、ドアノブを動かして鍵が掛かっているのを確認してから、どこかへ去っていった。
「無理…夜中に…なんで…」
 俺は恐怖で泣きそうになる。
 結局その後も誰かがやって来ているようで、何度もドアをノックされた。俺はそのたびに警戒心で起きてしまった。誰も鍵のかかった扉を無理に開けようとはしなかったけれど、俺はウサギの人形を握りしめたまま、まともに眠ることが出来なかった。

 次の日。俺はイツキに詰め寄って昨日の怪奇現象について伝えると、イツキは笑って答えた。
「そりゃ淫魔に相手してもらおうと思ってやって来たんだと思うよ?一晩でそんなに来るなんて、たっくん人気者~」
「人気者って…なぁ、お前の使い魔ってさーーー」
「可愛いでしょ?特に何か出来る訳じゃないけれど、それで僕がたっくんの居場所を把握してあげるから。少しは安心出来た?」
「部屋にやってくる奴らは止められないじゃん…俺、やっぱりここにはいられない…帰るっ!!!」
「あはは、無理だって。帰るったって、帰る場所なんてないよ?」
「…マジかよ。俺って家族いないの?」
「うーん。悪魔って色々な方法で生まれるからね。僕たちは人間から悪魔になったんじゃないし」
「そうなの?悪魔も色々あるのか…今はとにかく目先の事だ!イツキ!俺の部屋にいてくれ!!!頼む!!!」
「え、無理。僕、夜は予定があるっていったじゃん」
「~っ!!!せめて今晩だけでも一緒にいてくれ!昨日ちゃんと眠れてないし、一人は怖い!」
「僕がたっくんの所に居ても何も変わんないよ?というか、僕たち二人が夜に一緒にいる方が、みんなやってくるんじゃないかな?」
「なんでだよ?」
「淫魔二人って逆にラッキーだと思うけど?」
「…」
 俺は言葉を無くす。淫魔ってだけでこんなことになるなんて…。俺はこれからどうすればいいのか分からなくなる。
 でも、このまま一人で部屋に居てはまずい気がする。まともに眠れる気がしない。すると、イツキが何か思いついたかのような表情をした。
「そうだ!たっくん。前に、たっくんに興味ない人がいたって言ってたじゃん?その人の所にいけば?」
「え?誰…?そんな人の話したっけ?」
 俺に興味が無かった人って…あの廊下ですれ違ったイケメン君か!確かに彼は、俺に興味が無さそうだった。俺に腕を掴まれて迷惑そうだったし。
 イツキは続けて言う。
「たっくんは、今は誰ともやりたくないんだよね?だったらその人の元に行けばいいんじゃない?その人と一緒に居れば、他のみんなはたっくんがその人とやってると思うから、さすがに邪魔はしないでしょ。そしたら誰も、たっくんを訪ねて来ないと思うし、安眠できるんじゃない?」
「…確かに」
 イケメン君とのあらぬ噂が立つかもしれないが、自分の身を守る事の方が重要だ。このままでは自分自身を守れない…行くしかないか。
「俺、その人のとこに行くわ」
「うん!そうしなよ!」
 楽しそうに言うイツキ…楽しんでるな。イツキは続けて言う。
「そうと決まれば、その彼を探さないといけないね。一緒に探すの手伝うよ!あ、僕の使い魔は持ったままでいいからね」
「…分かった」
 俺、本当になんで淫魔になったんだよ…。
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