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「いいんだよ?最終的にたっくんが元気になってくれるなら。ただ、調子が悪くなるギリギリまで我慢するのは、これで最後にしてほしいな」
「はい…」
俺は丸一日マサキの部屋に籠っていて、イツキは見計らったように、俺たちが落ち着いたタイミングで部屋にやって来ていた。
俺はずっとマサキとやっていたというのに、今までで一番元気になっていた。疲労はあるけれど、それは心地よい疲労で、頭もすっきりしている。なにより、身体的にも精神的にも満足感でいっぱいだった。
「たっくん。今までで一番調子が良さそうだね?」
「…分かる?ようやくコツを掴んだのかな…?」
「それは良かった。これなら今後も、無事に淫魔として生きていけそうだね」
「あ…うん…」
俺は隣でぐっすりと眠っているマサキを見た。
別にマサキと恋人になった訳ではない。俺が昨日マサキを求めたのは、やっと淫魔としての本能が働いたんだ…と思う。
俺はマサキが好きなのか?
寝ているマサキに手を伸ばすが、触れる直前で手を止める。そして俺はイツキを見た。イツキは不思議そうに俺を見ている。何度目かになるイツキのそんな表情を見て思い出した。
こいつらは悪魔で…俺はーーー違う。
昨日は淫魔として上手くいったみたいだけれど、なぜ上手くいったかもよく分かっていない。マサキがずっと俺だけを相手してくれるなんて思えないし、もしマサキが俺とやらなくなったとして…マサキ以外のやつとやっている自分が想像できない。
悪魔をやめられるのは、今日の満月の夜しかチャンスが無いのだ。だとすると…俺はやっぱりーーー。
「たっくん?」
黙り込んだ俺を、心配そうにイツキが声を掛けてくる。俺はなんでもないと言って、力なく微笑んだ。
「では、始めますね?」
「うん…」
俺は再び動き始めた人形の指示通りに、誰もいない学校の屋上に来ていた。空には今まで見たことが無いほど大きな赤い満月がある。
「タクミ様。これから魂の浄化を行います。それにより、タクミ様は悪魔ではなくなります」
「俺が悪魔でなくなる…元に戻るってことだよな?」
「本来の姿…魂になります」
魂…それは生き返るってことじゃなさそうだよな。けれど、俺は元々この世界で生きていけないんだ。マサキだけが頼りだなんて、きっとこの先もずっと続く訳じゃない。
ウサギの人形姿である天使は、ぎこちなく動き出し、白いチョークを支えて持ちながら、なにやら魔方陣の様なものを描き始めた。
魔方陣…俺は少しテンションが上がりながら天使の様子を見守る。見守りながら、俺はマサキの事を思い出した。
ここに来る前、どうやって一人で屋上へ行こうかと考えていたら、マサキから今日は部屋に戻らないと言われた。
昨日の俺…やっぱりまずかったのかな?
そう思い不安になっていると、マサキは俺の考えが伝わったのか、俺を抱き寄せてきたのだ。
「ちょ…マサキ?」
「タクミ…本当に大事な用事があるから…今日だけはごめん…。不安ならイツキを呼ぶ?」
「いや…別に大丈夫だけれど…」
「満月の夜は魔力も上がるし、色々と…都合が良いんだ…」
「ふーん…?」
「戻ったら…上手くいったらタクミに言いたい事があるから、待ってて」
「…っ」
俺は答えられずに黙っていると、マサキが強く俺を抱きしめる。
「ちょ、マサキ、力強いーーー」
「タクミ、昨日は淫魔として上手くいったんだよな?今、体調悪くないんだよな?」
「え?あ、うん。おかげさまで…ありがとう…」
淫魔として、という言葉でなぜか胃が重くなる。
「良かった…」
マサキは安心したように呟く。
こんなにマサキが俺の事を心配してくれるなんて思ってもみなかった。けれど、俺はこれから悪魔ではなくなる。こんな風に心配してくれているマサキに、俺はなんだか気まずくなる。
まさか最後の別れになるなんて思っていないだろうな…。
マサキは俺を抱き寄せながら目を合わせてきた。
「タクミ…俺がタクミの役に立てたのなら良かった」
「うん…ありがとう…」
俺は”今まで”という言葉をぐっと飲み込む。
そうして、マサキが部屋を出た後、俺は人形を握りしめ、屋上へと向かったのだった。
目の前で、段々と魔方陣が書き上がっていく。
とうとう完成するのだ。もしこのまま、俺がいきなり消えたらマサキは心配するだろうか?しばらくは心配してくれるかもしれないけれど…無表情なマサキを思い出し、そんなに心配する必要はない気がする。
マサキは俺としかやらないって言ってくれたけれど、それは俺に気を使ってくれての事だろうし…けれど、マサキの笑った様子や、俺を心配してくれた様子が思い出される。…深く考えるのはよそう。
そうだ、イツキはどうだろうか?イツキも心配してくれそうだ。けど、あいつの性格だと、案外すぐ俺の事なんて忘れそうな気もーーー。
俺は作業中の天使に声を掛けた。
「作業中に悪い。なぁ、遺書って訳じゃないけれど…置手紙的なのって書いてもいいのかな?」
「置手紙ですか?」
作業中の天使が動きを止めて俺の方を向いた。
「そう、世話になった二人にだけ…色々と助けてくれたし…心配するなって感じの事だけ簡単にーーー」
「悪魔相手に置手紙ですか?」
「変かな?」
「タクミ様、ここでの生活はどうでした?」
「むちゃくちゃだった。悪魔の価値観にひいてた」
「正直ですねー」
「だってさ…他人から精力もらわないと駄目な体ってどういう設定?誰だよそんなの考えた奴」
「その割には、今はとても調子が良さそうですね?この三日間で何かあったのですか?」
「あっと…いや…ちょっと最後に…淫魔として?本領が発揮できたというか?」
「そうなのですか?」
「うん。正直、最後に良い思いは…出来たと思う」
俺は昨日の事を思い出す。
「なんとまあ…。ならば、このままここでの生活を続けます?」
「え?なんで?」
「別に私としてはどちらでも構いませんよ?」
「えっ、そんなに軽いの?いや、今がたまたま調子良いだけで…ずっと調子が良い保証はないし…それにきっと…」
マサキはきっと、他の奴のところに行ってしまうんだ。そしたら俺は、また別のやつを探さなくちゃいけなくて…考えただけでぞっとする。
悪魔の言う事がどれだけ本気か分からないけれど、マサキが俺だけだと言ってくれたのは嬉しかった。きっとその安心感のようなものが、俺が初めて淫魔として上手くいった気がする。
黙り込む俺に、天使が声を掛けて来た。
「あの~タクミ様?僕はこのまま、作業を続けて良いんですよね?未練とかあります?」
「いや…別にない…けど…あいつがずっと傍にいてくれたら、なんとかこの世界でも生きていけそうな気がするんだけどな…」
「え~っと…タクミ様~?タクミ様は、マサキという悪魔の事がお好きなんですか?」
「…え…なっ!?違う違う!イツキにも似たようなこと言われたけど…なんで?そんな風に見える?」
「いやぁ~まぁ~。そーですねー…」
「好きというか…」
「彼がいれば、この世界でも生きていけるんですよね?タクミ様はその淫魔の体質が嫌なのでしょ?でもその悪魔がいれば問題ないのでは?」
「俺はーーー」
俺は、マサキがいればそれでいいのだろうか?マサキがずっと俺の傍にいてくれるなら、このまま淫魔としても生きていけるのだろうか?
俺はマサキがーーー好きなのか?
「…マサキは俺に優しかったし、初めて触れられて安心出来たかも…。ずっとこんな風に…誰かに抱きしめてもらいたかったのかもしれない…」
そこで俺は、ある事を思い出す。俺が悪魔になる前の、最後の記憶だ。
相変わらずはっきりと思い出してはいないけれど、唯一覚えていることがある。
「…あのさ、魂の浄化って…悪魔から魂になるだけ?それってさ…具体的にどうなるの?」
「悪魔の体から魂を取り出し、全ての記憶を消して、綺麗さっぱりになるのです」
「綺麗さっぱり…それってさ、今から死ぬようなもん?」
「死ではありません。タクミ様はすでに死なれていますので」
「…死んでる、か…」
「魂を取り出すとき、多少の痛みはありますが…」
「…」
俺は記憶をたどる。最後に覚えているのは、暗闇でずっと痛みとともに苦しんでいたことだ。
あれが俺の死だったのか?また同じことをするようなものか?どうして俺はあんな苦しみの中にいたのだろう?
ずっと一人で…。
「俺は…戻りたくないな…」
「タクミ様?」
「ずっと一人で苦しかったんだ…誰かに…助けてほしくて…」
次第に感情が昂っていく。暗くて辛い苦しみの中、ようやく解放されて…そして俺はこの世界で…淫魔になったんだ。
そして…初めて、俺はーーー。
「俺は今、生きているんだよな?俺はただ…暗闇に…あの痛みに、あの苦しみの中に戻りたくないんだ!」
そう声に出した瞬間、俺は息苦しさを感じた。
「え?…っ、はっ、はっ、…っ…」
パニックになり、上手く呼吸が出来なくなる。
「タクミ様!?どうされたのですか!?」
視界の隅で、天使が俺に近づいて来るが、俺はさらに呼吸が苦しくなり、その場に倒れ込んでしまう。
必死に呼吸しようとするが上手く出来ない。なんだかこの場で溺れているようだ。
「…っは、はっ…たす…けて…死に、たくなっ、っ…」
俺はただ…ただ死にたくないんだ!もう二度とあの苦しみを味わいたくない!あの苦しみから逃れられるのなら、俺はなんだってする!
俺は生きていたい…例え悪魔だろうと…淫魔だろうと!!!
もがき苦しむ俺の元に、誰かが立ったまま俺を見下ろしていた。俺は滲んだ視界と苦しさで、傍にいるのが誰だかはっきりと分からない。
その人物はしゃがみ込むと、俺を抱え仰向けにさせる。そして顔を近づけ、俺と口を合わせてゆっくりと空気を送ってきた。
俺は段々と呼吸が落ち着いていくのを感じる。
しばらくして、その人物は口を離して俺に尋ねる。
「どうする?このまま悪魔をやめるのか、それともーーー」
「…俺は…死にたくない…消えたくない…。魂になるのも嫌だ…。俺は生きたい。
たとえ…悪魔だとしても…。だから、お願いだからーーー」
「うんーーー」
そう言って、その人物は再び俺に顔を近づけてきた。
「はい…」
俺は丸一日マサキの部屋に籠っていて、イツキは見計らったように、俺たちが落ち着いたタイミングで部屋にやって来ていた。
俺はずっとマサキとやっていたというのに、今までで一番元気になっていた。疲労はあるけれど、それは心地よい疲労で、頭もすっきりしている。なにより、身体的にも精神的にも満足感でいっぱいだった。
「たっくん。今までで一番調子が良さそうだね?」
「…分かる?ようやくコツを掴んだのかな…?」
「それは良かった。これなら今後も、無事に淫魔として生きていけそうだね」
「あ…うん…」
俺は隣でぐっすりと眠っているマサキを見た。
別にマサキと恋人になった訳ではない。俺が昨日マサキを求めたのは、やっと淫魔としての本能が働いたんだ…と思う。
俺はマサキが好きなのか?
寝ているマサキに手を伸ばすが、触れる直前で手を止める。そして俺はイツキを見た。イツキは不思議そうに俺を見ている。何度目かになるイツキのそんな表情を見て思い出した。
こいつらは悪魔で…俺はーーー違う。
昨日は淫魔として上手くいったみたいだけれど、なぜ上手くいったかもよく分かっていない。マサキがずっと俺だけを相手してくれるなんて思えないし、もしマサキが俺とやらなくなったとして…マサキ以外のやつとやっている自分が想像できない。
悪魔をやめられるのは、今日の満月の夜しかチャンスが無いのだ。だとすると…俺はやっぱりーーー。
「たっくん?」
黙り込んだ俺を、心配そうにイツキが声を掛けてくる。俺はなんでもないと言って、力なく微笑んだ。
「では、始めますね?」
「うん…」
俺は再び動き始めた人形の指示通りに、誰もいない学校の屋上に来ていた。空には今まで見たことが無いほど大きな赤い満月がある。
「タクミ様。これから魂の浄化を行います。それにより、タクミ様は悪魔ではなくなります」
「俺が悪魔でなくなる…元に戻るってことだよな?」
「本来の姿…魂になります」
魂…それは生き返るってことじゃなさそうだよな。けれど、俺は元々この世界で生きていけないんだ。マサキだけが頼りだなんて、きっとこの先もずっと続く訳じゃない。
ウサギの人形姿である天使は、ぎこちなく動き出し、白いチョークを支えて持ちながら、なにやら魔方陣の様なものを描き始めた。
魔方陣…俺は少しテンションが上がりながら天使の様子を見守る。見守りながら、俺はマサキの事を思い出した。
ここに来る前、どうやって一人で屋上へ行こうかと考えていたら、マサキから今日は部屋に戻らないと言われた。
昨日の俺…やっぱりまずかったのかな?
そう思い不安になっていると、マサキは俺の考えが伝わったのか、俺を抱き寄せてきたのだ。
「ちょ…マサキ?」
「タクミ…本当に大事な用事があるから…今日だけはごめん…。不安ならイツキを呼ぶ?」
「いや…別に大丈夫だけれど…」
「満月の夜は魔力も上がるし、色々と…都合が良いんだ…」
「ふーん…?」
「戻ったら…上手くいったらタクミに言いたい事があるから、待ってて」
「…っ」
俺は答えられずに黙っていると、マサキが強く俺を抱きしめる。
「ちょ、マサキ、力強いーーー」
「タクミ、昨日は淫魔として上手くいったんだよな?今、体調悪くないんだよな?」
「え?あ、うん。おかげさまで…ありがとう…」
淫魔として、という言葉でなぜか胃が重くなる。
「良かった…」
マサキは安心したように呟く。
こんなにマサキが俺の事を心配してくれるなんて思ってもみなかった。けれど、俺はこれから悪魔ではなくなる。こんな風に心配してくれているマサキに、俺はなんだか気まずくなる。
まさか最後の別れになるなんて思っていないだろうな…。
マサキは俺を抱き寄せながら目を合わせてきた。
「タクミ…俺がタクミの役に立てたのなら良かった」
「うん…ありがとう…」
俺は”今まで”という言葉をぐっと飲み込む。
そうして、マサキが部屋を出た後、俺は人形を握りしめ、屋上へと向かったのだった。
目の前で、段々と魔方陣が書き上がっていく。
とうとう完成するのだ。もしこのまま、俺がいきなり消えたらマサキは心配するだろうか?しばらくは心配してくれるかもしれないけれど…無表情なマサキを思い出し、そんなに心配する必要はない気がする。
マサキは俺としかやらないって言ってくれたけれど、それは俺に気を使ってくれての事だろうし…けれど、マサキの笑った様子や、俺を心配してくれた様子が思い出される。…深く考えるのはよそう。
そうだ、イツキはどうだろうか?イツキも心配してくれそうだ。けど、あいつの性格だと、案外すぐ俺の事なんて忘れそうな気もーーー。
俺は作業中の天使に声を掛けた。
「作業中に悪い。なぁ、遺書って訳じゃないけれど…置手紙的なのって書いてもいいのかな?」
「置手紙ですか?」
作業中の天使が動きを止めて俺の方を向いた。
「そう、世話になった二人にだけ…色々と助けてくれたし…心配するなって感じの事だけ簡単にーーー」
「悪魔相手に置手紙ですか?」
「変かな?」
「タクミ様、ここでの生活はどうでした?」
「むちゃくちゃだった。悪魔の価値観にひいてた」
「正直ですねー」
「だってさ…他人から精力もらわないと駄目な体ってどういう設定?誰だよそんなの考えた奴」
「その割には、今はとても調子が良さそうですね?この三日間で何かあったのですか?」
「あっと…いや…ちょっと最後に…淫魔として?本領が発揮できたというか?」
「そうなのですか?」
「うん。正直、最後に良い思いは…出来たと思う」
俺は昨日の事を思い出す。
「なんとまあ…。ならば、このままここでの生活を続けます?」
「え?なんで?」
「別に私としてはどちらでも構いませんよ?」
「えっ、そんなに軽いの?いや、今がたまたま調子良いだけで…ずっと調子が良い保証はないし…それにきっと…」
マサキはきっと、他の奴のところに行ってしまうんだ。そしたら俺は、また別のやつを探さなくちゃいけなくて…考えただけでぞっとする。
悪魔の言う事がどれだけ本気か分からないけれど、マサキが俺だけだと言ってくれたのは嬉しかった。きっとその安心感のようなものが、俺が初めて淫魔として上手くいった気がする。
黙り込む俺に、天使が声を掛けて来た。
「あの~タクミ様?僕はこのまま、作業を続けて良いんですよね?未練とかあります?」
「いや…別にない…けど…あいつがずっと傍にいてくれたら、なんとかこの世界でも生きていけそうな気がするんだけどな…」
「え~っと…タクミ様~?タクミ様は、マサキという悪魔の事がお好きなんですか?」
「…え…なっ!?違う違う!イツキにも似たようなこと言われたけど…なんで?そんな風に見える?」
「いやぁ~まぁ~。そーですねー…」
「好きというか…」
「彼がいれば、この世界でも生きていけるんですよね?タクミ様はその淫魔の体質が嫌なのでしょ?でもその悪魔がいれば問題ないのでは?」
「俺はーーー」
俺は、マサキがいればそれでいいのだろうか?マサキがずっと俺の傍にいてくれるなら、このまま淫魔としても生きていけるのだろうか?
俺はマサキがーーー好きなのか?
「…マサキは俺に優しかったし、初めて触れられて安心出来たかも…。ずっとこんな風に…誰かに抱きしめてもらいたかったのかもしれない…」
そこで俺は、ある事を思い出す。俺が悪魔になる前の、最後の記憶だ。
相変わらずはっきりと思い出してはいないけれど、唯一覚えていることがある。
「…あのさ、魂の浄化って…悪魔から魂になるだけ?それってさ…具体的にどうなるの?」
「悪魔の体から魂を取り出し、全ての記憶を消して、綺麗さっぱりになるのです」
「綺麗さっぱり…それってさ、今から死ぬようなもん?」
「死ではありません。タクミ様はすでに死なれていますので」
「…死んでる、か…」
「魂を取り出すとき、多少の痛みはありますが…」
「…」
俺は記憶をたどる。最後に覚えているのは、暗闇でずっと痛みとともに苦しんでいたことだ。
あれが俺の死だったのか?また同じことをするようなものか?どうして俺はあんな苦しみの中にいたのだろう?
ずっと一人で…。
「俺は…戻りたくないな…」
「タクミ様?」
「ずっと一人で苦しかったんだ…誰かに…助けてほしくて…」
次第に感情が昂っていく。暗くて辛い苦しみの中、ようやく解放されて…そして俺はこの世界で…淫魔になったんだ。
そして…初めて、俺はーーー。
「俺は今、生きているんだよな?俺はただ…暗闇に…あの痛みに、あの苦しみの中に戻りたくないんだ!」
そう声に出した瞬間、俺は息苦しさを感じた。
「え?…っ、はっ、はっ、…っ…」
パニックになり、上手く呼吸が出来なくなる。
「タクミ様!?どうされたのですか!?」
視界の隅で、天使が俺に近づいて来るが、俺はさらに呼吸が苦しくなり、その場に倒れ込んでしまう。
必死に呼吸しようとするが上手く出来ない。なんだかこの場で溺れているようだ。
「…っは、はっ…たす…けて…死に、たくなっ、っ…」
俺はただ…ただ死にたくないんだ!もう二度とあの苦しみを味わいたくない!あの苦しみから逃れられるのなら、俺はなんだってする!
俺は生きていたい…例え悪魔だろうと…淫魔だろうと!!!
もがき苦しむ俺の元に、誰かが立ったまま俺を見下ろしていた。俺は滲んだ視界と苦しさで、傍にいるのが誰だかはっきりと分からない。
その人物はしゃがみ込むと、俺を抱え仰向けにさせる。そして顔を近づけ、俺と口を合わせてゆっくりと空気を送ってきた。
俺は段々と呼吸が落ち着いていくのを感じる。
しばらくして、その人物は口を離して俺に尋ねる。
「どうする?このまま悪魔をやめるのか、それともーーー」
「…俺は…死にたくない…消えたくない…。魂になるのも嫌だ…。俺は生きたい。
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「うんーーー」
そう言って、その人物は再び俺に顔を近づけてきた。
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